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「プレシニアの不安と希望」調査から
市場のつくり方~不安の正体から考える~


 当室では2025年12月8日(月)~12月12日(金)において、「プレシニア(45~64歳)の不安と希望に関する調査」をネットアンケートで実施した。調査結果をまとめたものはwhitepaper【53】プレシニアの「不安」と「希望」から見えること~プレシニア調査から~にてホワイトペーパーを入手し確認していただける。

 今回はその結果から、未来の高齢社会を生きる現在プレシニア層に向けた、提案を考えていく。

 調査内容は以下であった。

 不安の元となる「マイナスを減らしたい」、希望を叶える「プラスを得たい」といった不安・不満・願望(ニーズ)から市場は生まれるが、一般的に「不安」は注意を集める力が強い。市場をつくる入口として機能する。 

 一方で、「不安そのものが市場」とは言えない。たとえばこの調査から出ている方向性「健康」「お金」「家族・介護」「つながり・孤独」「仕事」等をテーマに、懸念点をそのまま投げかけても提案には結びつかない。(以下、自由記述を定量化し、不安の方向性と希望の方向性をランキング化)

詳細はwhitepaper【53】プレシニアの「不安」と「希望」から見えること~プレシニア調査から~

 企業は具体的な「不安の対象」や「不満の対象」を取り出し、その解決策として商材を提案する。健康面であれば血圧、骨密度、睡眠の質など、多くの方が感じている課題に対して解決策を提示している。あるいはがんや認知症など、目の前に発生してはいないが多くの人が心配するテーマに対して、ダメージや発生リスクを小さくする提案がなされている。
 金銭面であれば老後の資産形成や入院・傷病保険、生活費を得るための不動産活用などが提示されている。

不安はなぜ生まれる?
「不安を語る声」にみる傾向

 何に不安を感じるか。回答文から、多くの方が現状を起点に未来を考え、不安を感じていることがわかる。今回の設問設計が影響しているところもあるが、人は誰しも曖昧な未来を考えるとき、その曖昧さゆえ今手元にある事実を土台に考える。

 今の健康状態(体力、持病、通院など)、今の家計(貯金、生活水準、収入)、今の家族状況(子どもとの距離、親の介護経験)、今の生活圏(車が必要、近所づきあい、通院のしやすさ)、今の仕事(続けられるか、定年が近いか)を起点に未来を考える。生じる変化に対して、高齢期の自分はどうしているか?どうできるか?と想像する。

 今回は中でも「健康状態」を起点にした不安や希望の声を分析し、市場のつくり方を検討する。
 以下は回答のごく一部。プレシニアが感じる健康に関する不安、「なりたい」「ありたい」日常が語られている。

 調査回答において、プレシニアが今の健康を起点に思う不安の根っこを読み解いていくと、次の4つの「わからなさ」に集約できる。

 1.「どれくらい悪くなるのかわからない」
 2.「いくら必要なのかわからない」
 3.「誰に頼るのかわからない」
 4.「いつ起こるかわからない」

 これらの「わからない」対象に対して備えることが、これまでの提案の主流であった。(例:さままな健康補助食品、保険、高齢者施設へ早めの入居…etc.)
 そもそも「なぜわからないのか」と言えば、「コントロール不能」だからではないかと推測される。
 完全でなくてもある程度コントロールできれば、不安は小さくなるのではないだろうか?備えも小さくできるのではないだろうか?

すべてに備えるのは無理だから
「把握」と「行動」で、不安解消に近づく

 とはいっても、“健康”を完全にコントロールできていれば、たとえば健康に関する保険は要らない。「あれもこれも心配で契約したら支払い保険料が高くなり、見直した」というのは、よく聞く話。すべてに備えるのは、お金も時間も気持ちの面でもコストがかかる。

 私たちは「なぜ不安か」といえば、どうなるかわからないからだ。わからないことをただ、「わからないまま」にしている。そしてそれらすべてに備えるのは、非現実的で不経済。
 「わからない」と上手く付き合う、わからない気持ちを上手く処理する。必要なのは、対象を「把握」し「行動」することではないだろうか。

 上記の4つの「わからなさ」を把握するとは、以下のように考えることができる。

 【健康について】

 1.「どれくらい悪くなるかわからない」 ← 今の心身の状況を把握する
 2.「いくらかかるかわからない」 ← 事例を知って、予算や自分にできる備えを考える
 3.「誰に頼むことになるかわからない」 ← 頼れる相手や組織を調べる
 4.「いつそれが来るかわからない」 ← 定期的に「今の心身の状況」を知っておく

 このように整理してみると、自分でできることや事業者が提案できることは、結構ありそうだ。そして「把握」すれば、現実的な「行動」も可能ではないだろうか。

「把握」の機会は技術の進化で増加
「行動」には、何が必要?

