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「令和2年度厚生労働白書」より シニアに関する情報をピックアップ(後編)

 令和2年度の「厚生労働白書」は全部で500ページ近い内容がある。今回はその中から「平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容」と題する第1部 第1章から、シニアマーケティングやシニアに向けての事業の企画、立案に資すると考えられる情報をピックアップした(とはいえ第1章だけで130ページに及ぶ)。

文の記事やグラフなどは以下をもとにシニアマーケティング研究室が一部加工して転載したものである。

出典:令和2年10月23日 厚生労働省発表
令和2年版 厚生労働白書
(平成30年度・令和元年度厚生労働行政年次報告)
―令和時代の社会保障と働き方を考える―

https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/index.html
本文PDF(全体版)は
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/19/dl/all.pdf

※内容はシニアに関する情報をピックアップしているため、省略されている部分があることをご了承いただきたい。省略した部分にも多く重要な事実や事例、示唆が掲載されているのでぜひ、全文に目を通すことをお勧めする。

 そこでは平成の30年間の社会の変化をとらえ、さらに2040年を見据えた中長期の視点に立って、様々な分析がなされている。
その中にはシニアに関する重要なデータや予測が多く掲載されており、白書の内容を引用しつつ、そのダイジェストを前編に続けてお届けしたい。

第7節 「暮らしの中の人とのつながり・支え合いの変容」より

◆会話頻度が低い人の割合は
 単独世帯、特に高齢単独世帯で高い

 生活と支え合いに関する調査」の結果から見ていこう。
「普段どの程度、人と会話や世間話をするか(家族との会話や電話でのあいさつ程度の会話も含む)」(以下「会話頻度」という。)を見ると、全体では91.3%が「毎日」としているが、単独世帯ではその割合が低く、特に高齢単独男性世帯では49.5%、高齢単独女性世帯では61.1%などと低くなっている。
 また、「2週間に1回以下」という極めて低い頻度も、高齢単独男性世帯では14.8%、非高齢単独男性世帯で8.3%となっている。こうした乏しい会話頻度は、個人の気質や好みもあり一概に言えないものの、精神的・情緒的なつながりが乏しいために前向きな生活が送りにくいといった点も懸念される。

会話頻度(世帯類型別・2017年)

◆「日頃のちょっとした手助け」で頼れる人がいない割合は
 男性の単独世帯で高い

 「日頃のちょっとした手助け」で頼れる人がいるかどうかを見ると、「いる」とするのは全体では85.2%だが、高齢単独男性世帯では54.5%、非高齢単独男性世帯では58.2%と低い。さらに、いずれの場合も、「そのことでは人に頼らない」とする回答が15~20%程度あることに留意が必要である。
 なお、単独世帯でも女性の場合は、年齢階級に関わらず頼れる人がいる割合が比較的高く、約8割となっている。また、「頼れる人がいない」割合は、高齢者のみ世帯やひとり親世帯(二世代)と同水準の約1割程度となっている。

「日頃のちょっとした手助け」で頼れる人の有無(世帯類型別・2017年)

◆「(子ども以外の)介護や看病」で頼れる人がいない割合は
 単独世帯やひとり親世帯で高い

 「(子ども以外の)介護や看病」で頼れる人がいるかどうかを見ると、「日頃のちょっとした手助け」よりも「頼れる人がいる」とする人は少なく、全体で64.1%である。「頼れる人がいる」とする割合は単独男性世帯で低く、高齢単独男性世帯で30.6%、非高齢単独男性世帯で37.5%である。
 「日頃のちょっとした手助け」と異なり、単独世帯のうち「そのことでは人に頼らない」とする割合は、高齢世帯よりも非高齢世帯で高い。また、ひとり親世帯(二世代)の「頼れる人がいない」割合は41.7%と高くなっている。

