そもそも老眼の悩みを抱えている人はどれくらいいるのか?厚生労働省の患者調査があるが、これは全国の医療施設で受療した推計患者数なので、そこには上がってこない。老眼で受診する人はまずいないからである。ネットで検索すると「一説では7000万人」というのがよく出てくるが、根拠が示されていない。
そこで、今年1月に50代から70代までの読み書きについて当室が行った独自の調査から推定してみたい。調査の最後に「あなたの視力について、当てはまるものをすべてお知らせください」という質問を行った。
※この調査について詳しくは以下を参照されたい
whitepaper【36】シニアの「読みやすさ」に関する調査報告書(ダイジェスト版)
https://nspc.jp/senior/archives/17461/
その中で「軽い老眼」「老眼がかなり進んでいる」と回答したのは、全体で83.1%に達した。
年代別に見ると、70歳代で84.2%、60歳代で79.8%、50歳代で81.5%となっている。
これに2021年10月1日現在の人口を掛けると、その年代のおおよその老眼人口を推測できる。調査対象ではなかった40歳代は別の調査のデータの66%をお借りした※
※クーパービジョン・ジャパンが運営されているウェブサイト「AGING EYE NAVI」で、老眼に対するアンケート。調査は2013年10月28日~11月13日、5,935人の有効回答。
80歳代は今回の調査からの推定値、90%、90歳以上は95%とした。その結果、老眼の自覚を持つ人は約6184万人という数字となった。
日本の総人口が1億2550万人として、その割合は49.2%。一般にいわれている7000万人にとすれば55%。つまり日本人の約半数が老眼で悩んでいることになる。数字はあくまで推定値であり、正確でないことはお断りしておく。しかし、それほど多い、ということはご理解いただけたと思う。
これだけの拡がりを持つ、ニーズ=悩み事は他にそう多くはない。いっぽうこのニーズに応える製品やサービスは十分に広がっているとは言えない。すぐに思いつくのは老眼鏡だが、老眼で悩む多くの人のニーズを十分に満たしているとは思えない。いわゆる「遠近両用」レンズが登場し、さらに遠近の境目がスムーズなレンズも開発されている。しかし、使いやすいかといわれれば、筆者も使っているが、まだまだ課題が多いと感じる。
最近よく耳にするのが、ビデオ撮影の時の液晶画面の見にくさである。撮りたいものは遠くにあるが、それを確認するモニターは近くにある。そのため、撮りたいものが撮れているか確認が難しい。それを解決するには、焦点調節ができるビューファインダーつきを選ぶ必要があるが、その機種は限られる。
ビデオカメラの最大の出番は、子どもや孫の運動会の撮影だが、上記のようなことで悩む親や祖父母は多い。出産年齢の高齢化で、小学生の親でも40代の「老眼年代」に入ってくる。この問題に正面から取り組めば、ビデオカメラ市場で大きなニーズを取り込むことができる。
これだけ老眼ニーズが多いことを考えれば、スマートフォンにおいても、老眼でも見やすい画面をアピールできれば、大きなアドバンテージになる。例えば、写真を撮影するときにいちいちピンチアウトしなくとも、ワンタッチで撮りたい部分を拡大できる機能などがあれば、集合写真でマスクを取り忘れているひとも容易にチェックできる。そんな機能があれば喜ばれるにちがいない。
シニアが手放せない薬においても、例えば錠剤シートの端に小さなQRコードをスマホで読み込めば、薬の情報が出てくるようする、さらに進んでICチップを埋め込んで、情報が読みだせるようにすれば、薬を服用する側だけではなく、調剤する側も助かるに違いない。限られたスペースに情報を盛り込まなければならないのは、薬だけにとどまらないであろう。
就労年齢が上がらざる得ない我が国のこれからでは、そうした働く場所での「老眼対策」も重要である。それを多くのシーンで解決しなければならない「老眼対策」には、さまざまなシーズ=技術やノウハウが求められる。そのシーズを上手く育てることができたなら、大きなニーズを獲得でき、マーケットにおいてアドバンテージを得ることができる。
貴社のシーズが「老眼対策」に活用できないか、チェックしていただきたい。そのことで大きなチャンスにつながるはずである。その折はぜひ当室にそのお手伝いをさせていただきたい。
2024年10月30日
2024年9月25日
2024年8月21日