シニアマーケティング研究室は2023年1月に50~70歳代のプレシニア、シニア層に向けて「読みやすさ」について調査を行った。この調査では、文字の大きさ、行間、字間、縦書き/横書き、背景とのコントラストなど14項目で実際の印刷物をシニア(50歳~70歳以上)に送付して回答を得た。
中でも注目すべきは、縦書き、横書きの読みやすさ評価。事前に予想していたものとは違い、2つの表記では圧倒的な差で横書きに軍配が上がった。「横書き」を読みやすいとした「横書き派シニア」は86.9%に上り、「縦書き」を読みやすいとした「縦書き派シニア」は13.1%にとどまった。
男性50代ではことにこの傾向が顕著で、横書き派96.4%に比して、縦書き派は3.6%と僅かだった。
※調査全体の結果については
「シニアが見やすい、読みやすい表記とは?―全国のシニアへホームユース郵送調査を実施」を参照いただきたい
これは事前の予想とは大きく違って、我々も驚く結果となり、その原因を検討した。
1) 対象のシニアがスマートフォン利用者であり、デジタルに親しんだ集団であることから、そのバイアスがかかった。
2) 比較のために提示した文例の文字量が少なかったため、横書きの方が読みやすく感じた。
3) 例示した文例の順序で、横書きが上、縦書きが下であったため、横書きが読みやすく感じた。
4) 他の質問や文例が横書きであり、縦書きが突然現れたので、読みにくく感じた。
1)に関しては、そのバイアスは考えられる。しかし、今やスマートフォンを利用しているシニアは特殊な存在ではない。総務省の令和3年通信利用動向調査でスマートフォンの利用状況は、50歳代の8割以上(83.9%)、60歳代の7割(70.0%)、70歳代の4割以上(40.6%)となっている。今回の調査時点では、さらに利用率が高くなっていることが想定されるので、そのバイアスのせいでこれほどの差が出ることは考えにくい。
2)に関しては、その可能性は高い。全体の文字数はもちろん、1行の字数、行間、書体なども同じ条件としているが、全体で158文字の量なので、小説の1ページを比べるともっと違った結果になったかもしれない。このことは、機会があれば再度、調査を行いたい。
3)これも考えられるが、その差の大きさの説明が難しいと思われる。
4)これは、縦書きが読みやすいとすれば、逆に読みやすさが際立つはずなので、理由とはなりにくい。
結論として2)の理由には留意する必要があるが、今どきのシニアは長文でない限り、縦書きより横書きになじんでいることは間違いない。
筆者が高校生(1970年代)だったころ、日本史の教科書が縦書きで、今は横書きになっていると思い込んでいた。そこで、いつぐらいから縦書きになったのか、使っていた日本史の教科書の出版元、山川出版社の編集部に問い合わせたところ、「過去に縦書きのものはなく、発行当初から横書き」との回答をいただいた。いかに学生時代、勉強に身を入れていなかったか恥じる次第だが、戦後の教科書は国語(漢文、古文を含め)を除いて、ほとんどが横書きだったのである(すべてを確認したわけではないが)。
この教科書で学んだ団塊の世代が2025年にはすべて後期高齢者になる。さらに情報のやり取りが電子メディアとなり、シニアがニュースもスマートフォンで見る時代。考えてみれば、シニアが横書きを支持するのは当然なのかもしれない。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也
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