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「高齢者の睡眠」の常識を疑ってみる(上)

 

 平成28年(2016年)の社会生活基本調査によれば、15歳以上の平均睡眠時間が7.85時間なのに比べ、65歳以上では8.32時間、75歳以上になると8.85時間と、歳を重ねるほど、睡眠時間は長くなる傾向にある。一方で高齢者の睡眠と言えば、早寝早起き・眠りが浅い・トイレなど何度も起きる・寝つきが悪い等々、往々にして、睡眠時間や睡眠の質を言挙げする傾向が強い。

 「睡眠時間が長いにもかかわらず、その質は充分担保されていない」という状況は、多くのシニア層にあてはまることなのだろうか? 本稿では、令和元年(2019年)国民健康・栄養調査のデータから、シニア層の睡眠時間や睡眠の質に関する認識の分布を、各年齢階級との比較をもとにつぶさに見てゆきたい。上記のようなシニアの睡眠の「常識」は果たして多数派なのだろうか?

 まずは、平均睡眠時間の分布状況から見てゆくことにしよう。図1.は男性、図2.は女性のケースである。男性60歳代で最も多数派なのが、6時間以上7時間未満で、全体の36.7%を占めている。それに続くのが5時間以上6時間未満の時間幅で、全体の27.3%。両者合わせて64.0%、つまり3人に2人が、睡眠時間5時間以上7時間未満に収まっていることがわかった。年齢階級の取り幅が違うとは言え、国民生活基本調査の65歳以上平均8.32時間とは、イメージ的にかなり隔たった感じになる。70歳以上の男性では、5時間以上6時間未満は少なくなる。代わって、7時間以上8時間未満がトップタイに並んでいる。シニア男性2つの年齢階級で、8時間以上の睡眠をとる人は、60歳代でわずか3.3%。70代以上でも12.7に過ぎない。

 一方シニア女性を見ると、60歳代では男性と大きく変わらない結果となった。異なる様相を見せるのは70歳以上。睡眠時間5時間以上7時間未満が57.3%と6割に近づこうかという勢いだ。5時間未満という「剛の者」も9.1%と約10人に1人の割合で存在する。これは、60歳代女性、60歳代男性、70歳以上の男性を凌ぐ数字だ。少し前に「70歳以上女性キラキラ消費」という言葉も生まれたが、それを裏付けるようなデータではある。

 それでは、個々の睡眠の質に関する「愁訴」を取り上げてみよう。図3.は、「寝付き(布団に入ってから眠るまでに要する時間)にいつもより時間がかかった」と答えた人の割合。高齢者の睡眠の悩みの代表選手の一つだが、その通り、70歳以上の女性が最も多く、21.7%に人がそのように訴えている。もっとも、高齢者の専売特許ではなく、僅差で20歳代女性が肉薄している。この悩みは全年齢階級を通して、女性が男性を大きく凌駕している。男性の場合シニアだからということもなく、働き盛り世代に比べて、やや多い程度。男性では20歳代が最も多く、寝つきが悪いと悩んでいるのは、オジサンではなく、若者であるようだ。(下に続く)

   株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男