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2030年の高齢社会に向けてビジネスを考える 1

 日本の高齢化は世界一早いと言われており、人口は減少の一途にある。この環境下、如何に日本の活力を維持するか。すなわち、私たち自身の活力を維持するか。企業市民および市民の大きなタスクで、高齢者も活躍することが期待されている。

 一方、2014年発表のオックスフォード大学オズボーン准教授らによる論文「雇用の未来」の副題は、「いかに仕事はコンピュータ化されていくのか?」。コンピュータ化によって、米国の雇用者の47%が10年後には職を失うと予測している。
 労働人口が減少する中、仕事のIT化は必要だが、市民は如何にすればこれらと共存・協働していけるのか(人と技術の共進化)。特に、2030年の高齢社会において大きな役割を果たすであろう、現在プレシニア世代が、どのようなシニアになっていくのか。そして2030年、如何にシニアが働きやすい社会になっていくかが重要だ。

総務省統計局 人口推計2022年(令和4年)1月報
日本の将来推計人口(平成29年推計)報告書 より作成

 本稿ではまず、現在から2030年に向けて、プレシニアに何を提案・提供するのか。如何によりよい加齢を支援できるか。そこにどんな事業性がありそうかを探る。

1)プレシニアはどんな人?2030年、どうなりたい・どうありたい?
2)2030年はどうなりそう?考えられる懸念は?
3)プレシニアが2030年までに「ある/できるようになる」ための事業

「人生100年時代」に備えるフロントランナー、
現在50-59歳層は、どういう人たちなのか

 この世代の4大+短大の進学率は、35%(学校基本調査 年次統計より。10年前の世代と同じ。最新は、55%)。91年~93年のバブル崩壊時は、20代。バブルの恩恵は、せいぜいおこぼれに預かったくらいで、バブル崩壊後の不景気(32か月)に続き、ITバブル崩壊、2008年のリーマンショックと働き始めて3度の大型不景気を経験し、今コロナ禍にある。

家計調査年報(貯蓄・負債編) 貯蓄・負債の概況 各年の結果から作成
https://www.stat.go.jp/data/sav/2014np/gaikyou.html
https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.html
知るぽると(金融広報中央委員会)令和2年資料 より作成
※無回答者数はグラフ化していない

金銭面からも健康面からも働きたい
ワーキングシニアがさらに増える、2030年

 貯蓄・負債の推移からも貯蓄額の分布から見ても、現在50代の世帯は先輩世代と比べて十分な貯蓄をできていない人が多い、と推測される。こうしたことから、働き続けたい人は少なくないと考えられる。また近年、いくつになっても働くあるいは社会活動に従事するほど、健康でいられるとわかってきている。国の施策でも、2025年には65歳定年を全企業に適用見込みである。こうしたことから、60歳、65歳を超えても働く人はますます増加するだろう。

出典:Okamoto S, Okamura T, Komamura K (2018). Bulletin of the World Health Organization. https://doi.org/10.2471/BLT.18.215764
「長寿社会における中高年者の暮らし方の調査」のwebサイトにて研究紹介

2)2030年はどうなりそう?考えられる懸念は?

2030年の新シニアは、従来シニアよりITリテラシーが上

 一方、インターネット元年と言われる1995年時、この世代は25歳~34歳。IT能力に関してはこれまでのシニアと異なり、各段に高い。50代のネット利用者割合は94.7%。スマホの保有率は96%。(令和2年 通信利用動向調査報告書)。どれくらい使っているかは、たとえば利用した機能・サービスと目的・用途から推測できる。

令和2年 通信利用動向調査(総務省)から作成

 ネットの利用率なら60代で83%、70代で60%、スマホ保有率なら60代前半で80%弱、60代後半でも72%(令和2年通信利用動向調査)。現在の高齢者も多くが、デジタルを利用している。しかし道具として使い慣れているかというと、上記に示した「利用する機能・サービス 目的・用途」にある通り、50代と比べると開きがある。現在の50代がシニアになる2030年の高齢者には、今の高齢者より一層ITを活用した提案が現実的になる。もちろん50代のプレシニアに対して、今から2030年の高齢期に備えたIT活用の提案も可能だ。むしろ今から使い続けてよりよい加齢を支援する、サービスの開発が望まれる。デジタルが叶える世界は変化の連続であり、使い続けて常にに新しい利用法に取り組み続けなければ、すぐに隔絶されてしまう。プレシニアが今のデジタル力を高齢期においても維持するためには、新しい使い方に取り組み続けることが必要であるし、その理由や目的も必要だ。

