シニアに向けた製品を開発するときに大切なポイントがいくつかある。今回紹介するパナソニックのICレコーダーRR-SR30、愛称『備忘録』はそのポイントを上手く押さえている。
メーカーの商品ページ(大きな文字、シンプルな内容でわかりやすい)
http://panasonic.jp/icrec/sr30/
そのポイントは5つある。
1)シニアの「愛着」を生む
パナソニックのICレコーダーRR-SR30のデザイン、形状は秀逸である。団塊世代を中心にシニアが若かりし頃はやった「エアチェック」。その主役がカセットテープだった。最新の音楽をラジオからカセットテープに録音して、それを友人たちとやり取りした懐かしい記憶を持つシニアは多いはず。
ICレコーダーRR-SR30はそのカセットテープのかたちに似せられている。液晶の窓にテープのリールがくるくる回る。作動を伝える以上にシニアの心へデジタルでは伝わらない何か温かいものを伝えてくれる。機械に覚える「愛着」と言うのはこうした工夫から生まれるのである。ペットネームも『備忘録』とは良く出来ている。
2)「慣れ親しんだコト」をどう上手く取込むか
かつて音楽を聞くための必須アイテムだった「ウォークマン」型のカセットプレイヤー。その行き着いたかたちが「カセットサイズ」。ICレコーダーRR-SR30の操作ボタンはそのカセットサイズ音楽プレイヤー風に配列されている。シニアが「慣れ親しんだ」操作でOK。これならシニアにも使いやすい。
使い方は簡単。ボタン形状、ボタンの配置も「どこかで見た」かたち。「再生」「録音」といった表示もやや大きめの日本語。老眼のシニアにも見やすい。ラジオやテレビの音を録音するのもイヤホンジャックと繋ぐだけ。昔のアナログの「慣れ親しんだ」やり方だ。
3)「小さすぎない」
シニア向けというと軽くて小さいものが喜ばれるか、というと全てがそうではない。最近のビジネス用ICレコーダーは極めてコンパクトになっている。ビジネスシーンでは目立たない小さなもの、持ち運びがラクな軽量タイプがありがたい。しかしシニアにとっては「小さい」ことがアダになることもある。紛失しやすい、探しにくい。そして小さくなることでボタンや表示が小さくなり、使いにくくなる。
シニアには何でもダウンサイジングがいいという思い込みには要注意だ。ICレコーダーRR-SR30はその点、小さすぎず、かさばりすぎず、いい頃合いの大きさに仕上がっている。
4)「便利すぎない」
パナソニックのICレコーダーRR-SR30で一番感心したところは、「音声データ」が取り出せないこと。この手の機器を設計するとき、つい自分の立場で必要な機能を盛り込もうとする。ビジネス用のICレコーダーでは音声データの取り出しは必須である。それがないと役に立たないかもしれない。
しかし、シニアの使い方は録音した自分の声や、習い事で録音した先生の声など音で聞くのがほとんど。データを取り出す必要があまりない。ないとは断定できないが、その判断をするための「シニアへの理解」が必要だ。シニアへの理解があってこそ「機能」のそぎ落としができた。
ICレコーダーRR-SR30はデータの取り出しをやめたおかげで取扱説明書は何ページ減っただろうか(ちなみに取扱説明書はハンディタイプの20ページ、最近のデジタル機器に比べればぐっと少ない)。本体に音声ガイドが内蔵されている。
余計な利便さが却って使いにくさ、操作の難しさにつながる。その点でこのICレコーダーRR-SR30は実に潔い。
5)録音したものを「忘れても大丈夫」
人は忘れる生き物だが、シニアはもっと忘れる生き物だ。せっかく録音したものが呼び出せない。かつてはカセットにラベルに手書きで曲名を書いたものだ。シニアは「ファイル名」をつけるのが苦手。ICレコーダーRR-SR30は「日付」で検索できる。これはいいアイデアだ。
シニアは大事な予定を忘れてはいけないので、カレンダーや手帳に予定のメモはとっている。だからそれを繰れば、録音した内容を思い出しやすい。それでも思い出せないものはそれでいいのである。
シニアは意外に録音する機会が多い。謡や長唄のお稽古は先生から口移しが多いので、録音して家でおさらいする。海外旅行に行って「やっぱり英語は必要」とラジオ講座で学ぶ。同窓会や町内会の会合で忘れてはいけないことは録音しておく。ラジオやテレビから好きな歌を録音してカラオケの腕を磨く。そんなシニアにおすすめだ。
そんな時、このパナソニックのICレコーダーRR-SR30『備忘録』がきっと重宝されるに違いない。適切なメディア+表現戦略でアピールすればブレイクの可能性は高い。また、地域電器店のシニア創客の戦略商品として面白い企画が立てられそうだ。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也
2024年11月26日
2024年10月30日
2024年9月25日