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「デジタルの壁」は70歳に後退か?
-令和3年度通信利用動向調査(最新)結果から読み解く

 今年の5月27日に総務省が令和3年8月末の世帯及び企業における情報通信サービスの利用状況等について調査した「通信利用動向調査」の結果を公表した。まず、その結果を概観しておこう。

今回調査結果の要点は次の4点

 総務省が今回の調査でポイントとして上げているのは以下の通り。内容的には昨年度とほとんど変わらない。数字が若干上振れしているくらいである。全体としてはデジタル化が進み、インターネット利用者が、13~59 歳の各年齢階層で 9 割を超え、普及率、利用率で大きな伸びは見られなくなってきている。

1.スマートフォンの保有状況は、世帯の保有割合が 88.6% 、 個人の保有割合が 74.3 %と堅調に伸びている。一方、携帯電話の保有状況は減少傾向が続いている。

2.個人のインターネット利用機器は、引き続きスマートフォンがパソコンを上回り、 20~ 49 歳の各年齢階層で約9割が利用している。 SNS (ソーシャルネットワーキングサービス)を利用する個人の割合は 78.7% に達した。

3.テレワークを導入している企業の割合は 51.9 %に達し半数を超えた。導入目的は、「新型コロナウイルス感染症への対応(感染防止や事業継続)のため」の割合が9割を超えており最も高い。

4.クラウドコンピューティングサービスを導入している企業の割合は 70.4% となり、7割を超えた。場所や機器を選ばない簡便さや、資産・保守体制のアウトソーシング化等がメリットとして認識されており、「非常に効果があった」又は「ある程度効果があった」とする企業は、導入企業全体の 88.2 %に上った。

スマフォファーストとSNS利用の拡大

 今回は調査のポイントの中で、注目すべき点として以下の2つが上げられている。

スマフォファースト:個人のインターネット利用機器は、スマートフォンがパソコンを上回り、 20~49 歳の各年齢階層で約9割が利用している。シニアについて見ても60歳代で7割を超えている。さらに6~12歳をのぞく(学校の授業利用でタブレットがトップ)、すべての年代でスマートフォンがインターネット利用機器のトップとなっている。

シニア層でのSNS利用拡大:もう一つはSNSを利用している個人の割合が、ほぼ全ての年齢階層で増加し、特にシニア層、 60 ~79歳の各年齢階層での伸びが大きい点に注目している。
昨年の調査に比べ、60歳代で60.6%から71.7%へ、70歳代では47.5%から一気に60.7%と半分以下から6割超えに伸びている。80歳代でも47.4%と5割に近づきつつある。とくに高齢者はコロナ禍で、対面のコミュニケーションが難しく、それを補うために利用するという一面があったのではないかと想像される。

 インターネット利用上の不安については、年齢が高くなるほど、不安に感じる利用者が多い傾向が見られる。最も割合が高くなるのは60歳代。70歳代、80歳代は利用の範囲、頻度が少なくなるため、少し割合は低くなっている。「十分理解せずに使っている」という自覚が高齢者にあり、そのことから不安に感じる割合が高くなっていると思われる。

 60歳代はデジタルリテラシーと利用頻度のアンバランスが最も大きくなっている点で、不安も最も大きくなっているのであろう。ただ、全体の傾向としては昨年に比べ、不安はやや低下している。デジタルリテラシーの向上が不安を低減させていると考えられる。

 今回の調査結果でも、60歳代、70歳代のSNS利用率が大きく伸びるなど、シニアのデジタル化が確実に進んでいることが読み取れる。では今回の調査結果から、デジタルシニアは何歳までなのか、「デジタルの壁」は何歳にあるか考えてみたい。

シニアの「デジタルの壁」は後退している

 シニアのデジタル化を見る、基本的な数字として「インターネットの利用状況」がある。
以下が最新のデータをグラフにしたものである。

 これで見ると令和3年の調査では60歳代で84.4%、70歳代で59.4%、80歳以上で27.6%となっている。

※いずれも令和元年の調査より減少している(高齢者だけではなく、他の年代でも減少している)。昨今のシニアを取り巻くデジタル環境やICT化の流れの中で減少することは考えにくいことと、令和元年の数値が飛びぬけて高くなっていることを見ると、令和元年の数値は考慮しない方が妥当と考えられる。公表された調査結果でも「令和元年調査については調査票の設計が一部例年と異なっていたため、経年比較に際しては注意が必要」という文言が記されている