◆日頃のちょっとした手助け」では「家族・親族」以外を頼れても
 「介護や看病」となるとほぼ「家族・親族」頼み

 前記の質問において「頼れる人がいる」と回答した人に、その相手を尋ねると、「日頃のちょっとした手助け」では属性に関わらず「家族・親族」が最も多い。単独世帯であっても、単独女性世帯の約6~7割、単独男性世帯の約4割が「家族・親族」を挙げており、一人暮らしではあっても、別居の家族・親族に手助けを頼むという関係性が見て取れる。
 「家族・親族」以外の相手については、属性ごとに分布が異なり、高齢単独女性世帯や高齢者のみ世帯は「近所の人」が多く、非高齢単独女性世帯やひとり親世帯(二世代)は「友人・知人」が多い。

日頃のちょっとした手助け」で頼れる人がいる人の「頼れる相手」
(子ども以外の)介護や看病」で頼れる人がいる人の「頼れる相手」

◆一人暮らし高齢者が将来の介護を頼む先は
 「子」が減り「ホームヘルパー」等が増加

 1994(平成6)~2012(平成24)年にかけての意識調査において、一人暮らし高齢者のうち将来の介護の場所として自宅や子ども・親族の家を希望する人が、誰に介護を頼むかを尋ねた結果(3つまでの複数回答)をみたところ、それぞれ異なる調査のため単純比較はできないものの、2005(平成17)年までは「子ども」が約7割前後で推移し最も多かったが、2012年では「子ども」や「子どもの配偶者」が減少傾向にある中で、「ホームヘルパー」「訪問看護婦」が増加傾向にある。

一人暮らしの高齢者の「介護を頼む人」の推移
(介護の場所として自宅や子ども・親族の家を選択した人)
将来の介護者の想定(2017年/性別・婚姻関係別)

◆家族・親族がいない場合、
 施設入所時の身元保証が確保できず入所に支障が生ずるケースも存在

 ここまで見てきたデータからは、近所や職場の人間関係があれば、日頃の会話やちょっとした手助けなどの支え合いは可能であるが、介護や看病となると家族・親族でない他人との関係性では介護サービス事業の利用を除き難しいという様子が浮かび上がってくる。
 また、つながりの乏しい世帯類型として単独世帯が指摘されることが多いが、単 独世帯であっても現状では家族・親族が支えている実態が見てとれる。
 さらに、日頃の会話やちょっとした手助けといった支え合いのほか、日常生活における医療や介護の利用、住まいの確保、就職等の面で、費用の支払いや契約、緊急時の対応等に関して、身元保証や連帯保証を求められることがある。家族・親族とのつながりが乏しいため、身元保証人等が確保できない人もいるが、こうした場合にサービス利用等ができない実態も見られる。

施設への入所時の契約書において、
本人以外の署名を求めているか/本人以外の署名欄に記載できない場合の入所の取扱い

◆2040年にかけて、日常生活における
 人とのつながり・支えの乏しい高齢者の世帯は増加が続く

 2040(令和22)年にかけて、日常生活における人とのつながり・支えの乏しい高齢者が今後どの程度増加するかについて、粗い推計を試みた。
 具体的には、男女の高齢単独世帯、高齢夫婦のみ世帯について、上段の「会話頻度」が「2~3日に1回」以下である世帯の割合、中段の「日頃のちょっとした手助け」について「頼れる人がいない」とする世帯の割合、下段の「(子ども以外の)介護や看病」について「頼れる人がいない」とする世帯の割合を、それぞれ表示した世帯数に乗じ、生活の支えを要すると考えられる世帯数として算出し、1990(平成2)年・2015(平成27)年・2040年の3時点で比較したのが下図である。

生活の支えが必要であると思われる高齢者の世帯数についての粗い試算

 なお、平成の時代にあっては、こうした日常生活における人とのつながり・支えの乏しい高齢者の世帯の生活の支えとして、介護保険制度の創設(2000(平成12)年)などにより、公的制度が大きな役割を果たしつつ拡大してきた。
 例えば、介護サービスの利用者数をみると、1991(平成3)年においてホームヘルプで22万人、デイサービスで18万人であったものが、2018(平成30)年には年間受給者数ベースで訪問介護等の合計が149万人、通所介護等の合計が220万人へと大幅に増加している。また、介護保険制度において制度化されたケアマネジメントの利用者も、2018年には451万人となっている。

