前稿では、主に施設や都市インフラのバリアフリー化をどう評価しているかを見てきた。翻って本稿では、メディアの音声や紙面と言った主にソフトウェアのバリアフリー化意識を見て行くことにする。
評価の対象となっているのは計8つの項目。即ち、
①テレビ等の字幕放送・解説放送
②ホームページ等の構成・音声情報等
③新聞・雑誌・書籍等の文字・図・紙面構成等
④パソコン・携帯電話等通信機器の形状や操作性
⑤家電製品の形状や操作性
⑥日用雑貨・家具等の形状や操作性
⑦情報通信機器の取扱説明書
⑧家電製品の取扱説明書
それぞれの評価実態を明らかにするとともに、情報に関する5つの項目については、年代ごとの差異を明らかにして見て行くことにする。
きわめて大括りに述べると、テレビ放送のバリアフリー化は概ね「進んだ」と評価された。一方、情報通信機器や家電製品の取扱説明書は、バリアフリーという点では、低い評価に甘んじる結果となった。
個別の評価はともかく、情報や製品と言った分野でのバリアフリーの評価は建物やインフラといったハード面のバリアフリー化に比べて総じて低い評価に甘んじた。(図1.)
それでは、個別の項目の年代ごとの差異を見て行くことにしよう。
図2.の「テレビ等の字幕や解説放送」は総じてスコアが高く、40歳以上の中高年の年代はなべて50%以上が「進んだ」と評価している。年代が上がるにつれて評価が高まるのもこの項目に顕著な傾向とも言える。
Webサイトのバリアフリーは、ある程度評価はされているものの、テレビにはまだ及ばない。(図3.)すべての年代で「進んだ」と意識している人は過半数に及ばない。この項目では、年代による格差はほとんど見られない。テレビのように高齢なるほどその恩恵を肌で感じる人が少なくなるせいでもあろう。
意外なのが、新聞・雑誌等、紙媒体のバリアフリーの評価。(図4.) Webに比べてなお、全般的に評価が低い。ただ、この媒体は延々と文字組や書体を始めとした読みやすさをを追求しており、5年ほどでは目覚ましい進歩と感じられなかったのかもしれない。
50歳代の評価が最も低いのも、この項目の特徴として挙げられる。加齢による身体の変化と直面する年代だけに、バリアフリーに対する要求水準が高くなる、ということもあるだろう。
最後に、「わかりにくい」「読みにくい」と頻繁に槍玉に挙げられることが多い取扱説明書のバリアフリー化についての意識を見てみよう。
図5.は情報通信機器、図6.は家電製品の取説についての意識である。
図1.で明らかになったように、「取扱説明書のバリアフリー化」は最も進んでいないと見なされる項目である。情報通信機器と家電製品、どちらにしても「進んだ」と思っている人はテレビ放送の約4割にとどまっている。
年代間で見れば、高齢になればなるほど、「進んだ」と感じる人は少なくなっている。文字の小ささや文字組の見にくさなど、加齢による眼の働きの低下がこの結果に如実に表れていると言えよう。
取扱説明書は、製品の原価の中に包含される場合が多いので、どうしてもコストを優先しがちになる。また、法令の問題もあり、免責事項などに多くのページを割かねばならない事情もある。
だが、製品の一部との見方をすれば、その品質を向上させることはハード同様に必要だろう。それが困難なら、補助的な販促ツールなどで補うことも選択肢に加えてよいかもしれない。
以上2回にわたって、様々な事物のバリアフリー化への意識の変化を俯瞰してみた。
その結果は一言で言えば「ハード先行、ソフト遅滞」である。とくに紙媒体においてはストレスなくシニアに読みやすく、わかりやすい紙面づくりを心がけることが大切である。
さもなければシニア選択的消費の候補から、真っ先に外されることになる。そしてその改良は、ハードほどの投資を決して必要としないはずだ。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年10月11日
2024年5月22日
2023年9月26日