高齢者はどういうニーズを持っているか。
今回、提案したいのは、データと観察と心理学から見えてくる、高齢者の「利他ニーズ」だ。
高齢期において、多くの人は「誰か・何かの役にたちたい≒認められたい」という気持ちが特に高まり、行動に結びついていく。
ボランティア活動を支える、高齢者
ボランティア活動に参加する高齢者は70-74歳で30%。身体的に課題が発生している人も少なくないことを加味すれば、ボランティアに対して高齢者世代はかなり積極的と言えるだろう。
高齢者の社会活動への取り組みを見ると、具体的には次のような活動に参加している。そして、多くが無報酬で活動している。
こうした無報酬が多い地域活動に参加している高齢者は、収入が多いほど参加率が高い。こういう条件下で、多くの高齢者が社会活動に参加している、という事実に、「〇〇のために動く」高齢者の行動特性を見ることができる。
「教え好き」なシニアの行動特性
高齢者の利他的行動は、インターネットショッピングのレビューを書き込む理由にも見受けられる。 「自分の体験を他の人にも伝えたい」と答える人は、60代が最多。20代と比べると14%も多い。
こう書くと「シニアはそもそもレビューなんて書くの?」と言われそうなので、念のために下記グラフも示しておく。60代のレビュー書き込みは、50代に次いで高い。
周りの高齢者の行動を観察すると
「〇〇のためにしている」
高齢者の行動を観察し、意見を聞いてみた。
〇81歳を過ぎて自治会の世話役を引退した堀川(仮名)さんが、
次に取り組むのは…
時間ができたので、先輩から託されたが手をつけていなかった「地域の記録を整理し活用する」方法の検討に取り組み始めた。先輩から預かった記録を読むと気になることが生じてきて、市役所や図書館に出向いて自分でも調査を開始した。氏曰く、
「一通りまとまってきたので、これをどう活用できるか考えてみよう。
上手く使えば地域の人達がここの成り立ちに興味を持って、行事や寺社を大切に受け継いでいってくれるかもしれない。持続可能な地域の礎になるのではないか。
具体的な利用方法は若い人たちにお任せするが、時間がある自分が資料整理をして次の世代につなげたい」。
〇銀行で海外赴任や支店長を経験し定年退職した、
林(仮名)さんが続けるのは…
仕事で習得した英語と中国語は趣味で続けながら、地域の民生委員を引き受けている。再任されて今年でもう4年目。民生委員の仕事は、地域住民の身近な相談相手になること。多くの市町村同様に、林さんが住む市でも見守りが必要な高齢者世帯へ弁当を配る仕事も含まれる。電話代以外は金銭の授受はなく、民生委員の仕事は無報酬。
林さんは「地域の方に貢献している」ことが誇りであり、再任を引き受けた理由という。
形のあるものではなく、日常に小さな喜びを見つけ持続していく生き方は、茂木健一郎著の『IKIGAI』でも取り上げられている。
発達心理学からも挙げられる
高齢者の利他的行動意欲の高まり
高齢者の利他的行動意欲は遺伝子学的な理由(子孫を残す)だけでなく、発達心理学の側面からも説明されている。中・高齢期特有の心理的発達「ジェネラティビティ」*は、「次世代を導き確立することへの関心」が高まる時期であり、利他性が強まる。
加えて退職や子の独立等によって、高齢者は役割が減りがち。認められたいという気持ちが強くなる。利他的行動は自身の生きがい獲得であり、主観的幸福感の向上につながるとも言われている。
先に示したデータや観察結果は、こうした高齢心理学による説明と合致している。
*アメリカの発達心理学者エリクソンの漸成的発達理論において、高齢者は次世代の育成(generativity)への関心が高くなるといわれている。
高齢者に「役立っている」実感を提供し
「お給料」を発生させる事業、登場
奈良市の介護・保育事業(株)リールステージが設立している「あをに工房」は、要支援・要介護高齢者らが就労事業を行うための合同会社。要支援や要介護であっても、状態や望まれる仕事内容によって就労可能であると考え、それぞれの介護度合や特技などを考慮して作業を委託している。
現在は、ジャバラ折り加工が必要な袋詰めや細かいラベル貼り作業をなど、手仕事を請け負っている。介護施設利用者には収入と社会に役立っているという実感、委託企業には依頼された仕事と高齢者就労支援によって社会的貢献を実現。
このような仕組みを取り入れたいという事業者は少なくない。健康事業を営んでいる知人も、高齢者が働き、社会に貢献できるチャンスを提供できる仕組みを模索している。高齢者の健康づくりには、「役に立っている」という実感醸成も欠かせないと考えているのだ。
高齢者に「与える」だけではない
「高齢者が与える」機会も市場になり得る
人間の欲望は尽きないと言われている。しかし多くの高齢者は積み重ねてきたくらしに充実を感じ、かつある一定量・種類のモノは既に持っておられる。そこに何を提案するか?
これまでシニア市場では、年齢を重ねたことで発生しがちな課題解決のための提案。さらに課題があってもそれを克服して得られる楽しさ、あるいは未体験の楽しさの提供、という視点で提案してきている。
たとえば高齢者のボランティア実施率は30%(70-74歳)。これを多いと見るか少ないと見るか?与える立場に立つことできる高齢者はまだまだいる。
課題解決や楽しさ提供に加えて、高齢者に発生する利他的思考に応える「高齢者が何か提供できる場」を創造してはどうだろう。新たな出会いが生まれ、またその化学反応から新しい市場が生まれるかもしれない。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
2024年9月25日
2024年8月21日
2024年6月7日