70-75歳の5人に一人が低栄養傾向(BMI20以下)にあることが示され、老人性栄養失調への懸念が高まっている。(平成26年の『国民健康・栄養調査報告』厚生労働省)
高齢者の低栄養傾向の数値は、平成24年から公表され始めた。
◆平成27年度~24年度『国民健康・栄養調査報告』(厚生労働省)。平成23年数値は、平成24年に同時に公表。
高齢者のやせ・低栄養は、要介護や死亡に対する重要なリスク要因。厚生労働省の「健康日本21(第二次)」において、低栄養傾向の高齢者の割合増加を抑えることが目標として掲げられている。
厚生労働省が発表している70歳以上におけるBMI目標値は、21.5~24.9。
足りていない、高齢者の栄養摂取状況
表2は、70歳以上の男性・女性の栄養摂取と厚生労働省が示している『日本人の食事摂取基準』を見比べている。
●推定エネルギーについて、身体活動レベルがふつうの人(Ⅱ)の基準を使用●平成24年(2012年)から、平成23年の数値とあわせて、低栄養化の懸念が始まった。○たんぱく質:男性推定平均必要量は 50g、推奨量は60g、女性推定平均必要量は40g、推奨量は50g、目標量は男女ともエネルギーの16.5% 4kcal/gで計算 ○脂質:エネルギーの25% 9kcal/g ○炭水化物:エネルギーの57.5% 4kcal/g ○カルシウム:推定平均必要量-推奨量 ○カリウム:目安量-推奨量
◆『平成27年 国民健康・栄養調査』(厚生労働省)と『日本人の食事摂取基準2015年版』(厚生労働省)から作成
たんぱく質、脂質、炭水化物の合計が示すエネルギーは、平均値でみても必要とされる量に1割ほど届いていない(男性・女性ともに)。またカルシウム・食物繊維においても必要量に達していないことがわかる。
低栄養が引き起こす課題
厚生労働省が発表している『日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討報告書』では、高齢者のたんぱく質摂取について、「摂取量が多い群(平均91.0g/日、1.2g/kg体重/日)」と「摂取量が低い群(平均56.0g/日、0.8g/kg体重/日)」を比較している。
たんぱく質摂取量が多い群は摂取量の少ない群に比べ、除脂肪体重の減少が40%抑えられている。3年後の筋力低下においても、たんぱく質摂取量が関連していることが確認されている。
また東北大学大学院医学系研究科では、高齢者のBMIと原因別要介護の発生リスクを研究。BMI23未満の者で認知症による要介護発生のリスクが高いことを発表している。
「必要な栄養摂取量」は、国民に知識として届いているか?
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討報告書」で取り上げられている「たんぱく質の摂取量が低い群」の56.0g/日は、実は、2010年版の「日本人の食事摂取基準」*と見比べると必男女共に必要量を達成できている。
●推定エネルギーについて、身体活動レベルがふつうの人(Ⅱ)の基準を使用●平成24年から、平成23年の数値とあわせて、低栄養化の公表が始まった。○たんぱく質:男性推定平均必要量は 50g、推奨量は60g、女性推定平均必要量は40g、推奨量は50g、目標量は男女ともエネルギーの16.5% 4kcal/gで計算 ○脂質:エネルギーの25% 9kcal/g ○炭水化物:エネルギーの57.5% 4kcal/g ○カルシウム:推定平均必要量-推奨量
◆平成27年度「国民健康・栄養調査報告」(厚生労働省)
「日本人の食事摂取基準2015年版」(厚生労働省)
表3は、『平成27年 国民健康・栄養調査』と『日本人の食事摂取基準2010年版』から作成した。たんぱく質について、男女ともに2010年版の必要量を達成できている。
しかし、表2)でみるように、2015年の「日本人の食事摂取基準」においては必要・推奨量とは別に「目標値」が追加されており、その数値には足りていない。
2015年度からたんぱく質に目標値が設定された背景には、2012年、『国民健康・栄養調査報告』平成24年版から高齢者の低栄養傾向に関する報告が始まっていることが関係しているのではないだろうか。
高齢者の健康課題に対する研究は進んでいるが、そこから見直されている基準について、情報の浸透はあまり進んでいないのかもしれない。しかしこうした情報不足の課題があるところに、サービスを提供できる余地がみえてきそうだ。
たとえば高齢になる前の中年時期は、メタボリックシンドローム対策が健康維持の大きな柱。糖質やカロリーを控える食生活を送ってきた人が少なくない。しかし高齢期にさしかかって心配すべきは、エネルギーや栄養の不足。多くの企業がメタボ対策を訴求の中心に展開してきているが、高齢期に入ってからの食生活については、情報も警鐘も充分とはいえない。高齢期に必要な食生活へ、適切なシフトに関する情報を供給しながら対応した食材や食生活の提案を行う事業は、社会的にも意義があり、多くの需要が見込まれる。
「新しい食生活の基準」を定着させる提案
高齢者に多い疾患に対しては個々の食事指導が必要で、一概に積極的な食生活を推進するわけにもいかない。一律に対応できないところにも、カスタマイズしたサービスや商品の価値が発生する。既に糖尿病や腎臓病、高血圧や肥満のため食事制限が必要な人へ食事を提供したり、電話による管理栄養士から食事アドバイスをしたりするサービスが提供されている。
こうしたサービスの対象を広げ、病気にかかっていないが気にかかることがある―未病の方に向けて、提供することも考えられる。弊室では、要介護ではないけれど日常生活の中で諦めや我慢が積み重なっている「ギャップ・シニア」は、1,045万人と推計。未病の時点でこの方たちの食生活をチェックし、サポートすれば、深刻な状況を遠ざけることも可能だ。
料理教室を持つ企業なら、ターゲットから外れがちだったシニア女性に、これまでの料理・献立を見直す「年齢にあわせた食生活見直し講座」。「美と健康の維持」などのテーマと組み合わせて、必要な食生活や栄養摂取に効果的な調理法・食べ合わせもレッスンすれば、楽しさも膨らみそう。栄養素を強化した新しい調味料をレシピに使えば、不足しがちな栄養を取り入れるノウハウを提供できる。
介護が必要な方には、介護メニューを家族のメニューとあわせてつくるレシピや調理方法など、新しい講座を開発。教室に人と人をつなぐ仕組みを加えていけば、参加者が得られる情報や楽しみが増え、リピート率をあげられる。
スーパーや百貨店の食品売り場や生協などの食品注文チラシでは、「シニアの食生活・見直しレシピ」を提案。食材からシニア向け惣菜、それら組み合わせた献立を提案すれば、新たなニーズを喚起できそうだ。
サプリメントや単一食材で対応しようとするのではなく、食生活全体を見直して取り組む提案は、多様な業界や生産者との協働が必要になる。食を挟んだコミュニケーションづくりを加えれば、さらに大きなビジネスに発展する可能性も期待できる。
株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
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2021年3月1日
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