データの小窓

データ図表だけをチョイスし、
アーカイブ化しました

データアーカイブス

高齢者のヘルスリテラシー向上に、IT 力

  • 2020年6月4日

 近年、ヘルスリテラシー向上への取り組みが推奨されている。

 ヘルスリテラシーとは、健康医療に関する適切な情報を入手し、正しく理解し、自分や自分の周囲の健康のために利用していく力のこと。理解するだけでなく、判断し、活用する力も必要とされている、非常に重要な能力だ。
 インフォームド・コンセントが主流になり、さまざまな疾病に対する医療・治療が発展し、保健・医療について自ら選択する場面は増加。新型感染症の発生にどう対応するか、健康に関する知識・判断力はより一層、重要になってきた。ネットやSNSによって誰もが健康情報を容易に受発信できるからこそ、情報を得る力だけでなく信頼度を判別し、活用する力、ヘルスリテラシーが欠かせない。

 しかし実は、日本のヘルスリテラシー水準は国際比較すると低い、ということをみなさんご存じだろうか?

欧州と比較すると
日本人のヘルスリテラシーは低い

 ヘルスリテラシーを測定するために開発された調査質問紙、HLS-EU-Q47(European Health Literacy Survey Questionnaire )により、2012年、EU8か国でヘルスリテラシーが調査された。これを翻訳して2014年に日本でも調査実施された結果を比較すると、相対的に低い。
 「ヘルスリテラシーに問題があり、自身の健康管理や意思決定が難しい」という人の割合は、EU8か国では47.6%。日本では84.4%。総得点(50点満点に変換)の平均値は、EUが33.8点、日本は25.3点。

 全体としてEUよりヘルスリテラシーが低いことが示されている。
 以下の表は、全項目に対する回答の詳細である。

聖路加国際大学 中山和弘教授 運営Webサイト「健康を決める力」より

 各項目に対して「入手」「理解」「評価」「活用」する力を問うている。ヘルスケアについては全般、疾病予防においても「評価」と「活用」、ヘルスプロモーションにおいては「評価」と「活用」について、EUとの差が特に大きい。
 さらに他のアジアも含めた調査結果をみても、日本の値が低いことがわかる。(ちなみに日本だけWeb上で質問を行い他の国は質問紙と面接調査による、調査年が違うなど、調査条件が異なっている)

聖路加国際大学 中山和弘教授 運営Webサイト「健康を決める力」より

教育指導要綱に、「がん教育」導入
高齢者への健康教育は?

 日本では、特定健診や特定保健指導の実施によって職域向けヘルスプロモーションを行ってきた。そのゴールの一つとして、ヘルスリテラシーを高めようとしている。さらに政府は子供の頃から身に着けられるよう、まず「がん教育」を学習指導要領にいれた(平成29年)。保健体育の授業では、体育だけではなく情報活用能力やヘルスリテラシーが重視されようとしている。

 しかし高齢者に対してはどうか?

 介護や医療の制度に対する取り組みは進んでいる。各自治体では健診事業や健康に関する学び講座が開かれている。しかしこれらが大多数の高齢者に届いているか、というと疑問である。
 たとえば、高齢になるほど健康が気になるといわれているが、高齢者であるほど健康診断を受けていない。

特定健康診査・特定保健指導等の実施状況(厚生労働省)より作成

 勤務している間は会社が健康診断受診を指示するが、退職すれば個人の行動力だけに委ねられる。ちなみに自営業者とともに高齢者の多くが加入している市町村国保における特定健康診査等実施状況は、他の組合に比べて目立って下回っている。
 自治体からの発信が届いていないか、届いていても行動に結びつけられないと推測できる。

平成27年度 特定健康診査・特定保健指導等の実施状況(厚生労働省)より作成

高齢者のヘルスリテラシー向上に
IT力と社会活動力が役立つ

 年齢があがるにつれ、ヘルスリテラシーはIT技術を使う力と社会的要因によって決まるという。Web利用や人との交流によって健康情報は手に入りやすくなるし、行動にも移しやすくなる。このことは先に示した健診ひとつとっても、頷ける。