◆支え合う人がいること、情緒的なつながりを持つことが
 長生きに対する意識に良い影響を及ぼす

 2017(平成29)年の「生活と支え合いに関する調査」においては、「長生きすることはよいことだと思いますか」という設問で、長生きについての意識を調査している。この調査のうち、高齢世代(65歳以上)について、単独世帯と単独世帯以外の世帯に分けて見てみる。

単独世帯・単独世帯以外の世帯の別にみた「長生きすることはよいことだと思う」割合

 単独世帯以外の世帯の方が単独世帯よりも肯定的評価をする傾向が確認でき、さらに単独世帯であっても「(子ども以外の)介護や看病」について頼れる人がいる場合は否定的評価の割合が低くなる傾向が見てとれる。一方で、「喜びや悲しみを分かち合うこと」について頼れる人がいない場合は、単独世帯であるかどうかを問わず、否定的評価をする割合が高くなっている。
 この調査からは、頼れる人がいることが長期化する人生を前向きに生きていく意識を持つことに良い影響を及ぼす可能性があるが、そのつながりが情緒的な面を含まない場合にはその影響が低下する可能性がうかがえる。

第8節 「暮らし向きと生活を巡る意識」から

◆1990年代後半から、
 高齢単独世帯を中心に生活保護の受給世帯が増加

 高齢者の相対的貧困率は、図表1-8-14のとおり、長期的に改善傾向にあるが、生活保護の受給世帯の推移を見ると、1990年代後半から高齢単独世帯を中心に増加傾向にある。受給世帯の約半分は高齢者世帯であり、その9割以上を高齢単独世帯が占めている。

被保護世帯数等の推移

 生活保護の受給動向には、雇用や経済の環境、資産形成の状況などの様々な要因が影響していると思われるが、高齢化の進展とともに、高齢単独世帯の増加といった世帯構造の変化も大きく影響していると考えられる。
 平成の時代、高齢単独世帯総数は、1990(平成2)年の162万世帯から2015(平成27)年の593万世帯へと約3.7倍に増加しているが、2040(令和22)年には、さらに2015年の約1.5倍に増加すると推計されており、こうした動向も今後の高齢者世帯の生活保護の受給動向に影響を与える可能性がある。

第9節「社会保障制度をめぐる動向」から

◆平成の30年間の社会保障制度等の改革

 第8節まで見てきたように、平成の30年間、我が国の人口や寿命、働き方、地域社会、世帯や家族、暮らし向きなどは大きく変わってきた。こうした社会変容の中で、社会保障制度等も様々な改革が行われてきた。その内容は大別すると、①国民の生活ニーズに応えることを目的とした機能の強化と、②将来世代に制度を安定的に引き継いでいくための財政面での持続可能性の強化の2つとなろう。

平成の主な社会保障制度等の改革

◆介護サービス利用者は
 今後とも増加の見込み

 2000年の介護保険制度の創設以降、介護サービスの利用者数は着実に伸びてきており、2018年度で502万人と2000年度(184万人)と比べて2.7倍に増えている。
 今後、団塊の世代が後期高齢者となることもあり、引き続き介護サービス利用者は増加する見込みであり、2040年度で居宅サービス利用者は2018年度比で1.4倍(+156万人)、施設サービス利用者は同1.6倍(+89万人)になると見込まれている。

介護保険利用者数の推移及び見通し

 以上のように①人口、②寿命と健康、③労働力と働き方、④技術と暮らし・仕事、⑤地域社会、⑥世帯・家族、⑦つながり・支え合い、⑧暮らし向きと生活を巡る意識、⑨社会保障制度というテーマで平成の30年間の動向を振り返るとともに、2040(令和22)年にかけての変化について述べられている。

 ピックアップしたものは以上だが、こここで紹介できなかった部分も含め、ぜひシニアマーケティングを考え上での基礎資料の一つとして活用いただきたい。

「令和2年版厚生労働白書」
-令和時代の社会保障と働き方を考える-

全体版[PDF形式:87,585KB]
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/19/dl/all.pdf

令和2年度厚生労働白書」より
シニアに関するデータをピックアップする(前編)を見る

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