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室長の小部屋

パッケージメディアはシニアにとって「最後の砦」

  • 2019年7月10日

 パッケージに次のような機能が必要とされる(一般社団法人日本包装技術協会による)

1.内容物の品質保持機能
 ・内容物の品質保持や製品寿命の増加。
 ・内容物が食品や飲料などである場合には、品質保持期限の延長などを
  通じた、食品残滓などの発生抑制。

2.使う人への配慮
 ・高齢者や子供等にも扱いやすい製品であること。

3.輸送効率の高さ
 ・効率的な輸送が図れるものであること。
 ・山間部などの遠隔地にも届けやすい形状のものであること。

4.情報伝達の機能
  ・内容物の製品情報を適切に表示できるものであること。
 ・他の製品との混同や異物の混入を防げるものであること。

 シニアとパッケージの関わりにおいても全て必要な機能であるが、ここでは「4.情報伝達の機能=メディアとしての機能」ついて考えてみたい。パッケージはシニアにとって重要な「メディア」である。

 製品やサービスの情報はテレビCMなどのマスメディア、雑誌や新聞のレビューなどさまざまな形でユーザーに発信されている。最近ではWEBによる情報発信が主流になってきた。マスコミ広告でも「詳しくはWEBで」というのが決まり文句になりつつある。FacebookやTwitterといったSNS上で個人が発信する情報も見逃せない。他にも店頭POPやOOHといったメディアもある。

 しかし、デジタルに弱い、出歩くことが少ない、視覚の衰えが進むシニア、とくに高齢のシニアにとって、製品やサービスの情報を受け取る量は他の世代に比べ、どうしても少なくなってしまう。「情報受信弱者」と言えるだろう。更に取扱説明書や説明書きはすぐにどこかに行ってしまう。

 そうしたシニアにとって、パッケージは製品の情報を確実に受け取ることができる最後のメディアである。だからこそパッケージの情報を、シニアが理解しやすくする配慮が欠かせない。

 最近のパッケージは以前に比べて、シニアでも開けやすい、持ちやすいなどユニバーサルデザイン(以下UD)化は進んでいる。「メディア」として考えるときに重要なのはロン・メイスが提唱したUD7原則の4番目「必要な情報がすぐに理解できること」である。

 定義は「使用状況や、使う人の視覚、聴覚などの感覚能力に関係なく、必要な情報が効果的に伝わるように作られていること」であり、ガイドラインは以下の通りである。

 a. 大切な情報を十分に伝えられるように、絵や文字、手触りなど異なった方法を併用する。
 b. 大切な情報は、(例えば大きな文字で書くなど)できるだけ強調して読みやすくする。
 c. 情報をできるだけ区別して説明しやすくする(やり方が口頭で指示しやすくなるように)。
 d. 視覚、聴覚などに障害のある人が利用している、さまざまなやり方や道具でも、情報がうまく伝わるようにする。

 しかしシニアに向けては「UD」だけでは十分ではない。「バリアフリー」の考え方も加味する必要がある。政府は平成20年3月に「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要項」で高齢化社会への対応の一つとして「バリアフリー」と「UD」を併せて推進することを基本的な方針として決めている。

 まずパッケージのメディア機能において、シニアが抱える「ギャップ」の原因となるのは加齢による視力と脳力の衰えである。それを踏まえた上で、以下の3点に十分配慮する必要がある。
  1)見えるか
 2)読めるか
  3)わかるか
 「あたりまえ」のことだが、パッケージにおいてこれらを十分に満たすことはハードルが高い。私の身近にある薬や飲料などのパッケージで見てみよう。いずれもシニアがよく利用し、しかも使用上の注意など大切なメッセージが多い。

1)見えるか
 色の使い方、とくに文字の色と背景色との組み合わせがポイントとなる。加齢とともにコントラストに対する感度も低下するため、しっかり差をつける必要がある。コントラストは「明度差」で表わされるが、見えやすくするためには4以上を確保したい。最も見やすいのは白バックに黒の組み合わせ。

 医療用の点眼薬というのは非常に表示面積が狭い。取り違えを防ぐために色が変えられている。しかし、やはり白と黒の組み合わせが見やすい(左)。
 右は下部の「●遮光保存」という重要なメッセージがピンクのバックにスミ文字で書かれており読みにくい。注意喚起の濃いピンクが逆にアダとなっている。 どうしても他の色を使わなければならない場合は明度差をつける工夫が必要であろう。

