“楽しい”は運動や外出、学びや交流を「努力する」から「行きたい/やりたい」に変えるスイッチであり、継続の燃料。その設計・開発は高齢者施策において欠かせない。
介護現場におけるレクリエーション開発やシニアディスコの運営に携わる方々をお招きして開催した、“楽しい”をテーマにトークセッションのレポート第2弾。(第1弾はこちら)

【トークセッション参加者】五十音順
佐々木 さやか氏:はる社会福祉士事務所 代表。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネージャー。老人ホームの介護員、地域包括支援センター相談員を経て現職。近鉄文化サロン、NHK文化センター「かしこい老人ホームの選び方講座」「おひとりさま終活講座」、現役世代向けセミナー「仕事と介護の両立講座」講師。「シニアディスコを広める会」主催者の一人。
西原 弓恵氏:BCC株式会社ヘルスケアビジネスカンパニー 介護レクリエーション事業マネージャー。レクリエーション介護士資格制度立ち上げ1年後より運営に参画し、約10年間にわたり制度運営の中核として従事。上位資格である1級にも携わり、マスター資格は立ち上げ段階から主導。制度設計および運営体制の構築を推進し、制度の質の向上に取り組んでいる。
松尾 純子氏:一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会 名誉理事、レクリエーション介護士 公認講師。元 流通科学大学 教授・武庫川女子大学 非常勤講師。親子体操から高齢者・障がい者に至るまで、幅広い層の対象者とともにあらゆる種類のダンス指導に携わり、なかでもエアロビックダンス、高齢者の健康体操は長い指導経験を持つ。いずれもテーマは『健康』『楽しく続ける』『仲間づくり』』。
※レクリエーション介護士とは:
自分の趣味・特技を活かしながら、アイデアや着眼点によって、高齢者に喜ばれるレクリエーションを提供できる人材。一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会が公式に発行している民間資格で、資格取得者は、2026年2月末現在、4万人を超えている。
“みんなと”に、こだわらない
個別化と選べる「楽しさ」
佐々木氏:社会福祉協議会で働いていた当時、地域活動を行っている方々のサポートをしていました。主催者はみなさん、「活動に来てほしい」「盛り上げたい」っておっしゃっていました。でも「なぜ来てくれないか」というところには、言及されない。それで私なりにヒアリングをして、分析してみました。

主催されている方々は最近でいう「陽キャ」です。コミュニケーションが上手で、人と喋って、仲良くなることを「良し」としている。でも来ない方にインタビューすると、「喋りたくない」、「その活動に興味はあるけれど、行ったら喋りかけられる。正直、放っておいてほしい」とおっしゃるんですね。仲良くなることを前提としている空気があるところに行きたくない人は、一定数おられます。理由の一つは、地域で揉めた場合、逃げ場がないこと。あえて接触しないことを選んでいる方たちが、いらっしゃいます。それから多様化ですよね。高齢者も多様化しています。なので、この人たちが楽しめることってなんだろう、と考えました。
ヒントは団塊の世代の女性からの意見でした。「地域でやっている体操サークルって全員同じ動きをして、何だか民謡っぽい。私も年寄りだけど、そんな年寄り臭いことをしたくない。昔の高齢者が楽しんだものは楽しくない。かっこよく踊る場だったら行きたい」と。

佐々木氏:「喋らなくていい」、「かっこいい自分でいられる」この 2つの要素が合わさっているものは、ディスコだな、と思って立ち上げました。実際、多くの方が一人で来られます。もちろんシニアディスコの中で仲良くなる方たちもいらっしゃいますが、あっさりしています。わーっと踊って汗をかいて、また今度ねっていう感じ。そのあっさり具合が普通の地域活動にはない。地域活動ではすぐに「お茶しましょう」「みんなでテーブル囲もう」となりますが、シニアディスコではどこの誰かお互いに知らない。他府県から来ている場合もあります。わからない者同志だけど、踊っている瞬間だけは共鳴し合う。このパワーが見ていてものすごく嬉しくて、面白くて、魅力的で、だからいろいろなメディアから取材を受けているのだと思います。
地域活動に行かない方も楽しめる。もちろん行っている方も楽しんでいる。これが他にはない楽しさなのだろうなと自負しています。
“寄り添う”より大切
高齢者も“楽しい”から動く
松尾氏:私 、1回参加したいです。どうやって申し込めますか?
佐々木氏:LINEで申し込んでいただいています。以前は先着順にしていたのですが 1時間経たずに完売してしまって…。打つのが早い人が有利になってしまうので、今は申し込み期間を長く取って抽選にしています。
松尾氏:LINEだと高齢者には、やっぱりハードルが高いです。

