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疲労を防ぐと、高齢者に発生しがちな症状が緩和される

加齢によって生じる身体と脳の課題は、疲労が心身に引き起こす悪影響と同じであることが、医学研究者の間で注目されている。

高齢者が抱える3つの課題は、疲労が引き起こしている部分もあるのではないか?ならば疲労を防ぐことができれば、高齢者が抱えがちな身体・脳に生じる症状が緩和するかもしれない。
大阪市立大学渡辺研究室では、長年、疲労科学をテーマに研究している。以下、同研究室の田中雅彰先生に伺った仮説と研究成果を紹介する。

田中雅彰(たなかまさあき)
大阪市立大学大学院医学研究科 病態生理学 講師/医師・医学博士

なぜ疲れるのか?
疲労のメカニズムから
疲れが発生しにくい方法を探す

これまでさまざまな情報誌やTV番組、Webなどで、疲労解消法が紹介されている。たとえば疲れをとるためにはバランスのとれた食事(ビタミンB/Cや鉄分を摂取する)、軽めの有酸素運動をする、瞑想をするなど。
しかしそうではなく、疲労を生じさせないこと。そのためには疲労が生じるメカニズムを知り、疲労発生の流れを断ち切ることが必要だ。

■疲労発生のメカニズム

疲労の原因は、活性酸素。これによって細胞が傷つき、機能が低下する。認知・情動・身体機能が低下する。さらに慢性的に疲労を抱えていると、長時間、活性酸素の影響を受け、細胞が脱落したり細胞と細胞をつなぐシナプスが脱落。記憶力にダメージを受ける。しかし抗疲労の治療を施すと、疲労により縮んだ脳が戻ることが確認されている。(脳の萎縮は大阪市立大学にて、脳の回復はオランダのラドバウド大学にて確認)
疲労発生を抑えるために、活性酸素の発生を抑える抗酸化物質の利用研究が進んでいる。

■従来の疲労対策方法

しかし、日常生活において活性酸素発生を抑える物質をすぐに摂取することは、難しい。そこで、もっと上流から疲労発生の課題に取り組むことも必要である。

疲労のモトを発生させないために

疲労3大因子のうち、「高齢者の疲労を抑える」という課題から考える場合、オーバーワークを懸念する必要性は低いだろう。残る課題は、ストレスを発生させないことと質の良い睡眠の確保。

■疲労発生のモトを発生させない

1)高齢者のストレス

多くの高齢者は仕事のプレッシャーや煩わしい人間関係から解放され、ストレスを受けることが少ないように思われがち。しかし年齢階級別にみた悩みやストレスを抱える人の割合は、他の世代と比べると少ないが極端に少ないわけではない。また80歳を超えた世代では、70代より増加している。


高齢者が抱えるストレスは、加齢に対する適応障害によるものが多いという。
身体的衰えにより今までできていたことができなくなったり、友人が亡くなったり、高齢者はさまざまな変化に対峙していかなければならない。これらによって、ストレスが発生する。

2)高齢者の睡眠

統計でみると、高齢者の睡眠時間は長い。しかし生物学的に深くぐっすり眠る時間が短くなり、床に入ってもなかなか寝付かれない「入眠困難」、トイレなどに起きる「中途覚醒」、ぐっすり眠れない「熟眠困難」、朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」などが多い。(公益財団法人 長寿科学振興財団 発刊『高齢者の睡眠とその障害』 一般財団法人全日本労働福祉協会 会長 栁澤信夫氏執筆 「高齢者の睡眠とその障害」より抜粋)
高齢者の多くは床についている時間が長くても、質のよい睡眠を得られていない、と考えられる。

「良質なコミュニケーション」が
ストレス軽減、睡眠改善に効果あり!

抗疲労研究を長年積み重ねてきた、大阪市立大学渡辺研究室では「良質なコミュニケーション」が疲労改善に効果があることがわかってきた。高齢者に対しても同様の効果があると考えられる。
この考えを背景に、ピップが高齢者向けに発売するコミュニケーションロボット「うなずきかぼちゃん」の効果を測定した。(現在はピップRT株式会社が発売)

うなずきかぼちゃん」2011年発売
ピップ株式会社と株式会社ウィズにより共同開発
うなずきながらコミュニケーションをとるロボット
○親しみやすい風貌
○話し方は「明瞭・ゆっくり・大きく」
○簡単操作
○手が届きやすい価格設定(20,000円(税別))
※現行モデルは、25,000円(税別)
かぼちゃんのコミュニケーション
・話しかけると言葉が途切れたことを認識して、うなずきながら返答する、うなずきコミュニケーション
・5種類のセンサーとボタンにより、自己の状態を認識し、それに適した発話をする。
例)抱っこすると「ふかふかの雲の上みたい」と言ったり、抱っこが気持ちいいと眠ってしまったりする。

【実験内容】
○自宅独居の非認知症女性高齢者(平均年齢73歳)34名の方を対象に、調査。
○Aグループ(18名)は「うなずきかぼちゃん」と2ヶ月間、自宅で一緒に生活してもらう。
Bグループ(16名)は、コミュニケーションロボット機能をもたない、見た目はまったく同じ「かぼちゃん」と2ヶ月間、自宅で一緒に生活してもらう。
○一緒に暮らす前・1か月後・2か月後の計3回において、抗疲労や癒し効果を評価。

【実験結果】

コミュニケーションロボット「かぼちゃん」と生活した被験者のコルチゾールは低下(ストレスは軽減)。睡眠時間は伸び、中途覚醒は減少し、睡眠の質が改善。被験者全員が抗疲労に効果があると回答している。

認知・情動・身体機能に、改善効果
一般的に、多くの高齢者が抱える身体・脳に関する課題についても、うなずきかぼちゃんと暮らしていただいた方々に改善効果がみられた。

情動機能もあがっていることがわかる。
アンケート調査では、うなずきかぼちゃんと暮らした被験者から「体重が増えた」「栄養状態がよくなった」といった声が寄せられた。身体機能にも効果がみられている。

以上、大阪市立大学渡辺研究室、田中先生たちの研究から、「かぼちゃん」とのコミュニケーションがもたらす効果が明らかになっている。
ストレスを抑えて睡眠の質を改善、疲労発生を抑制すると、「認知機能」「情動機能」「身体機能」の改善が見込まれる。
高齢者のQOL維持・向上を揺るがす、「認知機能の低下」「情動機能の低下」「身体機能の低下」を遠ざける「質のよいコミュニケーション」は、ロボット活用以外にも、いろいろな方法が考えられる。
科学的に効果が示されている手法を高齢者の日常生活にどう提供するか。新たなサービス・商品の提案が期待される。

株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子

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