シニアの金言
免許が返せない
76歳男性
高齢者のモビリティ確保が課題
自動運転の早期普及を
高齢者が加害書となる事故が続いていてこわい。一昨年(令和元年)の87歳の男性が、東京 池袋で車を暴走させ、母親と子どもを死亡させた事故は衝撃だった。加害者の年齢が私の10歳ちかく上とはいえ、他人ごとではない。「高齢者は交通弱者」といわれる。しかし、この年になれば、もちろん交通事故にあうのはごめんだが、人をはねるよりは、人にはねられた方がずっとまし。ましてや子どもを巻き込んでしまったら思うと、ぞっとする。
つい最近も「免許返納を考えている」高齢者が、そのさなかに、重大事故を起こしてしまったことが報じられた。私もそろそろ「免許返納」が頭をよぎる。都会に出ている子どもたちからも「車の運転は、大丈夫?」と聞かれる。さすがに子供たちはこの土地の交通事情をよく知っているので、「すぐに免許を返せ」とは言わない。
スピードを出すわけではないし、飲酒運転ももってのほかの模範ドライバーだと自負しているが、先日、通り慣れているはずの狭い道で車を電柱に当ててしまった。幸い、車に少し傷がついただけで済んだが、「ヒヤリハット」が重なると重大事故につながると聞く。
しかし、加齢による障害で歩くのがつらい。買い物、病院通い、ちょっとした用事、全て車がないとできない。妻も免許を持っているが、「こわい」といってもう十年以上も運転したことがない。家の近くを通っていた路線バスはずっと前に廃止になった。
ドライブは大好きだが、我慢しよう。でも、免許を返すと生活が成り立たない。「免許を返したいが、返せない」のだ。
シニアの金言を読み解く
池袋の事故を契機に免許返納が進んだことは事実である。返納件数も平成23年は72,735件であったが、事故のあった令和元年には601,022件、昨年の令和2年には552,381件となっている(警視庁「運転免許統計」令和2年版より)。しかし高齢者の増加により、75歳以上の免許保有者数は返納者を上回り増加している。平成26年末の約447万人から、令和元年末には約583万人まで増加し、令和6年末には約760万人になると予測されている。
高齢者の返納が進まない大きな理由は、高齢者のモビリティの確保が難しい現状がある。大都市圏では公共交通機関はまだ維持されているが、地方ではどんどん状況は厳しくなっている。とくに身近な足となる路線バス事業者の全国の約7割の事業者が赤字。2007年度以降で13,991kmが廃止。これは、全国のバス路線合計約40万kmの3.5%程度に相当する(国土交通省「地域交通をめぐる現状と課題」による)。地方では、高齢者が自ら運転する車に頼らざる得ない状況が見えてくる。
また、地方、都会関係なく「行きたいところに自由に行ける」ことは人の基本的な権利である。自動車を利用しないと思うように移動できない高齢者にとっては、免許の返納強要はその権利を奪うことにつながる。
一方、自動車メーカーや経済産業省は事故を高齢者に事故を減らす一助として、衝突被害軽減ブレーキなどの技術でドライバーの安全運転を支援する「セフティ・サポートカー(サポカー)」の普及に取り組んでいる。その結果、令和2年までに緊急自動ブレーキの新車搭載率を9割以上とする政府目標に対して、国内販売に占める同装置の新車搭載率ほぼ9割に達している(日刊自動車新聞4月22日掲載記事より)。
さらに、人が運転する必要のない自動運転の開発が進んでおり、現在は「レビル3(特定条件下における自動運転)」が実現している。近い将来には「レベル5(完全自動運転)」で高齢者も安心して、自分のゆきたいところに移動できる時代が来るだろう。ますます、高齢化が進む我が国のみならず世界的な需要が期待できる、大きなパラダイムシフトになる。
※上記のグラフは経済産業省「サポカー(安全運転サポート車)」啓もうサイトより
以下の「交通安全白書(平成29年版)」の特集「高齢者に係る交通事故防止」を参照されたい(外部サイトへ移動)
詳しくは
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/pdf/zenbun/h28-00-special-01.pdf
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