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75歳が分岐点か? 年齢階級別に見たシニアの趣味人口(上)

 シニアの趣味・娯楽と聞いて、思い浮かぶものは何だろう? カラオケ?、庭いじり?、囲碁・将棋? その人口を提示してくれるのが、総務省の社会生活基本調査だ。本稿では、2021年(令和3年)のデータから、30種類の趣味・娯楽人口を年齢階級別に抜き出してグラフ化を試みた。(あまりに人口の少ないものは割愛した。)

そこから見えてきたのは、多くの趣味・娯楽人口が、75歳を境に急減しているということだ。もっとも、団塊の世代を除けば、年齢階級が上がるほどサンプル母集団が小さくなる。このことを考慮して、母集団全体に占める行動者率もグラフに並記した。その結果、母集団(総数)の大小と、行動者数の多寡には必ずしも相関関係があるわけではないことも見えてきた。因みに、趣味・娯楽のカテゴリーからは運動やスポーツは省略されている(別カテゴリーで集計されている)。

 上の表は、趣味・娯楽の年齢階級別分布の傾向を大きく3つに分類したものだ。グラフの波形から、筆者が、大まかなイメージで分類したもので、厳密なルールに基づく区分ではない。それでも、大まかな傾向はつかみ取ることができると思う。

 3つの分類とは、A.75歳を境目に、それぞれの人口が急激に落ち込むタイプの趣味・娯楽で、このパターンが大勢を占めている。B.は75歳を境目に落ち込みはするものの、極端な現象ではないものを指す。C.は、75歳が節目にならない趣味・娯楽で、高齢になるほど人口が多くなるものも、便宜的に含めている。まずは、Aパターンの趣味・娯楽から見てゆこう。

  図1.は、スポーツ観戦。メディアを通じた観戦ではなく、スタジアムなどに実際に足を運んだ人口になる。60歳から74歳では、80万人程度いた観戦人口が75~79歳でほぼ半減し、その上も、大きな落差になっている。ただ、行動者率で見れば、行動者数ほどは大きく落ち込むには至っていない。

 図2.は、美術鑑賞。これも実際に美術館等に足を運んで…が、条件となる。実数では70~74歳の年齢階級が最も多いが、人口ボリュウムによるもので、行動者率は、60歳代の後塵を拝している。行動者数は少ないものの、75~84歳も率の上では、健闘している。

 図3.は映画館での映画鑑賞。図1.や図2.と同様、外出を伴う趣味・娯楽活動だ。年齢階級と行動者数の間には、きれいな逆相関関係がある。即ち、年齢階級が上がるほど、行動者数、行動者率はともに減っている。

 テレビやDVDなどでの、映画鑑賞(図4.)は、外出を伴わないこともあって、80歳以上にあっても、その行動者数は映画館での鑑賞よりはるかに多い。もっとも、60歳代の行動者数も多いことから、結果として、同じ波形のグラフになっている。室内での趣味でも、70歳代の半ばでキャズムができていることも同様だ。

 コンサートに出かけての音楽鑑賞(図5.)は、70歳代の前半と後半で、際立ったキャズムがあるわけではない。行動者率では、両者はほぼ拮抗している。ところが、必ずしも外出を伴うわけではない、CDやスマホによる音楽鑑賞(図6.)では、両者の間のキャズムは深い。行動者率も、大きく下がっている。やはり75歳近辺が、デジタルデバイドのボーダーなのかもしれない。

楽器の演奏(図7.)も75歳近辺で深いキャズムのある趣味・娯楽項目だ。60歳から74歳までは、近しい行動者数だが、75歳以上になると、年齢階級が上がるほど、大きく減っている。

 料理・お菓子つくり(図8.)も同様で、75歳近辺でのキャズムが深い。60~74歳の行動者数はほぼ等しいが、75歳を境に急激に減少するのも、Aタイプの典型的なパターンだ。

 日曜大工(図9.)もAタイプの典型的なパターン。グラフの波形から見ると、そんなに変化はないように見えるが、行動者数が多く、目盛りが大きいにすぎない。行動者率から見れば、70歳代までは15%以上をキープしているが、80歳以上になると俄然低くなってくる。

シニアの趣味の代表選手のように思われている写真撮影(図10.)だが、行動者数ではまだ高齢者の域に入らない60~64歳が最も多い。行動者率も60歳代の2つの年齢階級で20%を超える。70~74歳の年齢階級も60歳代と並んで120万人を超える行動者数だが、行動者率は意外に低い。

 図11.は、マンガを読む人口を年齢階級別に見たもの。年齢階級と人口が見事な逆相関を示している。行動者率で見ると、60~64歳の22.4%が、85歳以上になるとわずか1.7%にまで減少している。同じシニア世代と言っても、年齢層によってこれほどまでに違いが出る趣味・娯楽も珍しい。

パチンコ(図12.)も、年齢階級間の格差が著しい。とは言え、マンガと異なり、「若い」3つの年齢階級では、行動者数、行動者率ともにほぼ同等の数字になっている。

 マンガ(図11.)と同様の波形を示したのが、スマホやゲーム機などによるゲーム(図13.)。デジタルに親しんできたかどうかで、行動者数も行動者率も大きく異なる結果となった。

 遊園地や動物園などの見物(図14.)も75歳以上の年齢階級で激減する。外出が億劫になるという理由が一番だろうが、案外孫の年齢に影響を受けることが大きいのかもしれない。

 Aパターンの最後の趣味・娯楽がキャンプ(図15.)。本格的なアウトドアだけに、シニアの行動者数、行動者率ともに低位であるもの、年齢階級が上がるほど数値は減少している。行動者率で見れば60~64歳では1000人中34人だったものが、85歳以上では何と1000人に1人。非常にレアな趣味・娯楽項目となった。(中に続く)

   株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男