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「ハイテクをロートク(老得)に」  BUFFALO 『おもいでばこ』―シニアマーケティング成功事例 (1)

スマートフォンに代表されるITテクノロジーに限らず、高度な技術の革新が日々の暮らしに応用されている。こうしたハイテク(ハイ・テクノロジー High-Technology)の成果こそ、シニアの暮らしを豊かで便利なものにするために活用されるべきであろう。しかし、そこに大きな壁がある。そのハイテク技術や製品をシニアが使えるかどうかだ。どんなに便利な機能やサービスも使えなければ意味がない。

そんな中で挑戦的な取り組みをしている製品を紹介したい。
『おもいでばこ』という製品である。
デジカメで撮った写真や動画を超簡単に保存、整理し、テレビで再生することができる。
「BUFFALO(バッファロー)」というパソコン周辺機器では最大の売上をほこる電子機器メーカーの製品だ。

横幅は23㎝、高さ3.5㎝ほどの小箱。テレビ台に置いても邪魔にならない

横幅は23㎝、高さ3.5㎝ほどの小箱。テレビ台に置いても邪魔にならない

http://omoidebako.jp/

製品の特徴を簡単に説明すると

1) PCを使わずに利用できる
2) 機能を「写真を見る」「整理する」ことに絞り込んだ
3) TVを利用し、接続はケーブル一本
4) リモコンの操作はTV感覚

製品デザインやパッケージも
1)製品色はホワイト。AV機器ではなく「白モノ家電」のイメージに
2)パッケージは写真を使い、製品をわかりやすく説明
している。

写真を撮るということはシニアのもっともポピュラーな趣味、楽しみの一つ。かつては「バカチョンカメラ(懐かしいことばになった)」で写真を撮って、DPE屋さんへ出せばOK。日付の入ったプリントを見たり、見せたり。撮った写真の整理もアルバムで簡単にできた。
しかしデジカメになって写真を楽しむためにはパソコンやプリンターなど、シニアが苦手な機器が必要になった。

そこで撮った写真データを簡単に「取り込み」「整理」「保存」して、その上簡単に「見たり、見せたり」できる機能があれば、写真が好きなシニアにきっと喜ばれる=売れると考えてつくられたのが『おもいでばこ』である。価格は内蔵メモリーが1テラタイプ(約24万枚!写真が取り込める)で2万5千円前後。

BUFFALOは『おもいでばこ』を「テレビを“より楽しくする”プロダクト」として録画用外付けHDDなどとともに「デジタル家電」と名づけている。『おもいでばこ』が2012年事業報告書の表紙を飾っているところからも力の入れようがうかがえる。

製品機能は素晴らしい(私自身も使っている)。まさに「ハイテクをロートク(老得)に」を目指した製品である。数々の製品賞を受賞している。利用者の評価は高い(価格コムのユーザーレビュー)。デジタルに弱い両親のために買う(薦める)ケースが多いようだ。

http://review.kakaku.com/review/K0000311247/#tab

さてシニアマーケティングの視点でみてみよう。今までにないジャンル、しかもデジタル系の製品を、シニアを含めた機械に弱い人たちにアピールしようという難度の高いテーマである。市場導入するにあたっていろいろな困難があっただろうと想像できる。

・名前をどうする?(ペットネームや製品名)
→『おもいでばこ』というペットネームは悪くない。日本語でやさしい感じも「家電」指向にふさわしい。ただ「何をするもの」かがわかりにくい。本来はペットネームではなく製品名で理解させたいところだが、新しいジャンルの製品だけに「デジタルフォト・アルバム」という製品名では機能が想像できない。小林製薬の『ナイシトール』のような機能名とペットネームを合わせたネーミングもありかもしれない。

注意したいのは日本語の名前は覚えやすいようでも、シニアには意外に難しい。以前に書いた「TOT(Tip of the tongue)現象」に陥りやすいからだ。多分、名前と機能が微妙にずれていて、それが「おもいだせない」理由ではないだろうか。シニアにとって覚えやすい名前をもっと研究する必要があると思う。

・どの機能をリードメニューにする?「保存」「整理」「再生」?
→「整理」をリードメニューにしたのは正解。シニアにとって、たまったデジタル写真の「整理」は難儀なものだ。キャッチフレーズ「あなたの代わりにまるごと整理 見たい写真がすぐに見つかる」は問題解決を端的に示していてわかりやすい。

・どこで売る(デジカメ売り場、テレビ売り場、録画機売り場…?)
→これがあまりうまくいっていない。かなり大規模な家電量販店でもなかなか製品を発見できない。店員に聞いてもよくわかないケースが多い。何度か説明してようやく、「ああ、あれですね」と売り場を教えてくれる。定位置がなさそうだ。ここでも、製品名が関わってくる。「TV○○レコーダー」とすればテレビ用のHDDレコーダーのそばに置かれる可能性が高くなる。この辺りの戦略も重要である。

