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認知症を早期発見、早期治療
そして共生するために

 アルツハイマー型認知症新薬のニュースが続いている。
 2023年4月4日、エーザイ株式会社から「レカネマブによる治療により、AD(アルツハイマー)病態進行を遅らせ、早期AD段階にどどまる期間が延長され、生活の質(QOL)の改善の可能性が示された」と、リリースされた。
 さらに5月には米イーライリリーにより、アルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」が病気の進行を3分の1ほど遅らせるという報告がなされた。

 認知症に対する社会的関心は高い。高齢者にとっては「がん」より認知症への不安が大きい」。

認知症患者数は600万人超
2040年には800万人超という試算も
 がんに比べて認知症の予防法や治療法の取り組み・確立はまだ浅い。一方で、近所で家に帰れなくなった高齢者の話や認知症の親の介護の話を聞いたりすることは少なくない。明確な解決方法がまだ見えていない、今の生活を変えてしまうといったことで、多くの人が認知症に対してより強く不安を感じる。
 高齢社会になることで、認知症患者数は次のように増加すると試算されている。

 こうした中、認知症に関する研究は進み、さまざまな財・サービスが開発されている。
 治療薬だけでなく予防に役立つ運動や学習、生活習慣の情報、早期発見につなげる取組も盛んだ。
 株式会社島津製作所は、血液バイオマーカーからアルツハイマー病の早期発見を提案
 またAIの活用によって認知症の予兆捕捉、診断の進化には目覚ましいものがある。

 脳画像の読影や画像解析をAIで自動診断できるという進化に加え、脳を直接みなくても、認知症患者に出現する傾向と比較して判定できるプログラムが開発されている。
 慶応大学などのチームは、会話を通じてAIが認知症への罹患を精度9割で判定できるプログラムを開発。
 大阪大学株式会社エクサウィザーズはAI技術を活用して、デュアルタスク遂行能力の評価で認知症を早期診断する医療機器を開発するとリリースした。
 2022年のDCON(ディーコン)で最優秀賞を獲得した一関高等専門学校による、認知症患者の歩き方から兆候を捉える研究「D-walk」は、磐井AI株式会社の起業から社会実装へと取り組みが進んでいる。

 早期診断が進むと早くに治療を始められて、場合によっては発症させることなく命を終えることも可能もしれない。
 しかし必ずしも誰にとっても早期発見、早期治療が可能なわけではない。治療が高額な場合、誰でも利用できないかもしれない。早期発見も周囲の気づき、本人の違和感や意識、そして検査行動がなければ発見に繋がらない。発見が遅れれば、治療は難しくなる。進行を抑えられない場合もあるだろう。
 早期診断の方法や治療法の開発を進めると同時に、認知症を発症しても自分らしく生きていける環境を整えていくことも欠かせない。
 国が進めている認知症対策要綱においても「予防」と同時に「共生」が車の両輪として示されている。 (認知症施策推進大綱(概要)

「認知症とともに」は、浸透しはじめている?
 認知症は誰もがなりうるものであるとして、「普及啓発・本人発信支援」が重視されている。実際、多くの認知症当事者の方々がテレビや新聞などマスメディアに出演し、いろいろな工夫でもって自宅で家族と暮らしている姿が報じられている。認知症の人がホールスタッフとして働く「注文を間違える料理店」も広く知られるようになった。各地では認知症になっても夢を持って活動できることに気づいた人たちが中心になり、認知症の方々が活躍する場づくりが進んでいる。(例:門真市のゆめ伴プロジェクト
 こうした情報提供や活動成果もあってか、「認知症になってもできる限り今までの暮らしを続けたい」という傾向が見受けられる。

 認知症になっても工夫やサポートで、今まで暮らしてきた地域で暮らしたいと考える人が全体で4割以上。70歳以上であれば5割弱を占める。
 しかし認知症に対してどういうイメージを持っているかというと、自立が難しかったり、施設での生活が必要になったりすると捉えている人が多い。

