2017年1月27日
「健康のために歩く」―誰もが知っていることであり、厚生労働省が提唱する「健康日本21(第2次)」はじめ、官民こぞって歩くことを進めている。
シニアにとって、歩くことは認知症の予防や健康寿命を延ばすことにつながることがわかってきた。
しかし効果があるとされる歩行量と実際の歩行量にはまだ開きがある。シニアは「もっと歩きたい」「もっと歩かなければ」と考えている。そこに大きなビジネスチャンスがあるのではないか。以下にシニアと歩くことについて検証し、チャンスの可能性を探ってみよう。
歩行と認知症について
高齢社会がもたらす諸問題の解決に取り組み、大きな成果をあげている地方独立行政法人「東京都健康長寿医療センター」。同センターのWEBサイトに老化脳神経科学研究チームの堀田晴美氏による「歩行は、なぜ認知症予防につながるのか?」という論文が「耳寄り研究情報」として掲載されている(※1)。
※1 http://www.tmghig.jp/J_TMIG/topics/topics_201412.html
歩いたり皮膚を刺激したりすることで、薬に頼らず認知症を予防できる可能性があるという。
1)日頃からよく歩く人は(1週間に90分=1日あたりにすると15分以上)歩く人は、週に40分未満の人より認知機能が良い。
2)血圧があまり上がらない程度の無理のない歩行が、脳の「アセチルコリン神経」を活性化し、海馬や大脳皮質の血流を増やす。無理せずゆっくり歩くことは、年齢に関係なく脳の血流を増加させる。
3)皮膚や筋など、からだのどの部位の刺激でも脳内の血流増加の効果がみられ、とくに手や足への刺激は効果がある。
歩行と老化抑制について
同センター老化制御研究チーム副部長・運動科学研究室長の青柳幸利氏は群馬県中之条町において65歳以上の高齢者5000人を対象に13年間にわたり調査を行った。
「老化は脚から始まる」。加齢による歩行能力の低下は、いろいろな原因が複合して引き起こされるが、重要なことは身体を動かさなくなることによる「筋力の低下」である。
筋力の低下を防ぐために歩くことが有効だということは調査でもはっきり示されている。しかしいわれているように、歩数や活動時間が多いほど、健康によいというわけではないことも判明した。逆に過度な運動は、ストレスになって免疫機能を下げるリスクもある。
こうしたことから、「1日8000歩・中強度活動時間20分」が健康のためにもっとも適した活動量だと導き出すことができる、という結論を高齢者の“運動の法則”として提唱している(※2)。
※2 https://www.amazon.co.jp/dp/4794219725/
体力は(1)筋力 (2)柔軟性 (3)持久力 (4)平衡性 (5)歩行機能の5つの要素から成り立っているが、各種研究・分析などから高齢者の体力を代表するのは「歩行の能力」であるといわれている。
この他にも海外での疫学調査でも、歩くことでさまざまな病気を予防し、認知症やうつ病の発症を防いで健康寿命を延ばすことが証明されている。現実を振り返ると、モータリゼーションの恩恵を受けて育った団塊以降の世代は、歩く距離が減り、健康寿命が短くなることも考えられる。
毎日どれくらい歩いているのか
平成 26 年度の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)(※3)によると全体では男性 7,043 歩、女性 6,015 歩。この 10 年間で男性は減少、女性はあまり変化がみられない。
年齢で見ると20~64歳の歩数の平均値、男性7,860歩、女性6,794歩に比べ65歳以上では男性5,779歩、女性 4,736 歩となっている。変化の大きな原因は離職による活動量の減少が大きいと推測される。
※3 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h26-houkoku.html
厚生労働省が提唱する「健康日本21(第2次)」の日常生活における歩数目標値は20~64 歳 男性 9,000 歩 女性 8,500 歩、65 歳以上 男性 7,000 歩 女性 6,000 歩としている。※4これをそのまま高齢者に当てはめると、男女とも1,200歩くらい不足していることになる。
中之条町の調査からの導きだされた8,000歩ということであれば、男性は約2,200歩、女性は約3,300歩の不足となる。この差を埋めるためには日常活動に加え、運動としての「ウォーキング」が必要になる。
※4 http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21/kenkounippon21/mokuhyou05.html
