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高齢期に安心な、「私の社会」を広げておく

 近年、SNSを通じて「闇バイト」や緩やかな結びつきで集まり、共犯となる者も多い特殊詐欺。広域化が進み、手口は変化し、巧妙化・悪質化により被害件数は増加している。

警察庁犯罪統計各年デーより作成

 高齢者を狙ったさまざまな詐欺は一向に鎮静する気配はない。年代別で詐欺被害を見ると下記のように、上の年代ほど被害件数が多いことがわかる。

警察庁犯罪統計各年デーより作成

 警察、自治体、メディアなどから高齢者に対するアラートはもう何年も展開されている一方、詐欺の手口は進化・変化。しかし、こうした中で詐欺を阻止できている人たちもいる。

だましについてどう思っていたか。どう行動したか
被害にあった人とそうでない人には、違い

 同調査では、被害を受けた人、事業者(金融機関職員、コンビニ店員、配送スタッフなど)の声掛けによって被害にあわなかった人、家族・親族が見破り被害にあわなかった人、自ら看破した人たちに、特殊詐欺の被害にあう可能性についてどう思っていたか。だましの電話やメールを受けた後、その内容を誰かに話したか否か、尋ねている。

警察庁2018年調査 「オレオレ詐欺被害者等調査の概要についてより作成
警察庁2018年調査 「オレオレ詐欺被害者等調査の概要についてより作成

 被害にあった人も事業者阻止や家族阻止で免れた人も、自分で看破した人に比べて「被害にあわないと思っていた」、と回答した人が多い。被害にあう可能性を意識しているかいないかが、気づくことができるか否かに関係していると推察できる。自分が被害にあうことを頭の隅っこにでも持っているか否かが、だましに気付くチャンスをつくっている。
 もう一つの傾向は、被害者の多くがだましの電話やメールの事態を誰とも共有していないこと。被害を免れた人の多くは、誰かに話している。話すことが気づくきっかけ、阻止に繋がっている。常日頃から持っている繋がりや人に話す習慣が、危険回避に大きく貢献しているのではないだろうか。
 自己看破した人について、「誰にも話していない」が4割と比較的多いが、これは自らおかしいと判断できていたので相談が不要だったのだろう。

ふだんのつながりから生まれる
自分をまもる環境

 私が参加している趣味サークルのひとつは、参加者の半数が高齢者。主催者はときおり同じ校区内で起きた話などを交えながら、特殊詐欺について話題に出す。自然と特殊詐欺関連の話題をみんなが出し合い、結果、参加者の意識に刷り込まれている。他人事ではなくなり、意識が高まっているのではないだろうか。
 単なる趣味の集いで、警察や民生委員から何か要請を受けているわけではないのだが、誰かがニュースや近所の出来事を話題にすれば、当然、そこにみんなの意識が向く。

 主催者が意識して特殊詐欺を話題にする時もあるだろうが、人が集まれば、災害が起きたときは災害の話、戦争のニュースであふれている日は戦争の話題がのぼる。その時々のことを合間に話すだけで、自然と参加高齢者の知識や意識はアップデートしている。

 特殊詐欺が話題になれば意識が高まりアンテナ感度が磨かれる。加えて、先ほどの「その電話やメールの内容を誰かに話しましたか」という問いのように、誰かに話す可能性は高まるだろう。

 情報が入ってくる、何かあれば人に話したくなる、意見を聞きたくなる。そういう日常を手にいれておくことが、高齢者自身を守るのではないだろうか。

高齢者は相談しあえる相手を持っているか?

 家族以外に相談し合ったりできる人がいるか?60歳以上の各年代に尋ねた結果が下記。80歳以上で大きく減少していることがわかる。またもっと若い世代、60代においては、相談し合うような親しい友達がいる人は6割を切っており、70代においても6割そこそこ。

 「多くの人が安心な社会生活を手にしていますね」、とまで言える状態ではない。

令和2年 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(全体版) 内閣府より作成

 男女ともに80歳を超えると相談相手がいる人が急激に減少するが、その前の年代では男性より女性の方が明らかに頼り合える相手を持っている。

令和2年 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(全体版) 内閣府より作成

 「でも女性の方が詐欺にあっているイメージがあるのだけれど…」と思われる方もおられるだろう。確かに、特殊詐欺にあった人の男女数で見ると確かに女性の方がはるかに多い。しかし人口比でみると、その差は、最も差がある80歳以上でも0.027%。
 そもそも女性の方が母数となる人口が多く、配偶者(夫)に先立たれ独居が多くなっていることも、詐欺件数が多いことに関係しているのではないだろうか。

警察庁犯罪統計各年データより作成
警察庁犯罪統計(令和4年1月から12月および総務省 年齢(各歳)、男女別人口及び人口性比-総人口、日本人人口(2022年10月1日現在)より作成

高齢期の社会生活維持の重要性
市民自身は、意識できているか?

 人は加齢にともない今まで持っていた社会を失う。役割がなくなったり(退職など仕事からの引退)、行動範囲が狭くなったり(健康が損なわれたり、免許を返納したり)、親しい人が亡くなったりする。意識して広げなければ、たいていの人は社会生活が縮小する。
 先ほどのグラフにあったように、女性も80歳以上になると「親しい友人がいる」と答えている人が急減している。より高齢になるに従い、親しい人が亡くなったりしているのだろう。

 しかし当室行ったプレシニア(45~59歳)に対する調査では、高齢期の社会生活を豊かにしたいと考えている人は53.3。実際に行動している人は、わずか21%であった。(調査結果の概要はこちら、調査結果のダウンロードはこちら

 これを男女で見比べると、女性の方が高齢期の人間関係を豊かにすることを意識しているし、行動にも移している。

 これが先の「相談しあったり、世話をしあったりする友達がいますか?」の問いに対する男女の違いに繋がっているのではないだろうか?
 人間関係(社会生活)が豊かであることは、高齢期のくらしを充実させたり安心・安全な環境づくりに寄与したりするだけでない。
 以前「今の健康支援アプリに欠けているのは、「社会とのつながり」」でもご紹介したが、「社会生活」の維持は、健康を実現するためにも欠かせない。

 高齢期を豊かにするために、安心安全な暮らしを支えるために、そして健康でいられるために大切な「私の社会」。しかし大抵は加齢に伴い縮小する。
 できることなら体力・気力にまだ余裕のある中年期から、「自分が関わる社会」を意識できる、広げたり深めたりできる、新たな提案が望まれる。

シニアマーケティング研究室 石山温子