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確かにシニアのスマホ利用は増えたが
デジタルを活かすのは、アナログ

 ここ数年、高齢者への提案にデジタルを活用できるか、という問い合わせが続いている。
 販促活動におけるデジタル媒体の活用、さらに立ち返ってデジタル機器事体の提案など、シニアはテクノロジーに対してどういう態度を示すのか。デジタル活用が届くのか。
 こうした問いに対して、公表されている数値からいえば、現在、60代は9割近く、70代は7割にネット利用率があり、70代前半であれば6割強がスマホを保有している。

総務省「通信利用動向調査」令和4年版 より作成
総務省「通信利用動向調査」令和4年版 より作成

確かに高齢層のネット利用者/時間ともに増加
しかし利用時間には、現役世代と大きな差

 ネット行為者率も非常に伸びているし、使っている時間も伸びている。デジタルを使うインフラ環境は、整いつつある。しかしシニアは、現役世代がデジタル環境をつかうのと同じように使えるわけではない。
 利用する時間を見比べると、たとえば平日のモバイル使用時間は30代が2時間であるのに対し、60代は1時間。休日にいたっては30代が約2時間半であるのに対し、60代は1時間足らず。

 使う時間が短ければ得る内容や経験も少なく、高齢世代に現役世代と同じような提案で、情報が届いたりサービスを利用できるとは考えられない。

総務省「通信利用動向調査」令和4年版 より作成

使う時間の短さと使い方の少なさは、比例
DL&インストールができる70代は2割前後

 デジタルを使って情報を定期的に届けたり、サービスを利用してもらったり、サポートを行ったりするために、独自アプリを設計して提供する事業者は多い。
 しかし以下のデータを見ると、高齢者にとって決して簡単なことではないことは容易に想像できる。つくって配布すれば、あとは「デジタルコミュニケーションでフォロー」、とはいかない。

総務省「通信利用動向調査」令和4年版 より作成

 そこでシニア利用者も多いあるフィットネス事業者は、新たにデジタル予約システムを導入するに当たり、複数のフォロー体制を敷いた。

【ネット経由によるデジタル予約システムを導入するにあたって】

1.いつものフィットネスジムで、いつものスタッフで、何度も使いかた講座を開催
 :スマホへのアプリインストールに始まり、アプリからジム利用の予約、確認ほか、一連の作業の手順をいつもの場所で、いつものスタッフが、リアルに手取り足取り教授

2.旧来の会員カードも使える環境を提供
 :フィットネスジム内にタブレット端末を置いて、旧来のプラスチック製、会員カードの二次元バーコードを読み取り、ジム利用の予約、確認ほか一連の作業ができる環境を設置

3.受付で、デジタル予約についても、いつでも相談に応える

 大きくは上記の体制で、新しい予約システムを上手く軌道に乗せていった。
 新しいことを導入するにあたり、いつもと同じ環境で何度も対応する体制を敷いたことや、いつでも相談にのったり手助けしたりする体制も重要だ。シニアのデジタル活用に、最初は人手をかける重要性が顕著に表れていた事例だろう。
 私が特になるほどと思ったのは、「旧来の会員カードを使って、新しい仕組みを使える」状態をつくったことだ。

如何に変化を小さくするか
メリット訴求だけでは、人は動けない

 事業を効率的に運営し、よりよいサービスを生むために、新しい仕組みを導入する。価格と商材のよりよい関係をつくるために、デジタル技術が導入される。しかしそれが上手く稼働するかどうかは決して、利用者のデジタルスキルだけの問題ではないだろう。
 そもそも心理学や人間の特性から、人は「急激な変化」に弱く、新しいことを受け入れるのは基本的に困難と言われている。一気に変えることへの抵抗は、日常のあらゆる場面で感じたことがある人も少なくないだろう。
 今回、例にあげた新しい予約システムは、「今までの会員カードでも新システムを利用できますよ。スタッフがいる館内で利用できるから、わからないことがあれば声をかけてくださいね」というスタンスで始まった。

 確かにスマホ保有率は高齢者においても高くなっているが、「持っているからいろいろ使えるわけではない」。複数回に及ぶ講習会開催といったアナログな手間もおしまず、重複するように見える仕組みも導入して、ネット経由による予約システムを導入した。
 利用者に生じる変化を如何に小さくするか。変化による摩擦を如何に小さくするか。デジタル提案には欠かせないと考える。

 現状は、シニアに提案するデジタル利用において、メリット訴求ばかりのような気がしてならない。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子