市場規模を推測するためには、世帯構成や家族形態の現状や将来予測は欠かせない。ところが、多くの場合、今までの常識に寄り掛かったイメージを鵜呑みにすることも、自戒をこめて間々ある。時にはこのような基礎データをおさらいしておくことも無駄ではないだろう。
幸いにも、この7月に「平成29(2017)年 国民生活基礎調査(厚生労働省)」が公表された。丁寧に追ってゆくと、意外な事実や思い込みとは異なるデータも散見された。2回に分けて、文字通り「基礎」となる数字を追ってゆきたい。
図1.は平成に入ってから5回の調査をピックアップ(時間間隔はランダム)して、世帯構造の変遷を見たもの。分母は65歳以上の高齢者のいる世帯。
グラフ化してみると平成年間で高齢者のいる世帯の世帯構造が劇的に変化したことがまざまざとわかる。
とくに目を引くのが、三世代世帯の減少。平成の初めには40%を占め圧倒的な存在感を示していた。高齢者のいる家と言えば三世代同居が、他の追随を許さないデファクトだったのだ。
それが平成も終わり頃になるとわずか11%。なんと30%近くも凋落し、トップの座を夫婦のみ世帯に譲っている。この減少分は、単独世帯と夫婦のみ世帯にそれぞれ11.6%ずつ振り分けられている。明らかに家族の細分化のありさまが見えてくる。
分母を小さくして、高齢者世帯の中での世帯構造はどのように変化したのだろうか?(図2.)高齢者世帯とは、65歳以上の者のみで構成するか、またはこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯を意味する。ここでの主要プレイヤーは、単独世帯もしくは夫婦のみ世帯の2つになる。
この両類型は、ほぼ拮抗しながらも、単独世帯が若干優位なポジションを占めてきた。平成元年(1989年)の実数値は、単独世帯が1,592(千世帯)、夫婦のみ世帯が1,377(同)。前者が215(千世帯)上回っていた。この傾向は近年まで続き、平成28年(2016年)調査では、前者が6,559(千世帯)、後者が6,196(同)。363(千世帯)前者が後者を上回っている。
この趨勢をはじめて打ち破ったのが今回の調査。わずか161(千世帯)の差ではあるが、夫婦のみ世帯が単独世帯を実数で上回った。
シニアマーケティングのトピックとして随所で喧伝されている「単独世帯」の増加。これはこれで間違いのない事実だが、同時に「夫婦のみ世帯」も順調(?)に伸びている。そしてこの両者の伸びは、三世代世帯減少と裏腹の現象なのだ。
単独世帯を男女別に分けて、その推移を実数で追ったのが図4.のグラフ。ここでも意外な一面が見えてくる。
一見すれば女性単独世帯が男性のそれを圧倒的に凌駕している。「女性おひとりさま」が脚光を浴びるわけだ。ただ、平成元年(1989年)を基点にして100と置いた場合、平成29年(2017年)の指数値は、男性が666、一方女性は329となる。平成年間の「伸び率」では、男性が女性を2倍上回っていることになる。稀少種だった男性高齢単独世帯が平成時代を通じて、かならずしもそうではなくなったということだ。
おさらいをしてみよう。図4.が現時点での高齢者世帯の世帯構造になる。
図5.は、男女別、年齢階級別に高齢者単独世帯の内訳を仔細に見たものだ。
一見して目につくのが、男性では65~69歳と比較的「若い(?)」世代の比率が高いこと。65歳以上75歳未満の前期高齢者の合算では、60%近くに達する。男女間の平均寿命の差を考えれば肯えることではある。
一方の女性では、各年齢階級ごとにほぼ万遍なく、分布している。あえて言えば75~79歳で21.8%と最も多くなっている。男女間で比較すれば、80歳以上合算の年齢階級で、男性では25%程度だが、女性では40%強と、より高年齢にシフトしていることが明らかになった。(下へ続く)
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年11月11日
2024年6月24日
2024年6月3日