コロナによる行動制限が解除されて、旅行や帰省を始めとした余暇活動が活発になっている。本稿では、新型コロナ5類移行後の2023年7~9月期において、年齢階級によりどのような傾向が見られたのかを、旅行単価と旅行費目(交通費や宿泊費など)から、見てゆくことにしよう。データは国土交通省観光庁の「旅行観光消費動向調査」に拠った。
図1.は、観光・レクリエーション目的の国内宿泊旅行1人1回あたりの費用(単価)を年齢階級別に並べてみたものだ(男女計)。最もお金をかけているのが60歳代で、約8.8万円(87,956円)。2位の50歳代とは、6,500円ほどの差をつけている。3位には500円強という僅かな差で70歳代がつけた(約8.1万円)。60~70歳代の客単価の大きさは、旅行需要が回復しても変わらないということだ。(もっとも、同じシニア層でも、80歳以上ともなれば旅行単価は、グンと低くなる。)
男性(図2.)と女性(図3.)で比べると、60歳代では際立った差はないが、70歳代では、様相が異なっている。男性では7万円に満たない(68,236円)旅行単価だが、女性では10万円に手が届きそうな(98,134円)勢いである、1回の国内宿泊旅行で、女性が3万円も上回っているのだ。
以前「70歳代女性、キラキラ消費」という言葉も生まれたが、コロナ禍以降も70歳代女性の「キラキラ【旅行】消費」は健在であるようだ。
ただ、80歳以上になるとこの傾向は認められない。女性では、ほぼ6万円(60,300円)と、グラフに掲載した14のクラスターの中で、最も小さな数字となっていることが特徴的だ。
国内日帰り旅行では全く様子が異なっている(図4.)。20歳代以上の7つの年齢階級の中で、80歳以上の旅行単価が最も高くなっているのだ。宿泊旅行では費用を抑えているが、日帰り旅行における出費は旺盛なのだ。
この傾向は、とくに男性(図5.)に顕著で、日帰りでは、全年齢階級の中で最も消費金額が大きく、3万円に近い(29,601円)。最も低いのは、50歳代女性(図6.)の18,163円。その差は、実に11,438円。同じ日帰りと言っても、その消費額の多寡には、大きな開きがある。
尚、宿泊旅行では、70歳代女性の消費が突出していたが、日帰りでは、飛びぬけて顕著な傾向は認められなかった。
ここからは個々の旅行費用の費目について見てゆこう。データはすべて宿泊を伴う、観光・レクリエーション目的の旅行の場合だ。まずは参加費(図7.)。参加費とは、旅行会社のパックツアーや、学校や職場の団体旅行を意味する。
30歳代以上では、年齢階級と1回あたりの消費額の間にきれいな相関関係ができ上がっている。パッケージツアーの参加費は80歳代で最も高く、14,267円。30歳代の6~7倍にも上るが、もとよりごく自然に肯える結果ではある。
交通費(図8.)はどうだろう。年齢階級による差の小さい費目だが、最も高いのが60歳代の18,823円。体力的に量(移動距離)が稼げ、金銭的にも比較的余裕のあることが背景にある。たとえば新幹線ならグリーン車を選ぶなど、移動のクオリティにも出費を惜しまないのだろう。
宿泊費(図9.)では、意外にも30歳代が最も高く、唯一2万4千円台(24,306円)に乗せている。次いで60歳代、僅差で40歳代が続いている。
80歳以上の落ち込みが際立っている費目でもある。
飲食費(図10.)では、70歳代、80歳以上の2つの年齢階級で大きな落ち込みが見て取れる。加齢によって食が細ることが、数字に反映されているのかもしれない。
最後は買物費(図11.)。飲食費と異なり、70歳代、80歳以上の落ち込みは見て取れない。むしろ20~40歳代の若い盛大より支出は旺盛である。シニア層一般にこの費目への出費は大きく、いずれも1万円を超えている。お土産を含めたショッピングが、シニア層の旅行の重要な費目になっていることがわかる。
総括すると、単価という面から、シニアの旅行の質は依然として衰えていないことが明らかになった。また、同じシニアとは言っても、60歳代と80歳以上ではその支出額に大きな差があり、重視する費目も、傾向が異なっていた。「シニア」とひと括りにすることは、できないのである。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 特別顧問 中田典男
2024年3月11日
2023年9月12日
2023年6月5日