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治療アプリの成果から考える「メッセージ」の威力

 シニアの健康維持に、「食事」「運動」「社会生活」が欠かせない、という話はこれまでにも取り上げてきた(今の健康支援アプリに欠けているのは、「社会とのつながり」デジタルがシニアの社会生活を支え、その未来をよりよく)。
 これらの提案に共通する課題は、継続性。
 食事にしても、運動にしても、単発的取り組みで健康を維持できるわけではない。高齢者市場には、「これを使えば…」「これを食べれば…」「これを飲めば…」「これをすれば…」と様々な提案があるが、たいていは、健康の改善・維持には続けて利用することを前提としている。
 加齢に伴い日々生じる変化に対して、手立てもまた日々の積み重ねは道理である。
 しかし継続は多くの人にとって、困難。もちろん高齢者においても同様だ。
 継続を支えるひとつは一緒に取り組む仲間や声をかけ合う交流であり、「社会生活」だと考えられるが、具体的に何があれば、どんな社会生活があれば、続けられるのだろう?
 ここで治療アプリがヒントになるのではないかと考える。

習慣を変えるために、処方される治療アプリ

 先日、「CureApp HT高血圧治療補助アプリ」が保険適用となった。先行している禁煙治療用アプリに続き、健康保険の対象となる。
 高血圧を含む生活習慣病は加齢や遺伝体質が影響する以外に、食生活、運動、飲酒、喫煙などが関与していると言われている。望ましくない生活習慣が状態を引き起こすことから、生活習慣病と名付けられている。日々の自己管理の積み重ねが大切と患者の多くも知ってはいるが、この「自己管理」「継続」が難しく、なかなか行動変容まで続けられない。
 生活習慣病は放っておくと、動脈硬化等を起こす。しかし動脈硬化が起きても今すぐ生活に不具合がでていない人も多く、そのままにしておくと脳血管障害や心筋梗塞など深刻な疾病に繋がる。

【生活習慣病の治療継続の難しさ】
〇食生活、飲酒、運動、睡眠、ストレスなど生活習慣を見直すことで改善が見込める
〇生活習慣改善には、個人の気持ちと努力が大切
〇一人で取り組むのが難しい
一方、診察室では…
〇医師も看護師もいつも忙しそう
〇短時間診察で、質問をしづらい
〇助言されたことをできていないと報告するのは、気が重い

 「自己管理」と「継続」には、医療人のサポートが欠かせない。医師からのアドバイスや励ましが日々の努力に繋がる筈だが、いつも身近にいて応援してくれるわけではない。普段は自分ひとりで取り組まなければならない。医療人に相談することも、アドバイスをこまめに得ることも困難だ。
 そこで薬事承認を得た治療アプリが役に立つ。

治療アプリを活用すると、
診察と診察の間も一人じゃない
 患者は高血圧治療補助アプリを医師から処方されたら、自分のスマホにインストール。血圧測定値、食事や運動についてアプリに記録。疾患に関する知識、患者個々人に最適と思われる食事や運動、睡眠などの情報がアプリに配信される。アプリ内の看護師キャラクターとの会話から、高血圧に関する学びや減塩・体重管理の取り組みが進むという。医師は医師用アプリで経過を看ることができ、診察時に新たな提案を行える。

 患者は食事や運動の結果である血圧の推移をグラフでわかりやすく確認でき、血圧を下げる行動に納得、さらに行動が続くという認知行動療法につながる。アプリの適時適切な指示に沿った実践から、目標達成を患者と一緒に喜ぶメッセージが届き、患者の気持ちはより前向きに向かう。行動変容を起す設計によって、治療が進む。

『3スターファーマシストを目指せ』岡田浩著
京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室(株)コンパス・プロジェクト
参考に作成

行動を変えることは決して簡単ではない。行ったり来たりを繰り返す、行動変容モデル。成功には、支援・応援が必要。

 医師や看護師と接していなくても、一人で取り組んでいるような孤独感を和らげ、生活習慣の修正が進む。「CureApp HT」は治験でも成果が出ており、保険適用になっている。
 下のグラフは査読付きの心臓学の医学ジャーナル『European Heart Journal』に掲載された、同アプリ論文のグラフ。「CureApp HT」を使用した群は、使用していない群より血圧が下がっている。

『ヨーロピアンハートジャーナル European Heart Journal』第42巻、40号、2021年10月21日

 グラフによる変化の見える化は達成感を与え、次も頑張ろうと思う原動力になる。中でも継続を支え、行動変容に至っている理由は、看護師キャラクターからの声がけではないだろうか。
 診察と診察の間の孤独は、変化を自分の目で確認するだけでは埋められない。
 「CureApp HT」の看護師キャラクターは取り組みについて振り返りを促し、褒めるのではなく一緒に喜ぶ。患者の伴走者であることを大事に、上下関係を感じさせる「褒め」より「一緒に喜ぶコミュニケーション」が、同商品で工夫したポイントという。 「看護師キャラクター」という信頼感を得る様相ながら、上下関係を感じさせない伴奏者。そこには丁寧な言葉の選出やキャラクターやコミュニケーション設計が、練られているのではないだろうか。

高齢者への商材提案には、
メッセージ設計も重要

 高齢者が適切な食事や運動を続けるためにこそ、この伴奏者目線による一緒に喜ぶ、応援する、「メッセージ」が重要ではないだろうか。
 適切な食事や運動の習慣化にはたいていの場合、それ相応の努力や意識の変化、行動変容が必要だ。ひとり孤独に続けるのは、なかなか難しい。仲間が必要だが、そもそも高齢になるに従い社会生活は減少する。(これまでにも「孤立を防ぎ、社会活動を維持するために」「デジタルがシニアの社会生活を支え、その未来をよりよく」でお伝えしてきた。)

 面倒な課題にひとり取り組む困難さは、十分に想像できる。
 高齢になるに従い習慣化はより困難と想像しうる、以下のようなデータもある。
健康維持に欠かせない要素のひとつ、健康な食習慣を妨げるものは何なのか?

 20代・30代・40代・50代では仕事や外食、経済的余裕や面倒くささが大きな理由である一方、60代では44%、70歳以上では53%が、「特にない」と答えている。
 つまり物理的理由や面倒くさいといった感覚の自覚はなく、「なんでだかできない/なんとなくできない」という高齢者が半数以上占めている。

 確かに高齢者は健康への希求度が高い。しかしこうした傾向から推察するに、どんなに良い情報やサービスを提供したり、商品を届けたりしても、習慣化には支援が必要なのではないだろうか。どんな商材も続けてもらわなければ効果を上げることは期待できず、効果を出せなければ継続利用も難しい。

 実行すれば効果が得られる商材を開発するだけでは、本当の効果をもたらすのは難しい。高齢者に届く言葉、メッセージを適時適切に届けて、同じ目線で応援する仕組みを伴う商材提案こそが有効なのではないだろうか。

シニアマーケティング研究室 石山温子