巣ごもり消費の代表選手のように引き合いに出されるのが書籍。その消費状況は様変わりしたのだろうか?(図13.)※注:ここで言う書籍には電子書籍は含まれない。
YAHOOの調べによると、Yahoo!ショッピングの第一階層カテゴリー別で、増加した消費支出品目のトップが「健康・ダイエット」のカテゴリー。それに次いで「本・雑誌・コミック」が第2位にノミネートされた。その増加率は2.02倍と報じられている。
その結果を裏打ちするように、家計消費状況調査でも、30~40歳代は、前年同月比200%以上を記録し、50~60歳代でも200%に程近い数字となっている。巣ごもり消費が抬頭する中にあって、活字へのニーズは依然として根強い。
2018年以降の2年間、3回に及ぶ比較を見たのが、図13´。60歳代に注目してみると、巷間言われる「活字離れ」が進む中、今年の5月には「復権」を果たしている。果たしてこれが、一時的な現象なのかどうかは現時点ではわからないが、足元を固める需要は、今後も続くと予測され、その中で、活字も一定のプレゼンスを発揮するであろうことは、想像に難くない。
書籍と同様に巣ごもり消費の担い手と見られる、音楽・映像ソフト、PC用ソフト、ゲームソフトはどうだろう?(図14.)
同じく、YAHOOの調べによると、DVD・映像ソフトは、147%と伸長しているものの、CD・音楽ソフト・チケットは65%と明暗を分けた。伸びている映像ソフト等にしても、書籍ほど際立った躍進ぶりは認められない。
ことシニア層に限ってみると、60歳代、80歳以上で2019年5月に一旦落ち込んだ消費が2020年5月には回復している。だが、V字回復と言えるほどの力強さがあるわけではない。シニア層の今後のトレンドとして定着するかどうかは、いささか疑問符を付けざるを得ない。
最後に旅行関連費用の変化を見ることにしよう(図15.)。大方の想像する通りの惨状である。業界関係者の方々には、本当にお気の毒としか申し上げる言葉もない。
旅行関連費用は長らく、アクティブシニアの消費の旗手であり続けた。60歳代が立役者となって需要を盛り上げ続けた。それが一気に崩壊の危機に直面したのが、今回の奇禍であった。
ところが、60歳代の旅行需要には、近年陰りが見え始めていたのも、一面の事実ではある(図15´)。働きたい人、働かざるを得ない人を含めたワーキングシニアの増加につれて、可処分時間を奪い合う旅行を控える傾向が少しづつ見えてきたからだ。時間はかかるにせよ、いずれは回復するだろうが、基調に流れるこのトレンドが失われることはないだろう。
以上、5回にわたって拙文を連ねてきたが、いくつかのポイントが見えてきたような気がする。3つを挙げて本稿を締めくくることとしたい。
①シニアのデジタル化が急速に進んでいる
家計消費状況調査のほとんどの品目で、シニアのネット支出は前年同月を上回っていた。今後、ITリテラシーを常識として身に着けた世代がシニアに参入することを考えれば、デジタルシフトは急いでも急ぎ足りない。
②一過性か継続トレンドかを見極める必要性がある
今回の奇禍はどうやら「のど元過ぎれば熱さ忘れる」という類ではなさそうだ。ことに最後の逃げ切り組と称される、今のシニア層は存外保守的でもある。基調に流れるものは何か? 今以上に見極める必要がある。
③地元消費・足元消費がシニアのニーズの中心になる
②で指摘した、基調に流れるものの代表選手が、地元・足元消費。最早「時間をつぶす、お金を費やす」という観念はシニアにはない。地に足の着いた上質の消費がこれからのシニアのニュー・ノーマルになる。(了)
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年10月30日
2024年9月25日
2024年8月21日