当室は発足当時より、マーケティングの力で「長生きをリスクにしない」提案を目ざしてきた。現在はその先をめざし、「よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない ソナエマーケティング」に力をいれている。
今回はソナエマーケティングに重要な「プレシニア」への提案、その視点について考える。
*世の中に「プレシニア」の明確な定義はないが、ここでは45歳~50代全般を指して話を進める。
プレシニア期への提案に注目する理由は、この年代の多くが大きな変化に直面するからだ。
変化は、価値観や行動を変え、消費行動をも変える。提案が届きやすいタイミングともいえる。
「人生100年時代」ならば、折り返し地点。ローンの支払いや子育てに目途が立ち始めている一方、親の様子が気がかりになり始める時期。また高齢期をどう生きるか、真剣に検討し始める年齢ではないだろうか。
プレシニア期に生じる4つの変化
時期やインパクトなどに個人差はあっても、多くの人に以下の4つの変化が生じる。
1.身体における変化
白髪やシワにはじまり、体力の衰えや健診結果の黄色信号や赤信号、病気を発症したり周囲で発症する人が増えたり、身体的変化を実感し始める。
たとえば、50代を経て服薬する人が増える。特定保健指導を受けなければならない人も増加する。しかし特定保健指導を受けて修了した人は「4~5人に1人」という、課題も見受けられる。
このような身体の変化に対し、改善を試みるニーズは確かに存在している。加えてその変化を少しでも遠ざける、リスクを減らすためのサービス。変化をいち早く察知するサービスなど、数多の商材が出現している。(たとえば尿でがんリスク、眼球検査や歩行検査で認知状態がわかる。街中に短時間・低料金の健診サービスが登場)
上記の「保健指導の修了者割合グラフ」にもあるように、やり遂げる難しさから、その行動変容を支えるサービスも登場している。(仲間で応援し合うアプリやコミュニケーション支援つき治療アプリ、行動を継続できるとプレゼントがもらえる制度など)
2.社会生活における変化
勤労者であれば、多くの人は定年を意識しはじめる年代でもある。定年後の生活をイメージして、学びやボランティアを始める人もいるだろう。60歳定年の会社は多いが近年、高齢者雇用の安定等に関わる法律が改正され、定年年齢も変化して、働き方も多様になってきた。労働環境も変化している。
多くの人が60歳を超えても働きたいと考え、実際に60代前半の8割以上が就業している(2022年総務省労働力調査)。働きたい理由を見ると、60代は「生きがい」や「つながり」も重視しているが、50代・60代ともに1位は「生計」のため。「働くか働ないか」より、まず「働く」ことが生活維持の前提になっている。
しかし定年後、同じ会社で働くとは限らない。働き方が変化する人、仕事内容が変わる人も多いだろう。働く以外の時間はおそらく長くなる。
長く働くためにも、仕事以外の時間を有意義にするためにも、自分の社会を会社以外にも広げておくことはおそらくプレシニア時期から既に重要だろう。
企業によっては定年にむけて徐々に仕事や責任を減らし、給与も下げていく役職定年制度を設けている。仕事に充てられる時間や気持ちが変化すると、多くの場合、個人の社会生活や時間の使い方、人との交流にも変化が生じる。
既に高齢期も働く人が多数派になっている。今後もその傾向はますます強くなっていくだろう。そのとき、プレシニア層にはどういうニーズが生まれるか?あるいはどんな提案が役立つだろう?
3.家族における変化
こどもが学校を卒業、就職、独立、あるいは親が老いてくることで家族生活が変わり、消費行動にも変化が生じる。
50代後半ですべての子供が同居している家庭は24%、すべての子どもが別居している家庭は29.9%。新しい家族生活が始まっている人は少なくない。
一方で、親の介護経験が増えてくる年代でもある。50代で、現在介護が必要な人は14.6%。過去に介護が必要だった人は21.8%。近々介護が必要になる人は19.9%。
介護をしながら働いている人も、50代で大きく増加する。
介護との向き合いは新しい出来事であり、情報ニーズが非常に高まる。もちろん介護に直接必要な財・サービスも発生するし、住まいや交通など間接的なニーズも生まれるだろう。
4. マインドにおける変化
プレシニア期はホルモンバランスの変化から生じる更年期により不安やイライラ、集中力低下が起こる人もいる。会社や地域における社会的役割の変化、家族の変化など、複数の原因により、精神面にも変化が生じる。
「中年の危機(ミッドライフ・クライシス)」として、長年取り上げられてきている。
実際、国民生活に関する世論調査を見ると、「日常生活での悩みや不安を感じている」と答える人は、他世代に比べて50代が一番多い。次いで40代。
そうした気持ちが生活への満足度にも表れているのか、「現在の生活に対する満足度」も他世代に比べて相対的に低い。あるいは、現在の生活に対する満足度の低さが精神面にマイナスの影響を及ぼしている場合もあるかもしれない。
実は、「乳幼児期」から「老年期」まで8つの発達段階を提唱しているエリクソンの発達心理学において、中年期/壮年期は体力的にも精神的にも落ち着いてくるとされている。そして「次の世代に継承することへの関心(generativity)」を強める時期という。
この年代のとき、「ジェネラティビティ」な生き方ができないと「停滞(stagnation)」に陥ってしまう。結果、「老年期」において、過去にうまくいったこと/いかなかったことの折り合いをつけ、人生の意味や自分の存在意味を見出すことが難しくなるという。
つまり、中年/壮年期に停滞していてはあまりよろしくない、ということになる。
マインドに働きかける財・サービスはここ数年、確実に増加している。
心理支援サービスは増加し、メンタルヘルスケアのアプリなども数多く登場している。手軽かつ安価に個別サービスを行う企業も複数見受けられる。サービス内容はプロによるカウンセリング、AIやVRを使ったカウンセリング、ヨガや音楽などによるリラックスや瞑想の支援など多岐にわたる。 プレシニア層により適切に働きかけられる、商材の登場も待ち望まれる。
気づきや共感を得やすい時期にある
プレシニアについて学ぶセミナー、考えるワークショップ
シニアマーケティング研究室では、「よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない ソナエマーケティング」を提案する第一歩として、プレシニアについて研究を進めています。
プレシニア期に生じるこれら4つの変化についてより詳細な情報を提供するセミナー、そこからプレシニアへの提案を考えるワークショップの開催なども承っております。
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株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
2024年10月30日
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