シニアの金言
調理定年させていただきます
72歳女性
高齢での家事負担軽減に大きなビジネスチャンス
私には「しなくてはいけないこと」がある。朝昼晩の食事作りである。結婚して45年。専業主婦として、自分一人でやってきた。私がしなくて誰がやる。人間は食べなければいけない。だから夫は定年になっても、私は「したくない」食事作りをしなくてはいけない。私も「したいことだけ」をしたい。もう人生の終盤なのだから。
夫は「したいことだけ」をやっている。私は「しなくてはいけないこと」もやっている。多分施設にお世話になるまで。そうなったら、当然食事作りから解放されるが、同時に「したいこと」もできなくなる。「いやだ」とモヤモヤうつうつしていたら、ある日、1つの言葉を聞いた。
「調理定年」。そうか! 仕事は「しなくていけないこと」の代表である。でも当然のように定年がある。それなら主婦にとって「しなくてはいけないこと」の代表である調理にも定年があっていい、という流れである。調理担当ワンマン社長を定年したらいいのか。
家の食事は自分で作らなければいけないと頑なに思ってきた。「手作り信仰」という言葉もあった。でも「調理定年」は私にささやいた。
「作りたくなければ、コンビニやデパ地下で買って来たらいい。お惣菜を買うことにうしろめたさを感じなくてもいい。仕事をしなくなった夫に任せるのもいい。長い間、調理をご苦労さま、ご主人の定年と一緒に調理担当も定年してくださいね」と。
シニアの金言を読み解く
高齢女性の「調理定年」を支えているのは宅配を含む調理済食品とコンビニエンスストア(以下コンビニ)の存在はもちろんだが、高齢男子料理教室など男性の参戦を促す仕組みも整いつつある。
高齢化はもちろん共働き世帯や単身世帯の増加から、弁当や惣菜など調理済食品を買って家や職場などで食べる「中食」需要は拡大が続いている。2022年の惣菜市場(調理冷凍食品やレトルト食品は含まない)の規模は10兆4652億円。一時コロナ禍で需要が落ち込んだが、21年、22年と続けて3%以上成長し、コロナ禍前の水準に回復している((一社)日本惣菜協会『2023年版惣菜白書』より)。
コンビニはすでに社会インフラである。遠くまで出歩くことが難しい、重いものが運べないなど、高齢者の買い物には制限が多い。その点コンビニは高齢者にとって「近くて便利」「いつでも買える」メリットがある。コンビニというとCMや品揃えから若い世代の利用が多いイメージではあるが、高齢者の利用も多い。株式会社セブン&アイ・ホールディングス「コーポレートアウトライン 2022年度版」にある来店客調査によると、年代別で20歳代、30歳代を加えた割合(34.0%)より50歳以上ほうが多い(36.0%)※グラフ(1)参照。品揃えでもちょっと高めの惣菜など高齢者を意識したものの充実を図っている。(一社)日本惣菜協会「2023年版惣菜白書」によると惣菜が最も買われているのは食品スーパー(29.4%)ではなくコンビニ(31.3%)である※グラフ(2)参照。
コンビニ、コインランドリー、食品デリバリーサービス、惣菜やさまざまな調理済食品、そして新しい食材…。高齢者にとってより便利な新しいサービスや商品によって、高齢者の生活スタイルや食生活がどんどん様変わりしているのである。
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