 特に目立つのは、70歳以上で地域での生活に対して大きくトーンダウンしていることだ。工夫やサポートで補い地域生活ができると言う人は減少し、難しい、あるいはわからないと答える人が多い。
 75歳から後期高齢者医療制度が設けられているように、70代は自分の心身に課題を感じる年代。認知症に限らず、健康面、体力、気力、思考力などに変化を感じて始めている人が多い70歳以上が「難しいかも…」と感じるのは自然なことだ。

上の二つのグラフ数値から作成

 高齢になるほど認知症の発症確率は上がる。「地域で暮らし続けたいけれど、できる気がしない」と思っている高齢者が、ある一定数いる。そこに叶えられていないニーズ、市場があるのではないだろうか。

なぜ「できる気がしない」のか?
地元を知ること、つながることは第一歩になる
 認知症になっても自宅で暮らしていくために必要なことは、何か。
 認知症の進み方も症状も一概には言えない。できなくなることと、続けたいことも人によって異なる。生活環境ももちろん違う。どんな困りごとが発生して、どう対応できるか。いろいろな経験談がネットなどでも紹介されているが、いざ自分のこととしてすべてを事前に知っておくこと、備えておくことは難しい。
 同じエリアに住む、認知症を発症している人たちがどのように暮らしているのか。認知症がいよいよ進んだ時、どうしているのか。相談できる相手がどこにいるのか。
 自分の周辺の話として知っていること、そして身近なところでつながりを得ていること。この2つが揃えば、できるだけ自宅・地域で暮らしたいニーズは現実的に考えられるのではないだろうか。

現代の70代が、地域生活で直面しがちな課題
 同じエリアに住む、認知症を発症している人たちがどのように暮らしているのか。認知症がいよいよ進んだ時、どうしているのか。相談できる相手がどこにいるのか。
 自分の周辺の話として知っていること、そして身近なところでつながりを得ていること。この2つが揃えば、できるだけ自宅・地域で暮らしたいニーズは現実的に考えられるのではないだろうか。

 一方で、現在の高齢者は長く働く人が増えている。働くことは健康維持に効果的で、認知症を遠ざけることにも役立っている。しかしその分、地域生活を始めるのは遅くなる。
 60-64歳では7割超、65-69歳でも半分は就労。3割は70歳を超えても働いている。つまり、完全に地域に帰ってくる時期は昔に比べて一層、高齢化している。

労働力調査(基本集計)平成24年および令和4年平均結果の要約から作成

 子育て時代は交流豊かであった地域活動も、こどもが大きくなり仕事が忙しくなると、途絶えてしまう人は少なくない。しかし今まで暮らしてきた地域で、認知症になっても今まで通り自立的に生活するためには、今の地域資源を知り、地域とのつながりを新たにする必要がある。そして地元で認知症の方々がどんな風に生活しているかも知っておきたい。
 現代人は65歳、70歳を超えて、住んでいる地域と新たにつながり直す必要が生まれている。

これからの70代に有用な提案
わがまちの「認知症との共生」を知り、つながる
 歳を重ねるほど身近なテーマになる「認知症との共生」。どのような状況において、どのような支援を受けて、自宅生活が可能なのか。
 介護関連の事業所は、認知症の課題をもちながら地域で暮らしている人たちの支援も行っている。食事や物品を配達している事業者のお客様にも、認知症を抱えながら地域で暮らしている人がいるだろう。地域の店舗では認知症の方が買い物に来ているお店もあるかもしれないし、認知症カフェの場所として提供している店もあるかもしれない。しかし認知症の課題を持っていない住人は、自分のまちで営まれている認知症との共生に関わることはほとんどない。本当のくらしを知る機会がない。

 認知症の方の自宅生活を支援している事業者が、その関わり合いを地域住民に発信していくことで、多くの方に自宅で長く暮らせるイメージが伝わる。疾病と暮らす人に選ばれる事業者として伝えることができる。もちろん同時に、個人情報をどう守っていくか、当人や家族の考えを確認・了承をとることは欠かせない。

 地域の社会福祉協議会などと連携し、認知症の方の在宅生活コンテンツを開発すれば、長期の顧客を獲得できるかもしれない。今後、80代・90代が増加する高齢社会において、「認知症との共生を支援する事業スタイル」は、開発の有用性が高いのではないだろうか。

シニアマーケティング研究室 石山温子