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「60歳からの初マイホーム」市場

 ご存じの方も多いかもしれないが、ここ数年、住宅保有率は年々低下している。
 30歳未満、30代、40代、50代ともに持ち家比率は年々下がっている。この背景には景気や人々の生き方の変化があるともいわれている。

 家の購入には「きっかけ」が大きく影響している。結婚、子供の誕生・進学。またローンを組むことができるか否か、就労・収入状況も関係する。
 こうした点から見れば、晩婚、出産の後ろ倒し、非正規雇用者の増加などは、確かに影響しているだろう。

 一方で、仕事を変えることを厭わない人が増加していることも影響しているかもしれない(一か所定住を決めたくない)。「ローンが組めるか否か」より、「ローンを背負いたくない」という気持ちの方が強い傾向が高まっているのではないだろうか。何事も「保有する」より「借りる」「共有する」ことが心地よく、保有による責任を遠ざけたいと思う人が増えていることも考えられる。

各年、総務省統計局「住宅・土地統計調査」より作成

低下する50代以下の持ち家比率
一方で、60歳以上は変わらない

 確かに50代以下の持ち家世帯比率は年々下がっている。特に40代、50代は2008年、2013年、さらに2018年と、ここ10年余で大きく下がってきた。
 一方、60歳以上では2003年から2018年にかけて、特に変化がない。もちろん「60歳以上」なので、70代、80代、それ以上も含まれるわけで、多くの人が持ち家者であれば新しく入る60代の影響は小さくなるが、期間が約15年となると対象世帯の入れ替えも生じる。しかし全体として比率の変化が見受けられない。

 ということは、最終的には60代に入るころには、多くの世帯が持ち家確保に行動していると考えられる。
 相続によって持ち家となる場合も含めて、全体的に、家を持つ年齢が後ろ倒しになっているのではないだろうか。

住宅一次取得における年代の変化は
取得する住まいの種類にも影響?

 以下のグラフは一次取得(住宅取得が初めて)した住宅の種類別に、世帯主の年齢階級を示している。2013年(平成25年)と2023年(令和5年)を比較すると、いずれの住宅種においても60歳代以上が占める割合が上昇していることがわかる。
 ちなみに「住宅の取得」とは、新築、購入(中古住宅 を含む)、譲り受け、相続など、持家を得ることをいう(建て替えは除く)。
 総数で測ることはできないが、中年期までは家を持たない生活をしていても、やはり60歳を超える頃には住宅取得に動く人が今のところ大勢を占めている、と推測できる。

総務省統計局 平成25年度 住宅市場動向調査報告書
および 令和5年度 住宅市場動向調査報告書より作成

60歳以上が取得する住まいに求めることは、
従来の住まいアピールポイントとは異なる

 上の2つのグラフ、2013年と2023年を年代比較すると、中でも中古集合住宅の取得において60歳代以上が占める割合が5%以上、増加していることが目立つ。

 60歳以降で住宅を一次取得する場合、家族構成や収入、その後暮らす期間を考えると、住宅一次取得が多い30代・40代とは住まいに求めることが異なる。結果、選択する住まいの種類も異なるということだろうか。

 一概に集合住宅を述べることはできないが、以下のような特長がメリットとしてあげられる。

・戸建てより価格が抑えられる
・戸建てより駅や商業施設、公的機関に近いなど、利便性を手に入れやすい
・建物全体の維持管理を任せられる
・管理人やセキュリティシステムで安心
・居宅内に階段はない

さらに中古であれば以下のようなことも期待できそうだ。

・より価格が抑えられる
・管理組合が既に活動しているので、運営状況や管理会社の様子を確認できる
・すでにコミュニティが成熟しているので、集合住宅内の文化や雰囲気、傾向を知ることが可能

 子育てが終わり、労働時間が減ってきた60歳代が夫婦二人、あるいは夫婦と働いている子供、あるいは大人一人で高齢期を暮らすためには、中古集合住宅は多くのニーズを満たしていそうではないか。

60歳以上で住まいを初めて取得
これまでの提案とは求められることが変わる

 60代以降の住宅取得時に必要な支援は、これまでの働き世代に向けた提案とは大きく変わる。相続や子世代との同居を前提にしないのであれば以下のように考えられる。(耐震性や防犯性など、基本的な点は除く)

〇ローンは短く
〇家に求めるシーンは老後のみ
 →温熱環境など健康に暮らせる
 →交通など移動に困らない
 →バリアフリーなど家庭内事故を避け、身体に不自由が発生しても動きやすい
 →メンテナンスのしやすさ
 →コミュニティとのつながりをつくりやすい、保ちやすい
 →介護等が必要な時、人の出入りを前提にしている
 →新築ほど長期の居住期間を前提としなくてもいい

 そして、持ち家を持つために必要なことや準備、学びの支援も大切。高齢期に住む家だからこそ重視すべきことは何か、金銭面はどう考えるべきか、購入者の立場や気持ちに寄り添った支援が重要ではないだろうか?

 60歳以上の一次取得者に向けた住まい提案は、今後も増加が見込める一方で、その型は未開拓。何をどう提案することが必要か。そして高齢期に複雑かつ高額な購入において、如何に信頼されるか。
 新しい住まい提案が望まれる。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子