 この結果で見ると前回同様60歳代から70歳代になると数字が大きく減少する。このあたりに「デジタルの壁」がありそうである。このインターネットの利用経験を前回(令和2年調査)と今回(令和3年調査)で比較してみよう。

 これを見ると、前回の調査では、60から64歳までの、現在ではほぼ現役世代と65から69歳のいわゆる「前期高齢者」となる世代に10ポイント近い差がみられる。今回の調査でもその差はかわらないが65から69歳でも8割に達した。60歳代と70歳代では70歳代がやや低下したせいもあり、25ポイントもの差がついた。ここに壁がありそうである。

 もう一つ、インターネットをどれくらいの頻度で使っているかのデータが下のグラフ。

 利用頻度で見ると、60歳代でぐっと減る。しかし今回の調査で60歳代前半は8割を超えた。60代後半も7割を超えてきている。60歳代全体でみても77.4%と8割に迫りつつある。

シニアの「デジタルの壁」はこの1年で70歳代に後退

 デジタルの壁を昨年と同じようにエベレット・M・ロジャースのイノベーター理論に当てはめて考えてみよう。この理論では普及の段階を1.イノベーター=革新的採用者(2.5%)、2.オピニオンリーダー(アーリー・アダプター)=初期少数採用者(13.5%)、3.アーリー・マジョリティ=初期多数採用者(34%)、4.レイト・マジョリティ=後期多数採用者(34%)、5.ラガード=伝統主義者(または採用遅滞者)(16%)の5つのタイプに分類する。

 上記のうち、ラガードを除く4番目のレイト・マジョリティまで普及した年代までをデジタル世代ととする。そうすると利用者の割合が84%を超えたところにラインを引くと、前回調査では60から64歳はボーダーを超えていたが、60歳代全体ではボーダー以下となっていた。

しかし、今回の調査で、60歳代全体で84.4%となり、84%のボーダーを超えた。
では利用頻度の方を見てみよう。

 こちらは60歳代以降、まだ84%のボーダーを越えていない。しかし、60から65歳で81.5%と8割を超え、84%まであと一息のところに来ている。60歳代で見ても77.4%まで上がってきている。さらに先に見たようにシニアのSNS利用が大きく伸びていることを考えると、利用頻度はいっそう勢いがつくに違いない。

 このように見ると、「デジタルの壁」は前回調査では60~64歳あたりにあると考察したが、1年後の今回調査では70歳の前あたりに後退したと考えることができる。

 半世紀以上の前の理論(1962年の発表されている)で今のデジタルの状況を判断することに無理があるのかもしれいない。しかし今もこの理論(数値)がさまざまなところで使われていることを考えると、参考値とすることはできる。

デジタルの壁は日々後退している

 基本的なデジタルスキルは一度身につくと、なくなるものではない。飛躍したたとえになるが「一度免許をとると、一生車を運転できる」と同じことではないか。基本的なデジタルスキルが身につくと、デジタルに対する不安やアレルギーがなくなる。だから毎日の暮らしに入ってくる、さまざまデジタル技術やその発想に対応できる。もちろん、デジタルの進歩に合わせてスキルや知識をアップデートする必要があるが、「運転の基本」を忘れることはない。

 結論としては一昨年(令和3年)の調査時点で、シニアの「デジタルの壁」は65歳近辺と考えられたが、今回の調査結果から70歳くらいに後退したといえる。しかし、デジタルの壁は加速度的に後退してゆくので、2040年ころにはほとんどの高齢者が「デジタルシニア」なっていると考えられる。

 「シニアにデジタルはリーチするか?何歳くらいまでならデジタルはOKか?」という質問をよく受ける。上記の考察を参考にしていただければ幸いである。

 ただし、当室で何度も強調しているように、シニアは一つの塊に見えて、実はそうではない。一つの塊として見てはシニアマーケティングを誤ってしまう。ターゲットのペルソナをしっかり分析して「森を見て、木も見る」ことを忘れないでおきたい。

        シニアマーケティング研究室 倉内直也