シニアは多様である。そのため我々はシニアを大きく4つに分類して考えることを提案してきた。その分類は変わっていないが、世代変化、社会の制度や雰囲気の変化とそれに伴うシニアの感覚や体力・健康、能力・経験値は常に変化している。
「シニア向けにプロモーションをかけているが、どうも最近効果が落ちてきた」「シニアに呼びかけても反応が今ひとつ…」そんな悩みをお持ちだとすれば、これまで描いてきたシニア像と今のシニア像にズレが生じてきているのかもしれない。ここではその原因を検討し、どうズレをただせば良いかを考えてみたい。
これまでのシニア像と今のシニアの実態とがズレている原因は?いくつか考えられるが大きくは次の3つである。
1.「団塊の世代」が消費市場から退場
2.ワーキングシニアの増加
3.デジタルシニアの台頭
加えてコロナの影響も考えられるが、それについてはやや次元が異なるので、ここではふれない。
1.「団塊の世代」が消費市場から退場
2025年には団塊の世代の全てが後期高齢者(75歳以上)に達する。
一般的に、75歳以上になると生理的機能や日常生活動作能力の低下といった現象が増加するとともに、生活習慣病を原因とする疾患を中心に、入院による受療が増えると言われている。介護認定を受けて介護給付を受ける割合を70~74歳と75~79歳で比較すると、2倍近くに増加している。特に女性の受給割合が3.9%から9.1%と高まっている。
これまでシニアで最も大きな割合を占めてきた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、「アクティブシニア」や「ディフェンシブシニア」から「ギャップシニア」や「ケアシニア」に移りつつある。
つまりシニア市場に大きな影響を及ぼす主役に世代交代が生じている。
※シニアの4分類については以下を参照いただきたい
シニアって誰?
特に「ケアシニア」の場合はマーケティングにおいて、本人は直接消費市場から退場することになる。なぜならケアシニア市場での主役は、介護される本人よりも介護する側となるからである。要支援・要介護者数の増加によって、ケアシニア市場のニーズは高まるだろう。
一方、この数年で退場する団塊の世代に変わるのは誰なのか?続いてシニア市場の主流となるのは昭和25(1950)年から33(1958)年頃に生まれたポスト団塊、「しらけ世代」と呼ばれることもある世代。現在65~73歳くらいの年齢である。
学生運動で盛り上がった熱い時代のあと、オイルショックの頃に学生や新社会人生活を送っている。40歳代、会社人生の中堅ころバブルに遭遇、その終焉にも立ち会った、やや冷めた世代。団塊の「ゆけゆけドンドン」から身をひいた、ちょっとシャイで、DCブランド(デザイナーズブランド)を流行らせたように「おしゃれ」を大切にする価値観を持っている。
団塊の「比べたがり」ではなく、「自分の道」を行くタイプ。呼びかけは「あの人は」ではなく、「あなたは」という方が良い 。不確かな世代論に紙幅を割くつもりはない。いつも述べているようにシニアを一括りにする愚は避けなくてはならない。けれど、今までの団塊シニアとこれからのシニアは明らかに違う。団塊世代を消費の主役としてまだ引きずっているなら、ここで今、アップデートすべきことをご理解いただければ幸いである。
2.ワーキングシニアの増加
ワーキングシニアの増加については何度か稿を改めてきた(以下を参照されたい)。
ワーキングシニアが増加している背景には身体的、社会的の両面がある。身体的にはシニアの体力や運動能力が向上している。さらに健康寿命(健康上の問題で日常生活に制限のない期間)の延伸が見られる。
今年の高齢社会白書で、健康寿命は令和元年時点で男性が72.68年、女性が75.38年となっており、それぞれ平成22年と比べて延びている(平成22年→令和元年:男性2.26年、女性1.76年)。さらに、同期間における健康寿命の延びは、平均寿命の延び(平成22年→令和元年:男性1.86年、女性1.15年)を上回っているとしている。
社会的には働く意欲があるシニアがその能力を十分に発揮できるよう制度設計が見直されてきた。シニアが活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され(令和3年4月1日より施行済)、65歳までの雇用確保が企業に義務化され、70歳までの雇用確保が努力義務となった。