佐々木氏:私も長年高齢者と接しておりますので、ハードルは認識しております。一方で、イベント自体はほぼ収益なく運営しておりますので、主催者側としてはコストというか、手間を省かないと継続できません。私たち主催者は 3人いますが、極力手間がかからない方法を選んで“継続”を目標にやっています。
意外と90代の方でも、LINEで申し込んでこられます。私も福祉の人間なので、“無料にしたら”、とか“電話受付にしたら”、とか高齢者に寄り添ったことを考えましたけれども、それだと継続が難しい。寄り添って手間をかける運営をして、途中で終わっていった活動を数多く見てきています。なので“寄り添いすぎない”、継続できる方法で運営をしています。
進行:なるほど。より多くの方が参加できることと継続できることのバランスをとっていく。キーワードが“寄り添いすぎない”なんですね。
佐々木氏:興味があればLINEを勉強しますし、お孫さんに頼んだり娘さんに泣きついたりして、申し込んできておられます。みなさん知恵を出して、したいことを実現しておられます。みなさん知恵があるので、知恵を出されたらいい。

西原氏:何人もの方がLINEを使えるようになるのは、すごいことですよね。「LINEを初めて使った」とか、「やってみたら意外とできるな」とか、参加したいという気持ちが原動力になって、今までしていなかったことができるようになるって素敵です。私自身、“好き”とか“楽しい”という気持ちがあると、調べたり手間がかかったりしても苦じゃない。“楽しい”、“楽しみたい”、が人を動かすパワーなのですね。
松尾氏:“寄り添わない”って、逆にいいかもしれない。いい感じがする。そのおかげで LINEを使えるようになったり、娘さんとの会話が増えたりしそう。
佐々木氏:親子参加の方もいらっしゃいます。お父さんが娘さんと来たり、娘さんが心配してお母さんと一緒に来たり。素敵ですよね。ご兄弟とか、姉妹とか、シニアディスコをきっかけにコミュニケーションが発展していく方もおられます。「参加するために体調を整えなくちゃ」、なんておっしゃっている方もいらっしゃいます。

松尾氏:その人の生きがいになっているのですね。推し活と似ているかも。みなさん大好きなアーティストのコンサートに行くために、いろんなことを覚えて行動しておられますよね。“楽しい”にはそういうパワーがあるのですね。
西原氏:そうですね。面倒な気持ちを乗り越えられるのは、やっぱり“楽しい”があるからだと思います。自分がやりたいと思う気持ちとか、“楽しい”を経験したらまた行きたい、とかなるじゃないですか。
松尾氏:気持ちを動かすって大事ですよ。介護におけるレクリエーション活動でも、“楽しい”を体験することが基本です。 “楽しい”を諦めている方もいらっしゃいますよね。「年を取っているし、もういいよ」みたいな…。でも少しでも“楽しい”を感じると、またやってみよう、リハビリも挑戦してみよう。とかね、思うかもしれません。 最近お一人になった友人がいるのですが、お稽古事が入っている時はいいけれど、何もないときは本当に 1日中家にいるそうです。きっかけさえあればもっと“楽しい”を日常に取り入れられると思うので、まずシニアディスコを紹介してみようと思います。
佐々木氏:ぜひご紹介ください。一緒にやっている DJのHAKODAは障害者福祉のスペシャリストで、 NPO法人で理事長をしています。彼も本業では寄り添い型なのですが、シニアディスコでは完全にエンタメに振り切っています。かける曲もボン・ジョヴィから始めて、70年代 80年代の懐かしい曲を入れたら、最近の K-POPを入れる。懐かしい曲、寄り添っていない曲を上手に混ぜながら、フロアの様子を見ながら曲を変えます。盛り上がってきて心拍数が上がっているかも、と思ったらトーンダウンさせる曲に変えてくれます。シニアディスコのグラフィックデザイン担当:神野の紹介で参加してくれている、ダンサーのTIKEはテーマパークでも踊っていたプロのダンサーです。ものすごい男前で、本気のダンスでみんなを魅了する身近なアイドルです。彼のソロのダンスパートにはみなさん、ときめきハートの目になって、動画を撮って帰ります。こういう要素も大事です。
寄り添わないけど、会場はバリアフリー
次は、おひとり様限定や85歳以上だけとか…
佐々木氏:いつかお一人様会をしようと思っています。「ひとりで参加する方」のみで開催すると、また新しい空気が生まれるかもしれません。それから「超シニアディスコ」も開いてみたいです。「申し込みは85歳以上のみ」という回です。85歳以上人口もすごい勢いで増えていきますし、現在も85歳以上の参加者がおられます。
フロアは疲れたら座れるようにしていて、みなさん自由に楽しんでくださっています。たとえば、常連の 87歳の女性は先日、「膝の手術したのだけど行きたいの。座っていてもいい?」とおっしゃって、椅子でフロアのノリを楽しんで、帰っていかれました。
西原氏:楽しみ方を選べて、その人にあったリハビリみたいにもなっているように思いました。“楽しい”が、みんなを動かしている感じ。骨折、手術、入院の後は外に出かけるのが怖くなって家にいることが増え、寝たきりとなるケースが多いと聞きます。それを払拭する、本人が「行きたい」気持ちになるのですね。

