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シニアの地方移住(下)

高齢者の地方への移住にはメリットが多い

 今回は前回に続いて高齢者の移住、そのメリットを考えてみたい。もちろん移住はメリットだけではなく、デメリットもある。とくに高齢者はやり直す期間がないという点で、移住に踏み切るためには、移住体験や実際の移住者の声を聴くなど十分な下調べは必要なことは言うまでもない。

 では高齢者にとって地方へ移住のメッリトはなにか?大きく3つある。一つは暮らしにかかる費用を抑えてことができる。高齢者は年金や貯蓄で生計を立てるケースが多いので、暮らしにかかる費用を抑えることで、より豊かな老後を過ごすことができる。

 もう一つは地方の豊かな自然である。自然の中で日々を過ごすことは高齢者の健康寿命延伸に大きな効果が期待できる。

 最後はコミュニティの存在である。お互いに顔見知りで、日ごろからコミュニケーションをとることで地域や社会とつながり、「生きることの価値」を実感しやすい。このことが認知症の予防にもつながると考えられる。

メリットその1:生活費を安く抑えることができる

 一番大きいメリットは物価の安さであろう。中でも住まいと食費にまつわる費用は大幅に低くすることができる可能性が高い。

 地方は物価が低い傾向があるため、生活費を抑えることができる。中でも食糧費や住宅などの費用が大都市に比べて少なくて済む。総務省発表の「消費者物価地域差指数」※1によると物価水準が最も高いのは東京都(8年連続)の105.2で、物価水準が最も低いのは宮崎県(3年連続)の95.9となっている。指数が100(全国平均)を上回ったのは8都道府県。そのうちの半数の4都県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)が南関東の地域、その他は京都府、山形県、北海道、石川県となっている。

※総務省 小売物価統計調査(構造編)2020年(年)より。各地域の物価水準を全国の物価水準を100とした指数値で示したものであり,全国平均を基準(=100)とした指数を,地域別(地方10区分,都道府県,都道府県庁所在市及び政令指定都市)に作成したもの。消費者物価地域差指数における「総合」及び「住居」は「持家の帰属家賃」を含まない。

◆住宅費用

 地方都市における住宅価格は、大都市に比べて格段に安くなる傾向がある。また、地方都市の場合、敷金や礼金が不要で、月々の家賃も安いことが多い。したがって、高齢者が大都市から地方都市に移住する場合、住宅費用が大幅に削減されると考えられる。

 上記の消費者物価地域差指数の「住居(家賃)」を見ると、最も高い東京都(134.5)は、最も安い鳥取(82.1)の1.64倍となっている。しかし、東京都区内と比べると、その差はもっと開くと考えられる。

 例えば、総務省の平成25年住宅・土地統計調査によると東京都内の1畳あたりの家賃・間代は5,018円、駅近の好立地物件であれば、それ以上の家賃がかかることもある。一方、地方都市である宮崎県宮崎市の場合、1畳あたりの家賃・間代は1,939円と、東京都の4割以下で済むことになる。

 現在、住んでいるマンションの価格(2022年7月現在)を比較すると、東京都の70平米の中古マンションの相場はで5744.6万円。それに対して、鳥取県の同じ広さの中古マンションの相場は1447.2万円。その差は東京都の相場は鳥取県の約4倍、差額にして約4300万円。それだけの可処分資産が増えることになる。
※2022年8月31日「マンションレビュー」 2022年7月 全国主要エリア/47都道府県 中古マンション相場推移より
マンションレビュー https://www.mansion-review.jp/

 65歳で移住して95歳まで生きるとして30年、毎月にすると11.9万円年金が増える勘定になる(税金や売却・取得、転居など移住費用が別途必要になるが)。

◆食費

 地方に行けば、食料品の価格は安く。また、地方都市では地元の農産物が豊富に手に入るため、質の高い食材をリーズナブルな価格で手に入れることができる。したがって、高齢者が大都市から地方に移住する場合、食費が大幅に削減されることが予想される。

 実際の金額でみると、2022年の家計調査結果(2人以上の世帯)では東京都区部の一か月の食料品への支出は87,973円。それに対して、鳥取市の場合、食料品への支出は、69,588円となっており、単純な比較ではあるが、東京の約8割で済むことになる。

◆医療費

 高齢者にとって重要な医療費はどうだろうか?厚生労働省の国民医療費の地域差分析(平成28年)によると一人当たりの実績医療費をみると全国平均は340,609円。東京都は305,910円、宮崎県は369,866円となっている。ただし、この数字は全年齢の比較なので、高齢率の高い地方は、当然高くなる。年齢調整後の平均は東京都が342,000円、宮崎県が343,584円となり、ほぼ同じくらいとなる。医療費については一概に都市部が高く、地方が低いとは言えない。日本全体を見れば「西高東低」である。

◆介護費

 医療に続いて介護費はどうだろう?総務省の2020年 家計調査 家計収支編によると家計にたいしての「介護サービス費(要介護1~5と認定された人が利用できるサービス)」は東京都が4,241円、宮崎県が8,030円、こちらは宮崎県が東京都に比べると倍近い。もちろん、地域の実情とは異なることがあることには注意が必要である。介護費にかんしては地方に行けば安くなることはなさそうである。ただ、有料老人ホームなどは地価の低い地域は地価の高い地域に比べ、入居費は安くなる。

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