前回のコラムに引き続き「食料品アクセス問題」の話題。
今回は、「アクセス問題」を受けて、市町村がどのような検討や対策を考え、実行に移しているかを農林水産省のアンケート調査からピックアップしてみたい。
現時点で対策を必要としている市町村数は、959自治体で26年度の調査と同数という結果。(図4.)ただここ近年の遷移を見る限り、漸増傾向にはある。
このうち、何らかの対策を実施している市町村は611自治体に上り、回答のあった自治体全数の63.7%に上る。わずか1.2%とは言え上昇している。反面、4分の1を超える248自治体では、対策の検討も実施もなされていないことが浮き彫りになった。
(図5.)
図6.は対策を必要とした理由。ダントツなのが「住民の高齢化」で、ここ4~5年の傾向値は変わらない。昨年に比べて、伸び幅が大きいのが単身世帯の増加。前年より4.8%と、5つの選択肢の中では際立った伸びを見せている。
この傾向は大都市でとくに顕著で、平均の50.3%を8.5ポイントも上回る、58.8%と高率を示している。
実際に実施した対策(図7.)では「コミュニティバス、乗合タクシーの運行等に対する支援」が圧倒的に多く、70.9%の自治体が実施済みだと回答している。
その次に40ポイントもの差をつけて、「宅配・御用聞き・買い物代行サービス等に対する支援」、「空き店舗対策等の常設店舗の出店、運営に対する支援」がほんの僅差で2位、3位につけている。まずはインフラを整えようというところか?
一方、検討中の対策を見ると実施済み対策とは異なった様相が見えてくる。
4~5年というスパンで概観してみると、「コミュニティバス、乗合タクシーの運行等に対する支援」や「朝市、青空市場等の仮設店舗の運営に対する支援」が低落傾向を示しているのに対し、「宅配・御用聞き・買い物代行サービス等に対する支援」や「移動販売車の導入・運営に対する支援」が長い目で見れば漸増傾向を示している。(図8.)
低落傾向の支援は、ハコモノの「待ち受け形支援」、一方の漸増傾向の支援は「人の所へ出向く支援」。言葉を換えれば、ハード色の濃い支援から、ソフトな支援へ、少しずつながら対策の比重が移ってきているとは言えないだろうか?
そして今後後者のサービスが主流とはいかないまでも、そこそこの存在感を示してくるのではないだろうか?
その象徴的な「事件」とも言えるのが、野菜宅配のオイシックスによる移動スーパーとくし丸の買収だろう。
とくし丸と言えば、買い物に行けない高齢者の家を1軒1軒回り、高齢者との絆を深め、わずか3年で全国サービスに拡げた、話題のビジネスモデルだ。
シニア層の開拓が手薄だったオイシックスと販路拡大や広告媒体活用のメリットが見込めるとくし丸側の思惑が一致したと思われる。
高齢者支援の事業は、決してハコモノだけでは解決しない。パーソナルな部分が根っこになければ、ビジネスとして成立しない。「食料品アクセス問題」のデータはこれからのあり方を示唆してくれている。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2023年9月5日
2023年6月28日
2022年8月26日