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インバウンド需要とシニア就労のマッチングを

 筆者の住む京都では、3月ごろから外国人観光客の姿が増えはじめた。新型コロナ以前、京都では外国人観光客が増えて、公共交通機関の混雑、簡易宿所でのトラブル、地価の高騰となどから「オーバーツーリズム」が深刻な問題となっていた。そこに新型コロナのパンデミックが世界を覆い、世界中の町から人影が消えた。我が国でも2020年4月には緊急事態宣言が発令され、京都も例外ではなく、春の観光シーズンに屈指の人気スポット、清水寺に人いないというありさまであった。

 そして2023年の今年、ようやく新型コロナの脅威がおさまりつつあり、5月8日には、新型コロナの感染症法上の位置づけが2類相当からインフルエンザ並みの5類相当に移行された。この間、飲食業を含む観光地はかつてない危機に直面する。従業員を減らして、何とか持ちこたえたところも少なくない。このあたりの事情はこれまで多く伝えられてきたので十分ご理解いただいていることである。

 インバウンド客によるオーバーツーリズムが問題になる前に、京都市では少子高齢化が進み、「空き家」が問題になっていた。また、伝統的な京町屋が次々に壊されてなくなるということも京都の伝統的な暮らしが失われるということで心配されていた。

 そこにインバウンド客が大挙して押し寄せ、もともとホテルの客室数が足りなかったということもあり、「簡易宿所」「民泊」と呼ばれる宿泊施設が一気に増えた。その時、その簡易宿所の供給減となったのが、問題となっていた空き家であり、補修が必要な古い京町屋であった。簡易宿所、民泊については一部の業者による不十分な管理や宿泊客のマナーの問題でその地域住民から反発もでて、「民泊禁止」を決めた町内も少なくなかった。

観光都市にとってオーバーツーリズムの問題解決は容易ではない

 一方、インバウンド客の宿泊需要増大はこれまで厄介者扱いだった空き家や補修が必要で取り壊される運命にあった古い京町屋にスポットライトを当てることになる。古い京町屋や空き家を利用した簡易宿所、民泊は外国人観光客に近代的なホテルにはない「日本らしさ」を感じる「宿泊体験」として人気となる。SNSやAirbnb(エアビー)の存在もブレイクを後押しした。

 ここからいささか論理が飛躍するのだが、今少しお付き合い願いたい。先日、大学教授による、京都のインバウンド問題の再来についての話題提供を聞いた。バルセロナ、ベニスなどの外国の事例をあげながらの話は大変興味深いものがあり、京都のインバウンド問題を考えるうえで参考になった。

 京都の街を歩いているとやたらに求人の張り紙が目に付く。たいていは観光業(広く飲食も含む)だが、「急募!」の文字がついているものも多い。写真はほんの10分も歩かないうちに目に付いた店頭のアルバイト募集ポスターである。知り合いの宿泊業者は部屋が空いているのに人手が足らず、やむなく予約を断っていると嘆く。高齢者でもいいのかと問うと「猫の手より人の手、高齢者だって大歓迎」と真顔で言う。

京都の町中、10分も歩かないうちに、いくつもの求人ポスターが見つかる

 少子高齢化で若年労働者は減り続ける。文部科学省の令和3年度学校基本調査によると、大学生の数は2022年に過去最多の263万人を記録したが、同時に小学生は662万人と過去最少となった。つまり、大学生は今がピークでこれからは減り続ける。学生アルバイトで回している観光産業の人手不足は今後、ますます厳しくなることが予想される。

 そうした中で、コロナ前のインバウンド増加で問題となっていた空き家や、補修が必要な古い京町屋に新たなニーズが生まれたように、今回のインバウンドによる人手不足解決のカギは「70歳を超えて働くシニア」にあるのではないかと考えている。

 すでにシニアを人材として積極的に採用している日本マクドナルドでは、最高年齢は93歳だそうである(2021年7月現在)。
https://www.mcdonalds.co.jp/campaign/thankyou50th/history/ichiban/18/

 シニアの就業率は年々高まっている。総務省の「労働力調査」によると2022年に65~69歳で働いているシニアは50.8%で半分を超えている。70~74歳でも33.5%と3人に1人以上である。75歳以上になるとさすがに11%になるが、それでも年々割合は増えている。今後の健康寿命の延びを考えると、さらにシニアの就労率、とくに70歳以上のシニアの就労率が一番伸びそうである。70歳といえば、つい最近までは就労を終え、悠々自適を目指す年齢だった。

 しかし、今では定年延長で65歳、70歳までは会社に残り、その後も元気なうちは働きたいというシニアが増えている。こうしたシニアがインバウンド需要回復で生まれた人手不足に悩む観光産業(広い意味で飲食も含む)の働き手として注目したい。その理由は以下のようなことが考えられる。もちろん個人差はあるにしても…。

・就労に当たって、その技術を習得するのにあまり時間を要しない。
・比較的軽作業が多く、肉体的にはハンディのある高齢者でも対応しやすい。
・年金などの基礎収入があるので、フルタイムで働く必要がない。つまり、必要な時間だけ働いてもらえる
・これまでの人生経験が生きる(とくに接客業の場合)
・現役時代に習得した語学力が活かせる
・子育て、家族サービスがなく、仕事が繁忙になる土曜、日曜も関係なく働ける

 若い世代から見れば、「深夜の飲食チェーンに入ったとき自分の親みたいな年齢の人が働いてたりするの見ると、この国間違ってるわって思う」かもしれない。しかし、自身がその年代なってみるとわかる。年をとってから働くことは決してつらいことではない。人は忙しい時に「何もしないで済む」時間が欲しい。しかし「何もしないで済む」時間ばかりだと「忙しい時」が欲しくなるのである。

 さらにシニアが働くことは、個人的にも、社会的にもメリットが大きい。以前、「シマ研の本棚」で紹介した、坂本貴志氏の「本当の定年後 『小さな仕事』が日本社会を救う」に書かれている多くの事実がそれを物語っている。
https://nspc.jp/senior/archives/17047/

 これからますます人手が足りなくなる業界と、これからますます働きたい人が増える世代がある。就労のマッチングサービスは若い世代が多く、シニアに向けてのそれは、業種は偏っている、働き方のバリエーションが少ないなどシニアの実情を反映していない。「働きたい」と「働かされる」は違う。シニアになって「働かされる」のはつらい。「働きたい」シニアに向けて、観光業界とシニアがWIN・WINの就労マッチングサービスが待たれる。

      株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也