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野球観戦だけでも健康寿命が延びる?!
ー注目される主観的健康観

 厚生労働省の発表によると新型コロナウィルスの流行に伴い、「日本人の平均寿命が10年ぶりに前年を下回った」という。
 新型コロナウィルスに感染して亡くなる高齢者などの増加が、要因の一つとみられている。しかし平均寿命の延伸トレンドは、東日本大震災の翌年、平成24年以降再び伸び続けてきたのと同様に変わらないだろう。
 長生きする人が増える中、健康寿命に注目が集まるようになって久しい。誰しも長生きするなら少しでも長く健康に、介護される期間は短く、暮らしたい。国としても国民の要介護期間は短くあってほしい。

以下より作成。
厚生労働省 簡易生命表 結果の概要
健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究
2001~2010年の都道府県別健康寿命、2010・2013・2016・2019年データ
第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料
【資料1-1】①1.健康寿命の延伸と健康格差の縮小

 厚生労働省は2040年までに健康寿命を男性75.14歳以上、女性77.79歳以上に延ばすことを掲げ、栄養面で産学官連携プロジェクトを推進したり、ナッジ等を活用した環境づくりを支援したり、妊娠前・妊産婦の健康づくりなど幅広く取り組んでいる。
 健康寿命は平均寿命の差から大きな問題として多方面で取り上げられているが、最頻死亡年齢から考えると、その深刻さはより大きい。

2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について 平成30年9月 経済産業省

 平均寿命から健康寿命を引くと男性9年余、女性12年余りで既に長期間だが、最頻死亡年齢までの時間を見ると男性は14年余、女性は18年余。
 健康寿命の延伸が、如何に大きな課題であるかが見えてくる。

都道府県別データから伺える
健康寿命と関係がありそうなものは…

 健康寿命とは、「日常生活に制限のない期間」を健康寿命と定義されている。「日常生活に制限のない期間」がどういう傾向にあるか、都道府県別のデータからいくつか推察することができる。

厚生労働科学研究 健康寿命のペー
令和3年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣対策総合研究事業)
「健康日本21(第二次)の総合的評価と次期健康づくり運動に向けた研究」分担研究報告書
「健康寿命の算定・評価と延伸可能性の予測に関する研究」
和2年 簡易生命表の概況(厚生労働省) より作成
それぞれ上位20都道府県を表示

 この47都道府県別のデータを使うと、さまざまな分析ができる。

「日常生活に制限のない期間」≒「健康寿命」と
「健康と自覚している期間」には正の相関がある
 同データを使って組み合わせ分析を行うと、次のようなグラフと計算ができる。

厚生労働学研究Webページ
令和3年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣対策総合研究事業)
「健康日本21(第二次)の総合的評価と次期健康づくり運動に向けた研究」分担研究報告書
「健康寿命の算定・評価と延伸可能性の予測に関する研究」
令和2年 簡易生命表の概況(厚生労働省)より作成

 男女に強弱の差はあっても、「日常生活に制限のない期間の平均」(健康寿命)、と「自分が健康であると自覚している期間の平均」(主観的健康感)には、正の相関が見られる。つまり主観的健康感を高めることが、健康寿命の延伸にも繋がると仮説をたてることができる。
 これまでの研究から、主観的健康感が高い人ほど疾患の有無にかかわらず生存率が高いことや、数年後の平均余命に影響するということがわかっている。これらの観点から近年、何が主観的健康感に影響をもたらすのか、多くの研究者が探求している。
 「日常生活に制限のない期間」を伸ばそうと考えるより、主観的健康感を高める方法を考える方が、取り組みアイディアの幅が広がりやすい。この視点からいろいろな研究が進んでいる。

主観的健康感を高めるには?

 内閣府による高齢社会対策、国際比較調査結果から「規則正しい生活をする」、「散歩や運動をする」、 「地域の活動に参加する」、「趣味を持つ」、「気持ちをなるべく明るく持つ」、「なるべく外出する」 が主観的健康度と関連することが明らかと報告されている。(4か国において主観的健康感に与える影響因子の分析:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 副院長 荒井秀典氏

 中でも興味深いのは、スポーツに関する研究。その中のひとつとして、「野球観戦が高齢者の健康に与える効果」に関する研究発表がある。

 2016年3月から西武ライオンズと早稲田大学(スポーツ科学学術院 樋口 満 名誉教授)が取り組んできた研究結果として、1回の試合観戦効果だけでなく、定期的なプロ野球観戦効果も観察された。

1回のプロ野球観戦の効果
定期的なプロ野球観戦の効果

 1回の観戦で、リラックス感や主観的幸福感が高まることが確認され、定期的な観戦で認知機能や抑うつ症状の改善をもたらしたという。

 また2011年、運動疫学研究学会誌で発表された研究「する・見る・支えるスポーツ活動と主観的健康感の関連」によると、「スポーツを「見る」ことでも「支える」ことでも健康増進効果が得られる」という。(ただし当該研究における対象者の一般特性は男女ともに50歳。高齢者については言及できない。また横断研究であるため因果関係を示すものではなく、可能性を示唆するもの)

健康寿命に繋がる主観的健康感を高めるには、
社会とつながる「きっかけ」が鍵?

 自ら運動すれば実感を伴って健康感は高まるだろうが、スポーツを「見る」「支える」だけでも主観的健康感を高めている。いずれも会場に足を運ぶことや他者との社会的な交流で、主観的健康感が高まる。さらにグラウンドのように視界が開けた場所では、副交感神経活動が活発になりリラックス効果を得られる可能性も期待できる。
 スポーツができない高齢者や患者においても、スポーツ観戦で主観的健康感が高まるということは、健康寿命を延ばすためにできることが大きく広がる。

 「健康寿命の延伸」の課題を直接的に解こうとすると、健康づくり、体力づくり、健康診断といった類への取り組みがまず思い浮かびそうだが、「主観的健康感を高める」と捉えると、関連しそうな財・サービスが一気に広がりはしないだろうか?
 あなたの業界からも「主観的健康感を高める提案」は、見つかるかもしれない。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子

<補足資料>


厚生労働学研究Webページ

令和3年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣対策総合研究事業)
「健康日本21(第二次)の総合的評価と次期健康づくり運動に向けた研究」分担研究報告書
「健康寿命の算定・評価と延伸可能性の予測に関する研究」
令和2年 簡易生命表の概況(厚生労働省)より作成