・どのようにその存在やメリット知らせる?
→この製品については何かの情報がなければ検索も難しい。TV宣伝という手もあるが、費用対効果を考えると、パブリシティ。確かにパブリシティに力を入れているように見えるが、取り上げられているメディアがターゲットと若干ずれているような気がする。もっとシニアに近い媒体(新聞、一般向けの週刊雑誌、テレビの便利グッズコーナなど)が有効なのではないか。いまは口コミで売れているのではないだろうか(私も何人かにシニアに勧めて、購入した人もいる)。

→10月11日更新:「クラブツーリズム」の機関誌にしっかりタイアップ広告がでていた(失礼!)。旅行パンフレットをメディア化すればシニアへのリーチは高まり、旅行会社とシニア向け製品、サービスを提供する企業はWIN-WINの関係になることができる。
『おもいでばこ』のように写真関連だとますますその効果は高まるので、まさに「どんぴしゃメディア」である。この辺りはいずれ取り上げたい。

「クラブツーリズム」の機関誌。ツアーに参加したことのある人に送られてくる。「シニア+旅+写真」と最強のタッグだ

「クラブツーリズム」の機関誌。ツアーに参加したことのある人に送られてくる。「シニア+旅+写真」と最強のタッグだ

WEBでの口コミの仕掛けはユーザー証言募集、SNSを使った発信など丁寧に行われているようだ。Facebookで子どもや孫たちの消息を楽しみにしているシニアが私のまわりでは増えている。ネットにリーチしやすい子育て世代の女性にも効果的だろう。

・どんな顔(製品デザイン、パッケージ)にする…など
本体は光沢のあるホワイト。かつての冷蔵庫を思わせる「白モノ家電」カラー。前面の操作部も極力シンプルにしてあり、ボタンは電源スイッチのみ。操作は付属のリモコンで行う。使い方をTVに準じて、ユーザーが戸惑わないような配慮も見られる。

テレビのものにならったリモコン。画面にリモコンのどのボタンを押せばよいかのガイドが表示されるのはわかりやすい

テレビにならった操作のリモコン。画面にリモコンのどのボタンを押せばよいかのガイドが表示されるのはわかりやすい

パッケージは白をベースにして、製品メリットを写真で紹介、店頭でのPOP効果を考えたものになっている。ややひとりよがりな表現の多いAV機器とは違って、「わからせよう、わかってもらおう」という努力は評価したい。

『おもいでばこ』のパッケージ。白を基調に写真を多用した「家電仕様」だ(旧製品)

『おもいでばこ』のパッケージ。白を基調に写真を多用した「家電仕様」だ(旧製品)

BUFFALOといえば、PC上級者向けの『玄人志向』という裏ブランドを「ノーサポート」という武器で成功させた企業である。その企業が真逆のことにチャレンジしようとしている点でも注目している。

http://www.kuroutoshikou.com/

このように見てくるとシニア(に限定されているわけではないが)を対象にしたものづくりやマーケティングとしては概ね成功しているのではなかろうか。ウェブサイトを見ると、「シニア」という言葉は前面にはでてこないが、ビジュアルでは必ずシニアの姿が入っている。また、ユーザーの声では「おじいちゃん・おばあちゃん」のコーナーがある。

http://omoidebako.jp/community/

「『おもいでばこ』のある生活」というコンテンツにも68歳男性の事例が見える。

http://omoidebako.jp/community/life/jirei_2.html

サイト全体の作りは階層構造を浅くし、シニアが迷いにくい構造となっている。ページデザインは余白がとられ、読みやすい。ただ、以前より文字が小さくなったのは残念。製品がリニューアルされて機能が増えたとき、製品紹介のページがそのようになりがちなので注意が必要だ。シニアが読みやすい、わかりやすいということは、それ以外の人にもユーザーフレンドリーであるということだ。

動画の活用も効果的。YouTubeに『おもいでばこ』の「製品紹介」「使い方提案」のわかりやすい動画が収められている。「基本操作」や「活用方法」の動画は製品に動画データとして入っていて、取扱説明書をフォローするものとなっている。ここにもおじいちゃん、おばあちゃんと孫たちが登場する。

https://youtu.be/DcRwE4S71O4?t=13

ここまで『おもいでばこ』の取り組みをシニアマーケティングの視点で紹介してきた。『おもいでばこ』は一例だが、これからはハイテクをシニアにわかりやすく、使いやすくして、老後の暮らしを豊かにする「老得」に結びつけることもシニアマーケティングには欠かせないテーマの一つである。

(倉内直也)