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漸増。シニアの労働参加と時短労働

 内閣府による「令和4年(2022年) 高齢者の健康に関する調査」によれば、65歳以上の男女で、収入のある仕事に就いている人は、28.7%。約3割近くが、仕事の対価を得ていることになる。内閣府では、同様の調査を平成29年(2017年)にも実施しているが、その当時の数字は26.4%。4年間で2.3%と微増ながら、働くシニアは確かに殖え続けている。(図1.)

 一方で「収入のある仕事をしていない」という回答率は、平成29年の73.0%から、令和4年の63.0%へと10%も少なくなっている。どちらかと言えばこの数字の方が、肌感覚に近いものではなかろうか?

 図2.図3.は、男女別年齢階級別に詳細に見たもの(令和4年時点)。男性では65~79歳の年齢階級で一定数が「収入のある仕事」に就いているが、80歳以上になればその割合は極端に低下する。一方女性では、70~74歳で約30%と一定数存在するが、70歳代後半になると約15%と半分になる。ターンニングポイントが、男女間で1年齢階級(5歳刻み)分異なる格好となった。  それはともかく、70~74歳で男性は46.4%、女性は29.7%もの人が「収入のある仕事」に就いているとは、驚きの数字ではある。

 では「収入のある仕事」の勤務形態はどうなのだろうか(図4.)? 65歳以上の男女を通して、最も多いのが「パートタイム・臨時の被雇用者」の38.8%。全体の約40%を占めている。それに次ぐのが、「自営商工サービス業」だが、13.6%に過ぎず、大きく水を開けられている。パート勤務はシニアの働き方のデファクトと言ってもよいだろう。

 

勤務形態の分布を男女別・年齢階級別(令和4年時点)に見ると、男性(図5.)で特徴的なのは、75~79歳の年齢階級で、一つ下の年齢階級に比べ、パート勤務の比率が低く、「会社・団体の役員」や「その他」の比率が高くなっていることだ。70歳代後半の男性では、その就労は、専門化、多様化しているというありさまが垣間見える。
 一方女性(図6.)では、パート勤務の比率が男性よりはるかに高い比率となっている。とくに65~69歳の年齢階級では、60%を超えている。75~79歳の年齢階級では、男性同様「会社・団体の役員」「その他」の比率が高くなっている。   専門化、多様化の傾向は男女を問わず認められる。

 次に勤務時間を見てゆこう。図7.は、平成29年と令和4年の5年間で勤務時間がどのように変化したのかを見たものだ。

 特徴的なのは、時短化が進行していることだ。週に20時間未満の短時間就労者の比率は28.3%から31.3%へと、5年間で3ポイント上昇している。他方、40時間以上といったフルタイム以上の就労時間では、31.2%から23.6%へと7.6%とその減少幅は大きくなっている。

 令和4年の男女別年齢階級別勤務時間を見れば、男性(図8.)では、20時間未満の短時間就労者の比率は、70~74歳で最も高く、男性で唯一30%を超える数字となっている。この傾向は男女で異なり、女性では年齢階級が上がるほど、20時間未満の比率は上昇してくる。

 最後に「仕事をする理由」を見てゆこう。図10.は、平成29年と令和4年を比較して「仕事をする理由」について問うたものだ。
 もとよりわずか5年間で「仕事をする理由」がドラスティックに変化するわけはないが、細かく見ると「収入がほしいから」と答えた比率が、45.0%から41.6%へと3.4%低下しているのがわかる。前述の時短傾向と合わせて考えれば、収入第一と考える傾向は弱くなってきている。

 令和4年時点で、男女別年齢階級別に見れば(図11.図12.)、男女とも「収入がほしいから」の比率は、年齢階級が上がるほど低くなる傾向がある。そして、すべての年齢階級で男性が女性を上回っている。「働くのは体によいから、老化を防ぐから」も同様だ。
 一方、「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから」という回答は、女性が男性を上回っているようである。

 以上、駆け足で概観してきた。もとよりこのデータのみで結論を出すことはできないが、シニアの就労は時短化、二極化(専門的労働と単純労働)が少しずつ進み、そういった労働市場へ参入する高齢者も漸増しているという兆しが見えるのではないかと思う。これは同時に、「数万円の可処分所得の増加が、老後家計を左右する」という識者の見解に近づいている変化なのかもしれない。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 特別顧問 中田典男