松尾氏:素晴らしいですね。ケガを早く直したい、メイクをして身支度して出かけたい、行ったら楽しんで帰って、疲れたけれど楽しかったしまた行きたい。そんな感じがします。
佐々木氏:看護師さん、介護職員さん、ケアマネージャーさんも遊びにこられます。高齢の方が何を以て楽しんでいるのか?勉強半分遊び半分で、ヒントを探しに来てくださいます。シニアディスコは「完全な福祉寄り」ではないのですが、会場はバリアフリーで、障害者の方も来られます。病気や怪我をしている方も来られます。先日、共同通信社さんからの取材で、「完全に福祉でもないし完全にエンタメでもない。ものすごく新しい感覚ですね」と、言っていただいて、そういう方向性を大事にしていきたいと思います。
松尾氏:選択できるっていうことが、まず楽しいのですよ。人によって楽しみのあり方は違うじゃないですか。私はこれが楽しいけど、彼女は楽しくないっていうことは当然あるわけですし、多くが楽しんでいても、私一人は楽しくない、ということもあります。そこのところがクローズアップされないことが、多いでしょ。レクリエーションで歌うのも、美空ひばりもありだけどパプリカもある。みんなで踊るのもありだけど、LINEでつながって孫と歌ったり踊ったりもある。
進行:選択の幅が広がると、コミュニケーションの幅も広がりますね。
西原氏:これからますます高齢者の方が増えますよね。それを思うと「寄り添いすぎない」っていうのは結構キーワードだなと思いました。介護に対してもこれまでの高齢者とは異なる感覚の方が増えると思います。だから今までと同じような介護では、対応しきれない場面も出てくると思うんですよ。介護の現場も施設のあり方も、変化にあわせた見直しが必要になる時代になっていきそうだな、と感じています。

松尾氏:団塊の世代の人たちは戦後の新しい教育を受けてきたし、昔の介護はちょっと違うなっていう感覚をお持ちです。今までと同じような介護のあり方っていうのでは、十分とは言えない。
佐々木氏:そうですね。加えて団塊の世代の人たちは独立心が高く、自己主張することもご存知です。介護されて違和感を覚えれば、「違う」とおっしゃいます。そこら辺についても、現場は認識して変えていかないと、どんどんズレが大きくなっていきます。時代とともに、変化していかないといけないことは多々あるでしょうね。
松尾氏:現状維持ってある意味、楽でしょう。でもそこで足踏みしていると、変えていくエネルギーを手に入れられないし、これからに対応できないなって思います。私、実は今、タップダンスと朗読を習っているんですよ。大学を退職してしばらくしたら声が出にくくなって、これはマズいと思い、体力づくりと楽しみ、それから感性を大切にしたいと思って習い始めました。老後をどう楽しむか。体力、精神力、いろんな面を強化していくことで生きがいを感じる、老後を楽しく生きる方法として、私自身が実践しているところです。レクリエーション介護士の講座でも、皆さんにお伝えしていければと思います。
進行・取材・執筆:株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
撮影:日本SPセンター 下村 修史
2026年3月16日
2026年3月3日
2026年2月25日