仮にシニアの歩幅を50cm、歩く速度を毎秒1mとすると2,000歩で1,000mを16分ちょっと、3,000歩で1,200mを25分で歩く計算になる。とすれば乱暴な計算だが日頃の活動に15分から25分のウォーキングをプラスする必要がある。
※歩幅、速度は「保健福祉学研究 2003年 第02号23-30P」の「携帯型歩数計を用いた高齢者の歩行能力評価法の開発」高戸仁郎ほか(※5)の実験データを元に算出。
※5 http://ci.nii.ac.jp/els/110004708713.pdf?id=ART0007451018&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1485233741&cp=
シニアの「歩く」ことへの関心、意欲はどうか
平成25年1月 体力・スポーツに関する世論調査(文部科学省)の「今後行なってみたいスポーツ・運動」を見ると、「ウォーキング」は60歳代が63.2%、70歳以上が57.2%で、ともに1位。2位の「体操)」同で33.9%、24.1%を大きく上回っている(※6)。
※6 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa04/sports/1338692.htm
シニアは歩こうという気持ちは持っている。その気持ちを15分から20分のウォーキングに結びつけるものがあれば、シニアの健康、満足感、大きく見れば日本人の健康寿命を延ばすことにつながる。そこには大義と大きなビジネスチャンスがある。
歩くことへのビジネスの可能性
例えばシニアの間で普及が進むスマートフォン。スマートフォンを使ってシニアのウォーキングが楽しくなるアプリがあれば可能性が広がる。すでに多くのウォーキングアプリがあるがシニア向けとは言いがたい。もっと簡単に使えるものが欲しい。歩数、距離、スピード、記録がパッと見られると良い。シニアが子供や孫とのコミュニケーションに使っている「LINE」の中でできれば利用者は増えるだろう。
シューズやウェアもシニアのウォーキングに合わせたものが欲しい。脱ぎ履きしやすいウォキーングシューズはアシックスウォーキング(※7)などから発売されているが、チップを埋め込んで自動車と情報をやり取りすることでシニアの交通事故を防止するなどの機能がこれからは求められる。正確な歩数計測もスマホ連動で可能になるだろう。ウェアは体温調節能力の衰えたシニアのために保温性、通気性を配慮したものや、着たり脱いだりしやすいものが求められる。
※7 http://www.asics.com/jp/ja-jp/walking/lifewalker
ウォーキング中の水分補給はどうだろうか。スポーツ飲料もシニアの体組成や求められる成分を強化したものがあってもいい。たとえば「市販の多くのスポーツドリンクは糖分濃度が高く、塩分が少ないので、3倍くらいに薄めて塩分を加えて飲むのが適当」とされている(静岡県薬剤師会)(※8)。容量にも注意がいる。重すぎてはシニアの負担となる。歩いた後にちょっと食べる甘いもの(栄養分と食べやすさに工夫が必要)は自分へのご褒美に喜ばれるだろう。
※8
http://www.shizuyaku.or.jp/soudan/soudanshitsu/2008/081125.html
自分の趣味に歩くことが活かせたらもっとやる気がでて、長続きするに違いない。ウォーキング撮影術、吟行ならぬウォーキング俳句、絵手紙のネタ探し…歩くことと学びを組み合わせればさまざまなビジネスの切り口も見えてくる。例えば俳句の文字を画像へ簡単に入れられるデジカメ、思いついた俳句をさっと録音できる電子手帳など。俳句を一緒にマップ上に記録できるウォーキングアプリなども喜ばれそうだ。
すでにリリースされているスマートフォンアプリの「finbee(フィンビー)」は興味深い(株式会社「ネストエッグ」が提供)。フィンテック(金融とITを融合させた技術)を活用し、スマホの歩数計アプリと連動させて「1日1万歩を歩かなかったら500円」貯金できる仕組み(設定はいろいろ可能)。こうした試みもシニアが歩く動機づけになるだろう。
シニアの「ウォーキングシーン」を思い描きながら、シニアがもっとウォーキングを楽しむためのシーズやノウハウが貴社に眠っていないか、一度点検してみてはどうだろうか。
株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也
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