「気は心」と言われるように、実際には健康ではなくてもそう感じる気持ちは、健康のひとつのバロメーターと言って差し支えないだろう。55歳以上の男女約2,000名に聞いた内閣府の調査では、過半数の52.3%の人が、「健康状態が良い、まあ良い」と回答。「良くない、あまり良くない」と回答した人が18.1%に上った。(図1.)
わかりやすく言えば、10人のうち、5人は健康、2人が不健康、残りの3人が「可もなく、不可もなく」といったところ。中高年から高齢者を対象とした調査としては、「そんなものだろう」と肯える結果ではあるだろう。
もっともこれは平均のマジックで年齢階級が上がるほど「良い、良くない」は増加し、下がるほど減少する…。容易に想像できることだが、現実はそうなっていないところが面白い。
図2.は、原則、5歳刻み6つの年齢階級ごとの健康意識を聞いたもの。「健康状態が良い、まあ良い」と答えた人は、年齢階級によってほとんど差がないという意外な事実が浮かび上がってきた。
最も数値の高い集団は、65~69歳の54.4%、逆に低い集団は80歳以上の49.5%。その差はわずか4.9%にすぎない。僅差の中に残りの4つの集団がひしめき合っているという状態だ。集団間の格差を論じても意味はなく、ほとんど横一線という認識が正鵠を得ているだろう。たとえ主観に過ぎないとしても、80歳以上の年齢層でも、約半数の人は自分を健康であると認識しているわけで、これを見る限り、人生100年時代という掛け声もあながちオーバーとは言えない。
その一方で、「健康状態が良くない、あまり良くない」と答えた方の比率は、年齢階級が上がるに比例して確実に高まっている。良くないと答えた人(良くない、あまり良くない計)は、最低の55~59歳で10.6%。最高の80歳以上では28.9%まで跳ね上がる。その差も14.3%と、良い(良い、まあ良い計)と比べればそのレンジはグンと広くなっている。
つまり、年齢が上がるほど、普通というグレーゾーンが狭まり、はっきりと健康状態が悪いと認識している人が増えてくるということだ。健康が質的に低下していることを想像させるデータである。
年齢以外に健康状態の良否を決める要因はあるのだろうか?
図3.は単身か夫婦のみかで健康認識に差があるかどうかを比較してみたものだ。夫婦のみの世帯の方が単身世帯に比べて、「良い」は多く、「良くない」が少ない結果になっている。夫婦のみの世帯が55.7%なのに比して、最も数値の低い男性単身世帯では48.9%。
逆に「良くない」は夫婦のみ世帯が16.7%と最も低く、女性単身世帯が24.7%と最も高い数値になっている。単身者の方がより多くの健康不安を抱えていることが明らかになった。
ある意味、ちょっと残酷な結果になったのが、図4.。収入と健康状態の相関関係をグラフ化してみたものだ。
概ね、1か月の平均収入が多くなるほど、健康状態が良い人が増え、良くない人は減少している。年齢階級以上に確実な相関関係が見て取れる。5~10万円未満の層は「良い」が46.4%と半数を割り込んでいるのに対し、60万円以上の層は66.9%と3人に2人の高率に上る。逆に「良くない」は、5~10万円未満の層で25.1%に上るのに対し、60万円以上の層では7.9%に留まっている。この格差は大きい。
フローに余力があるから健康状態を良く維持できるのか? それとも健康状態が良いから収入を得られるのか? どちらの因果律が正しいかはわからない。ただ、所得格差による健康格差は厳然として存在しているのは事実である。そしてそれは年齢より影響力のある健康要因になっているのである。(中に続く)
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年5月22日
2023年11月14日
2023年7月26日