イギリス、ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏著作、『ライフ・シフト』が話題になってそろそろ丸2年。日本でも人生100年時代構想会議が重ねられている。
寿命が延びて100歳を超えるようになれば、これまでの人生80歳計画は大いに見直す必要がある。従来の60歳定年退職のままでは定年後の期間が長くなり、年金支払期間が延び、年金財政は苦しくなる。継続雇用年齢の引き上げに向けた環境整備や、長く働くためのリカレント教育への助成など、検討が続いている。
制度の見直しは始まっている
個人の生活はどう見直す?
60歳における平均余命は、1985年時の男性19.34歳、女性23.24歳から、2016年には男性23.67歳、女性28.91歳。(厚生労働省 簡易生命表より)伸びる寿命に対して、国は雇用安定法における定年や年金支給制度の見直しを始めている。
しかし65歳定年延長が、すべての企業に定着するには時間がかかる。定年が5年延びても、その後の人生が長いことに変わりはない。
60歳あるいは65歳以降をどう生きるかは、大きな課題になる。
この変化に対して個人はどう対応するのか?
祖父母、父母、自分と引き継がれてきた生活傾向を突然、大きく変えることは難しい。そしてロール・モデルを見つけにくい。
しかし従来社会にロール・モデルが見つかりにくいということは、そこにビジネスチャンスがあるのではないだろうか?
リタイア後に向けてどんな準備が必要かを考えるにあたって、現在の高齢者が感じている「60代前からやっておけばよかったと思うこと」を見てみよう。
半数以上の人は、「やっておけばよかったことはない」と回答している。
しかしこれを年代別に見てみると、若い高齢者とより年齢の高い高齢者とでは意見が異なる。
年齢が若いほど強く感じる
「やっておけばよかった」
年代別でみると、男性・女性ともに、60代前半では「やっておけばよかったことがある」という方が多数。75歳以上は、「やっておけばよかったことはない」が多数。定年して間もないため生活ペースがまだ落ち着かない。年金制度改革で、原則、受給開始時期が原則遅くなっている60歳代前半。一方で、新しい生活に慣れ、60-64歳世代とは年金受給の条件がかなり異なる75歳以上。両者からは異なる意見がでて、当然だろう。
余談ではあるが、高齢心理学では、多くの高齢者はこれまでの人生を自己受容することができると言われている。より高齢であるほど過去を受容できるなら、60-64歳、65-74歳世代より、75歳以上世代が60代前半に対して「やっておけばよかったことがある」と思う確率は下がる。
では「しておけばよかったことがある」という意見が多い60代前半世代は、何を「しておけばよかったこと」というのだろう?
60-64歳層が感じる、60代前に
「しておけばよかった」こと
60歳~64歳が感じる「60代前にしておけばよかった」ことは、大まかに2グループに分けられる。
1)収入を得られるようにする
(技能+健康・体力)
2)「楽しみ」と「仲間」をつくる
60歳代前半の人たちが、このような「しておけばよかった」を感じている。
実は今の35-64歳世代は、これらを準備すべきという意識を持っている。
35-64歳層が思う
「高齢期に備えて大切だと思う取り組み」
高齢期に備えて必要な取り組みについて、35-64歳層が必要だと考えていることは、60-64歳層がやっておけばよかった、と思っていることと合致している。
1)収入を得られるようにする
(健康・体力+技能)
2)「楽しみ」と共有する「仲間」をつくる
そして、就労についてはかなり努力もしている。
健康・体力づくりは、「大切と思う」人より「取り組んでいる」人は9%ほど少ないが、それ以外の項目については、大切と思っている人より取り組んでいる人の方が多い。
取り組む人は、一人で複数の課題に取り組んでいることがわかる。
また「高齢期の就労に備えが必要だと」思いながら何も取り組めていない人は、25.8%。大多数の人は何らかに取り組んでいる。
趣味と仲間、同時につくることができる
出会いを創出するサービス
一方、高齢者層もまだ高齢者でない層も、重要と感じている2点目、『「楽しみ」と共有する仲間をつくる』件について、35-64歳世代の取り組みはどうか?
楽しみと仲間づくりを支援する商品やサービスは、いろいろ提供されている。
たとえば趣味人倶楽部は、50-60代をメインに会員数335,000人(2018年6月資料)。趣味でつながる会員サイトとして、オンライン、オフラインでコミュニティやイベントなどが活発に活動、開催されている。
昨今、利用が増えているのは同窓会支援サービス。幹事を代行して、かつての仲間が再会できる機会を提供。利用者は、日常になかった古くて新しい人間関係を構築できる。
クラブツーリズムは「一人でも参加しやすい」、「高齢者も参加しやすい」など、これまで旅行に疎遠になりがちだった人を顧客化。写真撮影やスケッチをテーマにした旅、歴史、天体観測を探求する旅などを提供している。同じ趣味嗜好を持つ者同士が出会う、仲間づくりを支援している。
仲間、趣味、つながりをつくる旅行、ツアーを企画する「仲間づくり企業 クラブツーリズム」
しかしこれらが共通して取り扱っていない要素がある。それは、「近隣」。
年齢を重ねれば車や電車での外出は難しくなり、歩いて行ける範囲が生活の中心となる。地元の情報や自治体の取り組みにも精通している方が、よりよく生活できる。生活エリアにおける出会いと仲間づくりは、長い人生に欠かせない。
ネットで繋がりやすい社会だからこそ
日常の行動範囲内で、関係をつくる価値
若いうちから近隣になじみのコミュニティがあれば、災害時の対応力が向上する。子育てにも安心感が増す。地域社会になじむことは、高齢期にもちろん、現役世代にも有意義。
しかし多くの現役世代は、そこまで手が回っていないのが実情だ。
男性は5割近く、女性も4割あまりは、高齢期の社会参加活動に備えて今していることは、「特にない」と回答している。高齢期の就労準備に比べて、取り組んでいない人がほぼ倍。
つきあいや交際の拡大は「必要だし大切」と自覚しているのに、そこまで手が回っていない。ならば近隣で、気軽に「仲間づくりと楽しみを得る」機会を提供することは、ビジネスに繋がるかもしれない。
たとえば塾・予備校なら、大人向けに出会いを生むワークショップスタイルの塾を開催。早朝は出勤前の会社員向けに「仕事に使える!仲間と学ぶ!勉強し直し統計学」と題して勉強会を開く。昼は主婦をターゲットに「感想赤裸々!韓流ドラマを2倍楽しむ歴史塾」といった講座を実施。さらに横のつながりをつくりやすい、イベントを絡めていくなども考えられる。
銀行や証券会社なら就業時間後、支店店舗内の会議室やミニホールを地域のイベントや会議に提供。また「高齢期に備える資産形成ゼミ」を主催して、参加者同士の繋がりを生みやすい協働発表をカリキュラムに取り入れる。同時に潜在顧客との出会いにもつながるだろう。
スーパーなら、店内に地元高校生のクラブ活動の発表会場を提供。共働き家庭もそうでない家庭も集い、知り合える機会を提供。集客力を高めながら、顧客同士の出会いを提供する。
これからの高齢社会に備える現役世代に向けて、地域住人が地元で関係性を深めながら消費する、サービス・商品の開発を考えてはいかがだろう。
株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
2024年10月30日
2024年9月25日
2024年8月21日