67歳男性
(奈良国立博物館蔵「絵因果経」)
定年後の再雇用で働くようになって7年。体力には自信があるが、脳力はややこころもとなくなっている。40代、いや50代の前半まで、自分の老後のことは真剣に考えて来なかった。ましてや若い時はそんなことは微塵も考えたことはない。
しかし60歳の定年を迎え、仕事や年金をふくめた収入、健康や介護などさまざまな問題に直面して、初めて気付くことがいかに多いことか。特に仕事についてはITリテラシー、外国語、専門分野の知識…もっとしっかり身につけておけばよかったと、今になって思う。
会社に入った時の定年は55歳。多くの先輩を見送ったが、先輩のその後の人生に思いを馳せることはなかった。定年は60歳となり、更に70歳まで働くことが常識になろうとしている。OA化の時代が過ぎ、インターネットの登場・普及で仕事のやり方も大きく変わりつつある。
その変化の大きさにどうして気付かなかったのだろう。考えてみればビル・ゲイツは私より年下だ。スティーブン・ジョブスは私がのうのうと仕事をしている時にマックを発明していた。時代の巨人と比較しても仕方がないにしても、もっとやり方があったはずだ。
「今にして思えば…」である。これまでの人生が決して悪かったとは思わない。しかし現在の自分が見えていれば、もっと別の生き方があったかもしれない。
シニアマーケティングは高齢者相手だけのもの、という思われている方も多い。人は突然シニアにあるのではない。生まれたての赤ちゃんも、青春を謳歌する高校生も、働き盛りのサラリーマンも、いずれは高齢者になり、誰もが最期のときを迎える。
人生は決して後戻りできない「因果応報の絵巻物」のようなもの。人生の後ろは、人生の前につながっている。「若いときの努力や苦労」は必ず報われるということはない。しかしそれが後の人生に大きな影響を与えることは否めない。
「若い時にあれをやっておけばよかった、これを身につけておくべきだった…」、これまでのシニアの誰もが思ってきたこと。しかし寿命が伸び、余生が長くなり、若いときの学び、仕事を通じてのキャリア、人との出会いがますます大切になってきている。
人生のうち働く期間をマラソンに例えれば、これまでの42.2キロの走り方やペース配分では後半、息切れしてしまう。ちなみに定年の60歳が、昨今話題になっている70歳になれば働く期間は49.2キロになる。やっとゴールと思って着いたら、本当のゴールはまだ7キロも先。しかも最後に7キロプラスとなれば、きついのはマラソンも人生も同じである。
70歳定年時代は確実にやって来る。だからこそ、シニアのスコープで人生の前の部分を見て、その時、その時をどのように過ごすべきかを考える必要がある。特に30代、40代の働き盛り世代にとって大切なことだろう。
国は公務員の定年を65歳に引き上げるべく年内に法改正案を提出すると報道されている。それによると50代から徐々に給与水準が抑制されるという。30歳から50歳代で老後に不安を感じている人は8割を超えている。この世代が不安を感じる理由(複数回答)で最も多いのは「健康」71%、次いで「経済面」が69%とい調査結果も出ている(日本経済新聞2018年10~11月の調査による)。
自分が70歳になったとき、自分や取り巻く社会のことを想像して、今何が必要かを考えることは無駄ではない。30代、40代をシニアのスコープで見たとき、そこに大きなビジネスチャンスが現われて来る。
・学び-専門性の深化や新しいキャリアを得るための知識、技術の習得
・投資-老後の備えや起業に向けた資産形成のため
・人材-人と仕事のマッチング。社内転職のサポートも
・保険-人生の転機を金銭的にサポートしてくれる仕組み
・健康(フィジカル)-70歳まで働くための身体づくり
・健康(メンタル)-働くことに前向きな状態を維持できるメンタル
・ネットワーク-公私共にシニアになる前からのネットワーク作り
などの分野で新しいビジネス、これまでのモデルの見直しが考えられるだろう。
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