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今なら、75歳超にデジタル提案は届くのだろうか?

 2025年1月に公開した記事、「2025年、すべての団塊の世代が後期高齢者 変遷する高齢社会」において、過去の75歳超と現在の75歳超における以下の変化を挙げた。
 1)75歳超高齢者においても、働く人は増加
 2)75歳超も体力は向上
 3)所得は中間層と最下層が増加、貯蓄は若干格差が拡大
 4)消費スタンスの変化
 5)IT力の変化
今回は「5)IT力の変化」も含め、さらに高齢化していく社会でしばしば取り上げられるデジタルの活用が、後期高齢者層に届くか・活きるかについて検討していく。

75歳超は“デジタル”に、実際どれくらい
慣れ親しんでいるのだろう

 デジタルによって様々な仕事が変化している。省力化ができたり時短ができたりすることで、現役時代より体力等が衰えても、高齢者が働く、活躍する機会が生まれるかもしれない。また移動などに不自由が生じてきた高齢者に必要なものやサービスを届けるにも、家族や友達との交流にも、デジタルを活用できれば解決できることが増えそうだ。支援が必要な人に、今までより少ない人数でも行き届いたケアやコミュニケーションを行える仕組みや道具が登場しつつある。
 デジタルの活用は高齢社会のさまざまな課題の解決、さらにはよりよい提案に繋がると考えられている。
 加えて高齢者自身がデジタルツールやサービスを容易に利用できれば、その可能性をもっと広げられるのではないだろうか。
 60代の高齢者については、日常的にスマホを使っている姿をよく見かける。比較的、積極的にモバイルを利用している様子が目に見えてわかる状況になってきた。75歳以上についてはどうだろう。

 実際の高齢者のデジタル利用具合を見てみよう。

総務省「通信利用動向調査」2015(平成26)年版および2024(令和6)年版より作成
総務省「通信利用動向調査」2015(平成26)年版および2024(令和6)年版より作成
総務省「通信利用動向調査」2015(平成26)年版および2024(令和6)年版より作成

 確実にネット経験者率もスマホ保有率も、インターネットの利用頻度も高まっている。環境も利用する機会も向上している。では実際、どれくらいのことができるのか。

どれだけ “デジタル”を使えそう?
75歳超の具体的なデジタル利用について

 デジタルツールを使ってこその提案が届くか否かは、既にどの程度使っているかが鍵。それは時間や頻度に加えて、多様な使い方をしているかどうかである程度、推測できる。
 ご存じの通り一般的に、デジタル機器はボタンや画面の意味が直感的に使える工夫がなされていて、操作概念はあらゆるギアやアプリが共有している。ネット経験率が高くなったから、スマホの所有率が高くなったから、シニアへデジタル提案が届く、と考えてよいものか、その習熟具合を推測できるデータを紹介する。

総務省「通信利用動向調査」平成29年版および令和6年版から作成
2017(平成29)年調査の質問では8項目の選択肢、2024(令和6)年調査では選択肢が9項目に増加。よって、年代ごとにできると答えたスキル項目のパーセンテージを合計しただけでは、両年のスキル具合を比較できない。そのため合計値を2017(平成29)年は800(100%×8項目)、2024(令和6)年は900(100×9項目)で割って比較できるようにした。
例)平成29年調査の20-29歳で「ファイルのコピー、文字や図表のコピー・貼り付けができる」から「プログラミング言語を使用してコンピュータプログラムを作成できる」まで出来ると答えた率の合計475を800で割り、100をかけたのが59.375。ここでは小数点2以下を四捨五入して表示している。

 全世代スキルが向上しているが、70-74歳、75-79歳においてはグラフを見るに倍以上になっている。複数のスキルを身に着けた人が急増していることが推察される。
 しかしやはり、59歳未満と見比べると違いは大きい。
 特に、応用力や新しいコミュニケーションツールへの慣れを考えると、ネットを通じたダウンロードやインストール作業、SNSを使ったやりとりに慣れているかどうかは気になる。デジタルを使ったサービス設計の提案が現実的かどうか、推測するにあたってひとつの指標になるのではないだろうか?
 この傾向からするとデジタルを活用したサービスや道具をつくっても、提供するだけでは70歳超/75歳超における活用は難しいと考えられる。

総務省「通信利用動向調査」令和6年版から作成
総務省「通信利用動向調査」令和6年版から作成

 75歳以上になるとダウンロード/インストールは16%、SNSは12%。
 つまり受け身主体でない作業、新しいツール(アプリ)への対応力を推測すると、使えそうな人は決して多くはない。しかしできそうな人は1割余りだが、確かに存在している。

総務省「通信利用動向調査」平成29年版および令和6年版から作成

 もうひとつ、ネット経由によるサービスやサポートの提供がどれくらい現実的か。推測するにはインターネットでいろいろなことをやっているかどうかを見てみることで、ある程度の推測ができそうだ。

総務省「通信利用動向調査」平成26年版および令和6年版から作成
2014(平成26)年調査の質問では28項目の選択肢、2024(令和6)年調査では選択肢が19項目に減少。
よって、各項目の合計をそれぞれ2800(100%×28項目)、1900(100%×19項目)で割って相対的に比較できるよう計算。
例)平成26年調査の20-29歳で「電子メールの送受信(メールマガジンは除く)」から「その他」まで、目的・用途として答えた率の合計991.3を2700で割り、100をかけたのが35.4。(小数点2以下を四捨五入

 このグラフで見ると全世代ともに確実に利用用途が広がっている。できることが増えている75歳超も大きく伸びている。
 しかしやはり他の世代に比べると、使っている範囲が限られることに変わりはない。

総務省「通信利用動向調査」平成29年版および令和6年版から作成

延びてはいるが個人差が大きい
75歳超のデジタル力
に、高齢者同士の互助

 これらを見てわかったことを整理すると以下になる。

1.他の年代同様に75歳超も、デジタルツールを使える範囲/できる人は
  この10年で増大している。
2.しかしながら他の年代と比べると、75歳超でできる人はかなり限られている。
3.65-69歳世代でみると、使える人が増えている。

 こうした人数は少ないが“使える75歳超”と、“使える65歳~”とを協力者にできる仕組みをつくり、多くの75歳超のシニアがデジタルを使って活躍したり、支援を受けやすくなったりするようにできないだろうか?
 あるいは過去記事「85歳以上が2036年には1,000万人 始めたい、「ふだんを繋ぐ」事業」でも紹介した、既に存在する学生や若者がシニアをサポートする仕組み「まごとも 株式会社whicker」や「エイジウェルジャパン 株式会社AgeWellJapan」に、“使える75歳超”と“65歳~”を加える仕組みはできないだろうか?高齢者だからわかる、習得までの高齢者特有のスピードやクセを踏まえた伝え方が開発できるのではないか。

 75歳超シニアへのデジタルを活用した提案に、可能性は広がっている。ただし“使える75歳超”と“使える65歳~”を巻き込みながらの提案、開発をお勧めしたい。

シニアマーケティング研究室 石山温子