 デジタル技術の進化によって、自身の健康状態を測る機会は大きく増えた。
  健康具合を見る方法は多岐にわたる。スマートウォッチで、歩数、心拍、睡眠、消費カロリー、活動量が見える。家庭用血圧計で、日々の血圧が見える。体組成計で、体重、体脂肪率、筋肉量が見える。アプリで食事や睡眠を記録できる。健診結果もデータ化できる。自分の状態「把握」は、随分と簡単になった。治療や経過観察においてもたとえば、血糖値を常時測定できる保険適用商品も登場している。病院で「点」として測るだけでなく、日常生活において把握し続けられることで、治療へのモチベーションを保てたり、食事内容を見直したりしていると聞く。

 ところが健康は「把握」だけでは、得られない。行動に移すことが、なかなかハードルが高い。

 一般的に測定機器から得られる数値の意味について、説明を読むだけでは実感しづらい。知識として知っても、親・祖父母、自分自身の既往歴や、心身における実感、仕事や趣味など生活面も含め、“私の数値”として理解するのも難しい。自分にとってどういう意味があり、今後どうしていくことが望ましいのか。何から取り組むことがよいのか。理解しヤル気になり、取り組み続けることは、一人では難しい。

 デジタルは事態を把握するには役立つが、それだけでは行動に結びつきづらい。心・身体を動かすには信頼が伴う説明や自分ごと化への提案、楽しさや応援などが欠かせないのではないだろうか。
 このことは、会社などで実施される健康診断と健康指導があまり行動に結びつかない理由のひとつではないだろうか。

測って、指導の準備がなされても
行動する人は、3割未満

 日本では成人の多くに、年齢・就業状況・加入する医療保険制度に応じた健診機会が用意されている。しかしそれだけでは健康行動に結びつかない人が少なくない。

厚生労働省 2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況
厚生労働省 2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況

 特定保健指導が必要とされた人のうち終了した人は、一番多い70-74歳女性で32.9%。プレシニア層にいたっては、3割にも届いていない。
 計測して、指導がついても、行動変容できない人が多いのだ。私も自身を振り返って、「そうだろうなぁ…」と感じる。同じように思う人は少なくないのではないだろうか?

 しかし前述したとおり高齢期に対する不安・希望はともに「健康」が1位。2023年に実施した調査でも、対象者(45-59歳)は91%が健康を意識していた。(ちなみに健康のために行動していた人は55.7%。いずれもwhitepaper【50】プレシニアの高齢期に対する意識と行動(ソナエマーケティングの素地 プレシニアとシニアの現状と振り返り、未来に関する調査より)。

 「測る」と「行動」を結び付ける、打開策の一つに考えられるのが街中やイベントで行われる健康測定会だ。コロナ禍で一度減少したが、再び増加傾向にある。(当室では実施団体のひとつ「NPO法人 健康ラボステーション」の活動を紹介「予防医療の力を高める、ヘルスチェックを手軽に」。理事長、浦田千昌氏の寄稿でも仕組みをご紹介している~「健康意識と行動変容」)

 当該団体では自治体や交通機関、商業施設のイベントなどで、骨密度や体内糖化度、血流や血管年齢、疲労度などの測定機会を提供。管理栄養士や薬剤師など専門の知識を身につけたスタッフが、測定結果の数値や意味を説明してくれる。健康セミナーやイベントも紹介され、新たな行動のきっかけにもなっているという。
 これらの健康測定会は、日常生活の延長線上で利用できる。会社や自治体の健康診断とは異なる検査項目もあり、人々の興味喚起を引き出している。
 このような「健康測定会」は、昨今、新たなステージにいたっている。

日常的に参加できる「健康測定会」は
研究・商材開発を支援する品質へ

 同団体による健康測定会には、常連の方も少なくない。管理栄養士や薬剤師など専門の知識を身につけたスタッフと会話し、体調や睡眠など気になることを打ち明ける方もおられる。測って現状を「把握」し、プロとの会話から適切な「行動」を学び、安心感や心理的支えも得ているだろう。
 ただ測るだけではない。人との繋がりは利用者のヘルスリテラシーを向上させ、行動にも影響を与えている。健康測定会は「健康でありたい」という多くの方の願いを叶える機会として、展開されている。この背景があって、健康ラボステーションと計測会の参加者の間には信頼関係ができている。

 浦田理事長はこの計測機会を活用して、新たな商品やサービスの開発にもつなげていっている。

 健康ラボステーションで確立した測定スキルや被測定者とのコミュニケーションのノウハウを生かして、「一般社団法人プレシジョンヘルスケア機構:以下PHRO)」を2020年に立ち上げている。同法人は、健康寿命の延伸に役立つ事業開発を支援するために設立された。

 PHROは、計測/コミュニケーションのスキルを地域の健康づくりにも取り組んでいる川崎フロンターレや奈良の月刊情報誌「yomiっこ」、健都共創推進機構(KCOP)に提供している。各団体では、“健康科学応援隊員”を募集し、健康づくりのための商品開発に協力してくれるメンバーを募っている。

「把握」から「行動」へ
プロの “人”が関わることで、態度は変わる

 健康ラボステーション川崎フロンターレyomiっこ健都共創推進機構(KCOP)は普段から健康測定会を実施している。測定会を通して参加者と健康について話し、健康情報を共有。参加者~“健康科学応援隊員”~と団体とは関係性が構築されている。参加者には所属意識が自然と生まれている。そうした関係性が功を奏しているためか、“健康科学応援隊員”は、一般的に都度募集する治験モニターと違い、精度の高い調査ができるという。調査期間が長期にわたっても継続率が高く、依頼内容の順守もしっかりしているとのことだ。

 信頼できる“人間”との関わりは、私たちの行動に大きな変化をもたらす。

 健康を維持するための態度も同じ。前述の健康診断結果に対する多くの方の態度を見ても、健康状況を「把握」するだけでなく「行動」するには、人との関係性が大きな影響を与える。「測定技術」はセンサーやデジタルで大きく向上した。次に必要なのは人が動きたくなること。そこにはプロの人間が大きく関わることが必要になるのではないだろうか。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子