 会社に行けば強制的に入ってくる健診情報が、地域に戻れば自ら得ようとしなければ手に入らない。市政だよりを丁寧に見ればタイムリーで手に入る。見落とせば自ら自治体のWebサイトを探しにいかねばならない。受診行動も会社が強制的に設定し、「受けない」とう選択肢は原則ない。地域に戻れば強制はなくなり、自ら行こうと思わなければ行動に移さない。会社にいれば周囲も健康診断を受けるのが当然の雰囲気だが、地域・自宅においては周りと健診について話さなければ自分の感覚・考えだけで行動が決まってしまう。

 たとえば、もし自治体の健康長寿命課(仮)が地域の高齢者のメアドリストやSNS関係を通じて、直接、健診の知らせや誘いを発信できれば、受診率は変わるかもしれない。スマホへの告知・誘導は、人と会っているときに健診の話を持ち出しやすくするし、質問や申込を簡便にする。封書発送のみより、受診行動に移しやすくなるのではないだろうか?
 シニア向け健康イベントの告知も、個々人に届けられれば参加率はあがるかもしれない。

進むシニアのスマホ利用
でも、スマホの利用用途は?

 シニアのネット利用率は60-64歳で94%、65-69歳で87%。スマホ保有率は、60-64歳で75%、65-69歳で56%。(ともに令和元年 通信利用動向調査(総務省))シニアのネット/スマホ利用者は、増加している。

令和元年通信利用動向調査(総務省)から作成

 ネット環境を活用して情報を素早く個人に届ける、あるいは個々が探しに行くためのインフラはできている。あとはシニアがネットを使って適切な健康情報にアクセスできる仕組みや能力と、社会活動を行いやすい環境を整えるだけに見える。
 しかし今のところシニアのスマホ利用用途は、「電話」と「メール」が主。Web閲覧で45%ほどである。 健康情報を入手したり、社会活動(市民活動、レジャー、文化活動など)を活発化させたりするほどの利用にはあまりいたっていない。

平成27年「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究ー報告書ー」 総務省情報通信国際戦略局 から作成

 さまざまなWeb利用で健康情報は手に入るし、アプリの利用で知りたい情報を簡単に探すことも新しいコミュニケーションも可能になる。スマホが健康管理ツールにもなる。しかしデータからは、多くのシニアは従来のガラケー的利用にとどまっている様子だ。

シニアの活動範囲を広げる
スマホの利活用の提案

 実は、探してみると上記のデータと比べて多様な使い方をしている高齢者もおられる。

(例)
・最初はスマホの使い方がわからなかったけど、阪神タイガーズのチケットを予約するために使いこなすようになった。(60代男性)←レジャー活動
・ゴルフのスイングチェックのために動画撮影ができるようになった。 孫をご飯に誘うためにLINEができるようになり、合わせてゲームもし始めた。(70代)
・人工関節術後に、アプリを利用して主治医とリハビリ状況を共有できるシステムを利用していた。(80代女性)
・ジムのアプリを入れて、活動と食事を管理。食事の注意を受けて、改善していると思う。一人でやっていると飽きてきたので、ジム仲間と見せ合っている(70代女性)
・株価を確認している。3人の子供が地方に住んでいるのだけれど、それぞれの地域のニュースをすぐにみられるようにしている。(80代男性)

 上記は筆者の周辺でヒアリングした方々の声だが、共通しているのは、「明確にやりたいことがあった」こと。
 そして多くは「新しいコミュニケーションを伴う」使い方をしている。
 彼らはコミュニケーションを増やし、行動範囲を広げ、学びや体験の機会を増やしている。

 高齢者のヘルスリテラシー向上に、遠回りのように見えてもシニアのスマホ利用/IT利用を後押しする。使い方提案から、まずは取り組むべきと考える。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子

<シニアマーケティングに関するお問い合わせ>こちらのメールアドレスにお気軽にご連絡下さい。

このページの先頭へ