白地であっても文字色が淡いと読みにくい。左はウェットティッシュのパッケージ成分表示、白地に淡いグリーンで表記されおり、シニアには判読が難しい。

  もう一つ、よく見られるのが色ベタや写真に文字を白抜きするケース。 左はパッケージ表面のビジュアルを横の記載面に伸ばしたもの。製品写真、テーマカラーのバックに小さな文字を白抜きにしている。これではシニアでなくとも読めない。「使用上の注意」という大切な情報が読めないのでは困る。白抜きの文字を使った場合は、文字の大きさ、太さに要注意。横側であればその部分は白地、もしくは淡い色なして、そこに文字を乗せれば読みやすくなる

 注意したいのが透明度の高い液体の医薬品や飲料などが透明のボトルに入っている場合。文字やピクトを乗せると見にくい(左)。できるだけ白でバックを敷いてからその上に乗せるようにしたい。逆の濃い色の液体が入っている透明、半透明のボトルに淡い色の文字を使うと、液が減ると文字が読みにくくなる(右)。

最近少なくなったが、牛乳などの紙パック飲料に賞味期限などをエンボス(押し型)で表示しているケース。明度差がなく、かすかな陰影で読み取る必要があり、シニアには見えにくい。

2)読めるか
 一番問題なのが「小さい文字」である。パッケージの場合、どうしてもスペースが限られおり、掲載義務(注意書き、成分表示など)のあるものはギュッと縮めて記載することになる。

 書体は最近UDフォントが普及し、比較的小さい文字でも可読性は改善されている。しかし老眼が進み、白内障にも悩まされているシニアにとって小さい文字は読めない、もしくは読むのが苦痛で読む気がしない。結果的に重要な情報を読み落としてしまう。左の例ではとにかく文字が小さく、シニアには読めない。虫眼鏡が必要である。しかし、これも特殊なケースではない。ごく普通にこのような小さな文字が使われている。

 もう一つ、シニアにとって読みやすさのポイントとなるのが行間と余白。下はヨーグルト飲料の例。行間、字間が詰まっており、黒々とした印象で読む気がおこらないし、読みにくい。まだ、字が大きいのが救いだが…。


 このよう例は他にも多く見られる。パッケージのような限られた面積の場合、文字を小さくしても、行間と字間に余裕を持たせたほうが読みやすくなる。

 文字の高さの最低50%以上のスペースを取りたい。理想的には70%くらいあるとシニアも読みやすくなる。

 「入れなければいけないものは、とにかく押し込む」タイプのレイアウトが多い。情報に優先順位をつけて、限られたスペースでも読みやすくする、そんな工夫を凝らしてゆきたい。

3)わかるか
 一番気になるのが「記載しておけば良い」という考え方である。記載されていても、それがシニアに理解できなければ記載されていないことと同じ。重要なことほど、紋切り型にせず、意味をわかりやすく伝えるべきであろう。

 よくあるのが、1センテンスが長い文章。シニアは加齢によって脳の海馬の機能が衰えるため、長い文章は苦手。長い文章を読んでいると前に読んだ部分がわからなくなり混乱する。そのため、できるだけ短い文章にすべきだ。

 読みやすいのは1センテンス35文字程度。ちなみに夏目漱石の名作「坊っちゃん」は平均35文字。小学校の教科書も30から35文字程度になっている。さらに内容を整理して「箇条書き」にするとよりわかりやすくなる。

 取り上げたパッケージはとくに探したものではない。 私の周りにあるものをあげただけである。つまりメディアとしてシニアの「最後の砦」とも言うべきパッケージに、改善のすべきものがまだまだ 多いということである。

 これらのパッケージを企画したプロダクトマネージャーやパッケージデザイナーも「そんなことは理解している」だろう。ただ、自分事でないために目をつぶってしまったのかもしれない。しかし、見えない、読めないではメディアとしての機能を失っていることにならなだろうか。

 パッケージは限られたスペースに、 決められた文言や数字 掲載しなければならない。手に取りたくなる魅力あるデザインも欠かせない。メディアとしてのパッケージの難しさはその役割の大きさの裏返しでもある。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也

<シニアマーケティングに関するお問い合わせ>こちらのメールアドレスにお気軽にご連絡下さい。

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