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根づくに道遠し。「有償ボランティア」という働き方

 いわゆるボランティア活動が対価を求めない無償の行為であり、場合によっては実費まで負担する(俗にいう手弁当)のに対し、一定の謝礼金を受け取る活動を「有償ボランティア」と呼ぶ。1980年頃から自然発生的に広がりつつある言葉だが、謝礼金と報酬を区別することが難しいこともあり、決して普及しているとは言えない。

 とは言え、さまざまな生活支援サービスがすべて行政で賄うことはできないし、今後ますます増加する高齢者支援サービスを温情に頼ることにも限界がある。そんな中で、元気な定年退職者が、そうでない高齢者を支えるために、若干のインセンティブを設けることは、意義のないことではない。

 では当の高齢者はボランティア活動に対するインセンティブにどのような考え方を抱いているのだろうか? 「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」(内閣府)では、対象を「地域のための奉仕活動」に限定はしているが、「有償ボランティア」に関する意識を見える化している。本稿ではその一端をご紹介したい。

 上図1.は、「地域のための奉仕活動における報酬についての考え」を3つの選択肢の中から1つを選んで回答したものだ。グラフを見て真っ先に分かるのが「交通費などの実費に加えて謝礼の意味で日当ぐらいの報酬は受けてもよい」という有償ボランティアの肯定に近い意見は、わずかに10%程度に留まっていることだ。最も支持された意見は「交通費などの実費ぐらいは受けてもよい」で42.8%。「奉仕活動だから謝礼や報酬などは受けるべきではない」という純粋な手弁当派も35.2%に上っている。日本の高齢者にとって地域への奉仕活動は、利得を伴ってはならないものであるようだ。 

 ただ、「ボランティアはあくまで無償の行為」と考える人の割合が低下してきていることも明らかになった。2013年では43.3%、それが2021年では35.2%へと数字を下げている。報酬に関する考え方も徐々に理想から現実へ徐々にシフトしてきているのだろう。     

 ボランティアにおける報酬について、男女間では考え方に違いがあるのだろうか(上図2.)? 結論から言えば男女間でほとんど差は認められなかった。ただ、「日当ぐらいの報酬は受けてもよい」と考える人の割合は男性で高く、女性の2倍に近づく値。「Time is money」の観念が男性により染みついていることの現れであろうか?

 2021年時点で、年齢階級別に細かく「報酬についての考え方」を見てゆこう。上図図3.は男性、図4.は女性の結果。男女合わせて10のクラスターの中で、「謝礼や報酬は受けるべきではない」と考える人の割合が最も高かったのが、80歳以上の男性の42.9%。男性では、年齢階級が上がるにつれて、「受けるべきではない」派の割合が髙くなっている。

 一方、「日当ぐらいの報酬は受けてもよい」では、65~69歳男性の19.3%。まだまだ少数派ではあるが、このクラスターでは、5人に1人が「報酬を受けてもよい」と考えており、無視できない比率になってきている。

 有償ボランティアは超高齢化社会にとって必要不可欠な存在になってくるのは必定。ボランティアを「無償の尊い行為」と美化するだけではなく、問題解決策の一つとして、課題化してゆくことが大切ではないかと思う。

   ㈱日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男