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シニアの金言

ゴールが遠い

61歳男性

「なぜ働くのか」という「哲学」が必要だ。

 私が学校を出て就職した1980年、多くの企業の定年は55歳。つまり、就職した時に見えていたゴールは55歳だった。次に私が40歳のとき、サラリーマンとしてのゴールが60歳になった。

 さらに、2012年には私の努めている会社も雇用延長で65歳まで勤務可能になった。これでゴールはさらに遠のき65歳。年金支給開始も63歳に繰り延べられた。ゴールは更に遠くなり70歳になろうとしている。

 55歳で役職定年となり、それまでの部署から異動して定年を迎えた。定年後は継続雇用を選択、身分は嘱託という非正規、給料も半分以下になった。今の仕事に特段不満はないが、正直、やりがいもあまり感じない。ただ、周りの人達が好意的に接してくれるのがありがたい。雇用延長で働く高齢者に周りが冷たく、やめていった同僚もいるから恵まれているのかもしれない。

 高齢者の就労の機会が確保されるのは悪いことではないと思う。働けるのに、働きたいのに年齢のせいだけでその機会が奪われるのは理不尽だ。一方、「働く」とは「はたを楽にすること」といわれ、家族や周りの為に働き続け、ようやくゴールが見えてきたと思ったら、またゴールが遠のく。仕事のストレスから開放されて、好きなことをして過ごしたいのに…そう感じている同世代も多いと思う。

 今の仕事が、会社が嫌なら転職、起業という手もあるが、言うほど簡単ではない。そこで私の希望とこれまでに積んできたスキルや人生経験を聞いて、仕事をマッチングしてくれるサービスが有ると嬉しい。もうすぐ年金を満額受け取れる。70歳まで働くにしても、後10年足らず。働きがいのある仕事をしながら、笑顔でゴールテープを切りたいものだ。

シニアの金言を読み解く

 多くの企業の定年が55歳だった1980年の平均寿命は男性73.35歳、女性78.76歳。当時、65歳以上で働いていたのは全体の4.9%に過ぎなかった。寿命の伸びとともに定年延長の論議が盛んになり、1986年に「高年齢者等の雇用安定等に関する法律」が改正される。60歳定年が努力義務になり、1994年の改正で60歳未満定年制が禁止(1998年施行)された。昔から「定年は60歳」と思っている方も多いが、定年が60歳になったのはそんなに昔の話ではない。ちなみに1995年に65歳以上で働いていたのは全体の6.7%だった。

 さらに、2000年には65歳までの雇用確保が努力義務化される。2004年に65歳までの雇用確保措置の段階的義務化、2012年には希望する労働者全員を65歳まで継続雇用することが企業の義務となった。合わせて年金の支給開始年齢が引き上げられる。

 平均寿命が男性81.25歳、女性87.32歳となった今年(2019年)5月、政府は希望する高齢者が70歳まで働けるようにするための高年齢者雇用安定法改正案の骨格を発表した。企業は70歳まで定年を延長するだけでなく、他企業への再就職の実現や起業支援も努力義務として取り組まなければならなくなる。2018年には65歳以上でも働いているのは全体の12.8%に達する。1980年の2倍以上である。

 制度だけではなく、高齢者の就業意欲も高まってきた。内閣府の平成26年の調査によると、現在60歳以上の就業者の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答している。70歳くらいまでもしくはそれ以上との回答と合計すれば、約8割が高齢になっても働きたい(もしくは働かざるを得ない)と考えている事がわかる。

 マラソンにたとえればわかりやすい。就職した時に見えていた55歳のゴールは42.2km、それが70歳のゴールになれば、53.7km、11.5kmも先になってしまう。そこまで走れるのかと捉えるのか、そこまで走らないといけないのか、と捉えるのでは人それぞれである。

 加齢の心身に及ぼす影響は個人差が大きい。周りには80歳を超えても元気に働ける人もいれば、病気や障害、さまざまな理由で70歳まで働くのはキツイ人もいる。前向きにバリバリ働いている人もいる一方、役職定年後の配置転換やデジタル・ディバイドのせいで仕事になじまず苦しんでいる人もいる。

 また蓄えのある人、ない人、働かなくとも収入のある人、ない人、年金がたっぷりある人、ない人、高齢になるほど資産の格差は大きくなる。豊かな暮らしをしながら余裕を持って働く人と、貧しくギリギリの生活をしながらキツイ仕事で働く人。同じ「働く」といっても大きな差がある。

 寿命が伸びたから、定年を繰り上げたらよい、というのは単純すぎる。高齢者の就労を考えるときには「なぜ働くのか」という「哲学」が必要だ。

 マーケターは高齢者個々が「なぜ働く」のかを理解した上で、高齢者と仕事のマッチング、能力開発や老化防止などさまざまな就労支援を考える必要がある。ここでも「高齢者をまとめて考えてはならない」というシニアマーケティングの基本は変わらない。そうすることで多くの就労高齢者が感じている「遠いゴール」を「働き続ける喜び」に変える事ができる。

詳しくは

https://nspc.jp/senior/archives/8842/

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