年金制度も2000(平成12)年の法律改正で、老齢厚生年金の支給開始年齢がそれまでの60歳から65歳に引き上げられることになった。現在は移行中であり、男性は、令和7(2025)年度にかけて、女性は令和12(2030)年度で引き上げが完了する。
こうしたことからシニアの就業率は年々高まり、65~69歳では令和2年に50%を超え、令和4年には52%に、70~75歳でも令和4年には33.9%と3人に1人以上が働いている。これまでシニアは「金時持ち」と言われ、リタイアして悠々自適のイメージが強かったが、今や70歳を過ぎても働くのが当たり前になりつつある。
当室の「ワーキングシニアに関する調査」でも「いつまで働きたいか?」という質問に対して「可能な限り(職場的、体力的に)」という回答が圧倒的であった。
これまでの「金時持ち」「悠々自適」ではない、働き続けるシニアにどんな提案ができるのか?そこがポイントとなる。
3.デジタルシニアが台頭
団塊の世代と次の世代を分ける最も大きなファクターがデジタルへの対応力の差である。デジタルに対応できるかどうか、その分水嶺がここにある。そのことに対しては以下に詳しく述べているのでぜひご覧いただきたい。
◆シニアのデジタル対応は?-最新の「通信利用動向調査」調査結果から
今年70歳になるシニアは、日本のデジタル元年とも言うべき1995年には42歳の働き盛り。それ以降、インターネット、メール、ブログ(SNS)とネット環境の進展と共に仕事をしてきた。この世代以降はデジタルへの対応力はそれ以前の世代と比べて増している。
メディアに関して言えば、最後の新聞世代といえる。このところの新聞の発行部数は急減している。とくに2017年くらいからの落ち込みが激しい。新聞世代とも言うべきシニアが新聞を読まなくなった(=購読しなくなった)ことが大きな原因と考えられる。
では新聞をどれくらい読んでいるかを見てみよう。NHK放送文化研究所国民生活時間調査によると新聞を読んでいる時間は2000年と2020年を比較すると、かなり短くなっているのがわかる(70歳以上の女性は例外で若干増えているが…)。60歳代ではシニアも新聞のデジタル版やネットニュース、SNSから情報を得るようになっている。購読しなくなった読者には折り込みチラシも届かない。
雑誌、書籍…さまざま印刷媒体は次第に読まれなくなる。最近のTVコマーシャルでご存じだろうが、凸版印刷も社名から「印刷」を外した。 日本の代表的な印刷会社が単なる「印刷」ではこれからの業績発展は難しいと判断している証拠である。そこにはこれまでの読者主体であったシニアの変化が大きく影響している。
そして次はテレビであろう。若い世代のテレビ離れが言われて久しいが、いずれシニアもテレビ、少なくとも今のかたちのテレビからは離れていくと考えられる。そうしたときのメディアとしてインターネットを中心としたデジタルメディアが中心になる。昨今のデジタルシニアの台頭から考えると、その日はそう遠くない。
とはいえ、シニアに向けていきなりデジタル化してもうまくゆかないだろう。確かにスマホ保有率は高齢者においても高くなった。しかし持っているからといって急にいろいろ使えるわけではない。アナログな講習会の開催といった手間もおしまず、アナログな仕組みを導入することが必要な場合もある。
以下を参照されたい。
◆確かにシニアのスマホ利用は増えたが
デジタルを活かすのは、アナログ
シニアに向けてのデジタル化戦略も今一度点検し、必要があればアップデートする必要がある。ただ、そのとき重要なのは、若い世代の手法やコンテンツをそのまま持ってきても、それをシニアが使いこなせる、心に響くとは限らない。
当室では最新のシニア像を明らかにするためにワークショップ形式で考えるセミナーを用意している。まずは以下からお問い合わせ、ご相談をいただきたい。
◆お問い合わせフォーム
https://nspc.jp/senior/contact
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 特別顧問 倉内直也
2024年9月25日
2024年8月21日
2024年6月7日