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シニアの金言

ついに私も退職

70歳女性

むしろ、“自由時間”が減った…

 ついに私も退職した。夫は先に勤めを終えていたけれど、私も勤務を辞め、いよいよ夫婦二人で1日中顔を突き合わせる生活が始まった。
 10年前、60歳の定年直前に会社の就業規則が変わった。65歳まで働く選択肢を与えられたが、ずっと働いてきた私は辞める気満々でいた。でも息子から一言、「続けられるなら続けたら?辞めたらボケるぞ」。
 (えぇ~?何、その言いぐさ。何てこと言うのよ!)と思ったけれど、いろいろ考えて働き続けることにした。
  「いつまで続けられるかわからないけれどよろしくお願いします」と会社に伝えた割に、65歳の定年のときには再雇用延長を選択。それから5年間、毎年1年ごとの延長雇用で週4日、一日5時間、パートで勤務を続けた。そして70歳になり、いよいよ退職した。
 夫はもうずっと家にいる。 趣味とか外出とかいろいろ提案していたけれど、本人はまったくその気にならない。ずっと家にいる。おかげで私は「夫の昼ご飯をどうするか問題」を抱えながら、70歳まで働いた。そして今、私も出社しなくなり、朝から晩まで同じ家で過ごすことになった。
 始まって4週間。もうしんどい…。1人で過ごす時間がほしい。
 何を食べるとか、何を買うとか、どこに行くとか、あるいは何にもしないとか。夫のことを考えずに、自分ひとりで決めたい。
 仕事でもボランティアでもなんでもいいから、出かける用事をつくらないと息が詰まる…。手芸仲間やジム仲間に相談しているが、今のところまだ見つからない…。

シニアの金言を読み解く

 仕事を辞めれば、自由な時間が増える。退職後の生活について、私たちはそう考えがちである。
 しかし、総務省の「令和3年社会生活基本調査」からは、男性と女性では、高齢期に増える時間の中身が少し異なっていることが見えてくる。
 同調査では、1日の行動を大きく三つに分けている。睡眠や食事など、生理的に必要な「1次活動」。仕事や家事、介護・看護、買い物など、義務的な性格の強い「2次活動」。そして、テレビ、休養、趣味、スポーツ、交際・付き合い、学習・自己啓発、社会参加活動などの「3次活動」である。3次活動は、いわば各人が自由に使える時間の中で行う活動である。
 年齢階級別に見ると、男性は65歳以降、仕事から離れる人が増えるのに伴い2次活動時間が減り、3次活動時間が大きく増えている。一方、女性も3次活動時間は増えるものの、男性ほどの増え方ではない。
 これは、仕事を辞めた後に増える時間が、男女で同じではない可能性を示している。
男性は仕事時間が減ると、その時間が休養や趣味などに移りやすい。一方、女性は仕事を辞めても、調理、掃除、洗濯、買い物、家族の世話などが残る。仕事という有償労働からは退いても、家の中の無償労働から退いたわけではない。
 もちろん、社会生活基本調査は、同じ人の退職前後を追跡した調査ではない。65歳を境に女性の自由時間が増えない、と断定できるものではない。また、高齢期にも働き続ける女性が増えていることや、配偶者の有無、家族構成、健康状態なども生活時間に影響する。
 それでも、仕事から離れる人が増える年齢になっても、女性の3次活動時間が男性ほど増えていないという違いは見逃せない。
 「金言」の女性の場合も、夫は既に退職し、家にいる。女性は働いていた頃から、「夫の昼ご飯をどうするか」は続いていた。そして自分も退職すると、出社という外出理由や職場の人とのつながり、夫と離れて過ごす時間まで、一度になくなった。
 家にいる時間は増えた。しかし、自分の好きなように使える時間が増えたとは感じられない。むしろ、毎日夫と一緒にいることで、時間の自由度が下がったように感じる。
 退職後の夫婦について、「二人で楽しめる趣味を持とう」「一緒に出かけよう」と提案されることは多い。しかし、必要なのは夫婦共通の予定だけだろうか。
 一緒に暮らしながら、それぞれに出かける先があること。夫婦以外の人と会う時間があること。家の中でも一人になれる場所があること。そして家事を、どちらか一方の仕事にしないこと。夫婦二人の生活には、「一緒に過ごす方法」と同じくらい、「別々に過ごせる方法」が必要なのかもしれない。
 高齢期に向けた商品やサービスも、夫婦一緒の利用だけを前提にせず、それぞれの時間をつくる視点を持ちたい。
 例えば、参加する曜日や頻度を自由に選べる仕事やボランティア。初めてでも、一人でも参加しやすい趣味や学びの場。目的が決まっていなくても立ち寄れる地域の居場所。退職前から仕事以外の人間関係をつくる機会。昼食を含め、家事の負担を軽くする商品やサービスなどが考えられる。
 長く働く人が増える中、退職準備として考えておきたいのは、お金や健康だけではない。仕事がなくなった後、自分の時間をどこで、誰と、どのように過ごすのか。夫婦それぞれが、自分の時間と居場所をどう持つのか。
 退職後の生活に必要なのは、空いた時間を埋める提案ではなく、本人が「自分の時間を取り戻せた」と感じられる提案なのではないだろうか。

※下記リンク先は、令和3年の社会生活基礎調査公表ページ

詳しくは

https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/index.html

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