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「シニアが牽引するボランティア」のウソ、ホント(下)

(中から続く)
シニアのボランティアと言えば、地域密着のまちづくりや地域の安全の担保活動というイメージがすぐに頭に浮かぶことだろう。それらの活動とシニア層の寄与度はどうなのかを見てゆこう。まずは、「まちづくりのための活動」から。(図7.)

ご他聞に漏れず、ここでも35~49歳の中年世代の退潮が甚だしい。2001年に比べ2016年は、35~39歳で7%、40~44歳で7.2%、45~49歳で5.2%と減り幅が大きい。一方シニア世代は、60~64歳で2.2%、65~69歳で2.8%、70歳以上でも36.3%と総じて減り幅は少なくなっている。100人のボランティア組織で、40歳代が7人抜け、60歳代が2人抜けたようなものだ。
2001年、2006年の調査では、40歳代前半と60歳代後半がツインピークを形成し、「まちづくり」活動を担ってきた。ところが、2011年以降は若い方のピークは姿を消し、55~69歳の年齢層が、この活動を牽引するような形に波形が様変わりしてきている。

図8.は「安全な生活のための活動」の年齢階級別推移。傾向としては「まちづくりのための活動」とよく似ている。時系列的に言えば、「35~49歳の活動の衰退と、それに伴う高齢者のプレゼンスの高まり」だ。2001年時点では40歳代前半が、強力な牽引役を果していた。高齢になればなるほど、その行動者率は低下していたのだ。
ところが、2006年時点ではシニア世代も着実に台頭。40歳代前半と60歳代後半のツインピークの状態を迎える。2016年に至ってもその状態を維持している。そして、60歳以上ではすべての年齢階級において、2001~2016年の行動者率は確実に上昇し続けている。

最後に少し毛色を変えて「自然や環境を守るための活動」を見てゆこう。
この活動は最も衰退の著しい分野と言って良いだろう。すべての年齢階級において、調査を重ねるごとに行動者率は低下している。他の分野で気を吐いていたシニア世代もその例外ではない。しかしながら、直近の2016年時点では、他の年齢階級の落ち込みも手伝って、60~64歳の年齢階級が活動を牽引する形を作っている。

以上、3回にわたって仔細に見てきたが、まとめると以下のようになろう。
①過去15年間にわたって、ボランティア行動者率は概ね減少し続けている
②その減少度合いはボランティア活動を牽引してきた35~49歳の年齢階級でことに著しい
③シニア世代、高齢者層の行動者率は、横ばいあるいは増加。減ったとしても微減にとどまる
④2016年時点で、全年齢階級の内行動者率のトップは概ね、60~64歳の年齢階級である
⑤「まちづくり」「安全」に関わる分野におけるシニアのプレゼンスはことに大きい

「シニア世代=ボランティア」という印象は、上記の④、⑤により、ある意味では正しい。しかしながら、そのプレゼンスは、比較的若い世代のボランティア離れによる相対的なものに過ぎない。調査の設問が「過去一年に活動したことがあるか?」なら、数字はもっとことなるだろう。だが、「調査当日に活動したか?」を問うこの調査は、日常的な蓋然性が如実に現れる。つまり、「お試し」などを排除した、より現実に近い結果になると思う。

では、今後、シニアのボランティア活動はどうなるのだろうか? 本稿の(上)、冒頭の部分で触れたように、基本的には「活動している人、阻害要因(時間や体力等)により活動できていない人、活動する意思のない人が、それぞれ、3割・5割・2割」この『黄金比』は変わらないと思う。むしろ、5割の阻害要因を抱える人が増加し、6割、7割に近くなってゆくと思う。ワーキングシニアの急増が大きな理由である。

それよりももっと重要なのが、35~49歳の活動人口の減少だ。15から20年後、この人たちがシニア世代に差し掛かって、急にボランティア意欲が増すとは思えない。そうなると、辛うじてシニア世代に支えられてきた活動そのものが危殆に瀕することになりかねない。

解決策の一つは「ワーク」と「ボランティア」をどう結びつけるかにあると思う。程度の差こそあれ、ボランティアは、「ノブレス・オブリージュ」の思想を背景にしている。それはそれで尊いことだが、世の中性善説だけでは回っていかない。民間企業が利益を出しつつ、ボランティアに支えられてきた活動に乗り出す…。という発想が必要ではないだろうか?

株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男