加齢に伴い発生することは?
身体的な加齢現象は、生物学的に変わらない

 今の50代は金銭的状況から考えても、自らの健康を考えても、高齢になっても働き続けたい。2030年はワーキングシニアが増加すると考えられるが、働き続けるには健康が欠かせない。
 しかし誰しも高齢になるに従い、健康を損なうリスクは高まる。

令和元年 国民健康・栄養調査より作成

 目安として、服薬率を見てみる。50代では4人に1人だった服薬率が、60代になると2人に1人と大きく上昇。50代は健康状態の分かれ目、とも言える。さらに服薬率が上昇すると、味覚の課題が生じる可能性もある。たとえば降圧剤、糖尿病治療薬や高脂血症治療薬など、高齢期に向かって発症しやすい疾患の薬には、味覚に作用するものが少なくない。味覚障害が起こると、健康維持に大切な食事への影響も懸念される。
 高血圧症や糖尿病の患者数は60歳を挟んで、急激に増加している。

患者調査(厚生労働省)各年 および 国立社会保障・人口問題研究所 より作成

 このような疾患データを見ると、50代は未来のために自らの健康状態に真摯に気を配り始めるラストチャンスともいえる。実際、50代は健康維持にどれだけ取り組んでいるのだろう。食習慣に限ってのデータではあるが、年代別の改善意思・行動に関するデータがある。

令和元年 国民健康・栄養調査 より作成

 50代を40代と見比べると「改善するつもり」が減って、「改善始めている」が増加。つまり50代は、やる気スイッチが入りやすい年代といえる。50代は健康維持に行動する確率が高く、事業者は数多あるサービスの中から選ばれるためのアプローチが大切である。一方、改善するつもりはないという率は40代と50代であまり変わらない。やる気を出せない人に何をどう提案すれば取り組んでもらえるか。この層に対しては、「健康に良い」というアプローチだけでは届かない。ゲーム性なのか、お得感なのか…、異なるアプローチ開発も必要だろう。

加齢に伴い発生することは?
介護を担うワーキングケアラーが増加

 自身の健康維持に気を配らなければならない一方で、介護を担う人も増加。プレシニアは親の日常を支え、健康維持を支援しつつ、現役としての仕事そして自らの老後に備える必要もある。

平成 29 年版 「就業構造基本調査」(総務省)より作成

 もし介護離職したら、再び仕事に戻るのは容易ではない。正社員として再就職している人は49.8%(平成24年度厚生労働省委託調査 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)。できる限り現在の仕事を続けたいところだが、離職を防ぐには勤務先の制度類がまず必要だが、一方で、相談先や支援も重要だ。従来から、介護者の気持ちを受け止め相談にのる一番の相手として、ケアマネージャーがいる。またデイケアサービスの利用なども働き続ける介護者を支えてくれる。介護者の休みをつくってくれる、レスパイトケアの利用もある。こうしたサービスを知り、遠慮なく使える気持ちや環境の醸成が欠かせない。たとえば働きながら介護を担う人たちを繋ぎ、介護者を孤独から救う、あるいは知恵や力を融通しあう環境をつくるといったサービスも考えられる。

2030年はどうなりそうか
どんなワーキングパーソンが必要か

 2030年について、さまざまな機関から技術や社会の予測が発表されている。いくつかの内容を組み合わせて先々の変化をまとめてみると、次のような未来年表をつくることができる。

 2030年は技術の進化や価値観の多様化によって、仕事にも働き方にも多様性が期待される。多くの労働環境を変え、社会のニーズを変え、ワーカーはそれらに応えるスキル等が必要になる。
 プレシニアが2030年以降も働き続けるためには、その時代に求められる仕事に応えなければならない。ではどんな仕事が生まれているだろうか?今、現在、予測されていることのひとつに、冒頭、紹介した通り、2014年の10年後、2024年には(あと2年!)コンピュータ化によって米国の雇用者の47%が職を失うという。ピーター・ディアマンテスとスティーブン・コトラーによる『2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ』では、さまざまな技術が指数関数的に進化し、融合し、たとえば小売りにおいては売り手も買手もAIになるとの予測もある。
 こうなってくると多くの仕事において残されるのは、人間力を求められる部分だけかもしれない。

 人間力重視となってくると、従来の「このナレッジを学ぼう」とか「あのスキルを習得しよう」といったことだけでは、仕事のニーズに応えられなくなる。
 近年、福利厚生サービスを提供しているJTBベネフィットは、副業サイトのスキルシフトと業務提携。多様な学びの機会を提供している。社員の内面に多様性を構築する手段としているのかもしれない。
 人材育成においても個々人の学びニーズにおいても、新しいニーズが生まれつつある。(2に続く

シニアマーケティング研究室 石山温子

シマ研シニアビジネスウェビナー 2030年の高齢社会に向けて ビジネスを考える(1)(youtubeへリンク)