シニアが即戦力の労働力として期待されてから久しい。では、それを受けて、実際の有業率や有業者の実数はどのように変化してきているのか? 2012年(平成24年)、2017年(平成29年)の就業構造基本調査の結果を引き比べてみることで、シニアの就業の実態をつぶさに見てゆくことにしたい。
上図1.は、15歳~79歳までの各年齢階級で5年間の有業率の変化をグラフ化したものだ。有業率とは人口に占める有業者の割合。有業者とは、「ふだん収入を得ることを目的として仕事をしていて、調査日以降もしていくことになっている者」及び「仕事は持っているが現在は休んでいる者」を意味する。(「平成29年就業構造基本調査」付2「用語の解説」より)
月末1週間の就業・不就業の状態を把握する、国勢調査や労働力調査に対し、よりふだんに近い状態を把握する概念だと言えよう。
2012~2017年の5年間は、5歳刻みの全年齢階級で、有業率がアップしている。均せば3%程度の増加率なのだが、特筆すべきは、60~74歳の3つの年齢階級だ。60~64歳では、5年という比較的短期のスパンで、なんと7.5%も増加していて、これは全年齢階級中トップの位置を占めている。
つづく65~69歳も6.5%増加して、栄えある第2位。60歳代でワンツー・フィニッシュを占めた。階級が一つ上がった70~74歳も60歳代ほどではないが、それなりに健闘し、4.3%の増加を記録した。全年齢階級中3位の数字である。
次に、男女別に有業率の変化を追ってゆこう。まずは男性から。(図2.)
全年齢階級において5年間で増加しているのは男女計の結果と同じだが、25歳~59歳間では、その伸びはごくわずかだ。目に見えて伸びているのはここでもシニア世代。60~64歳では7.2%、65~69歳では7.3%、70~74歳に至っても5.1%の伸びを示している。
一方女性では、各年齢階級で万遍なく一定数の伸びを示していることが特徴的だ。比較的若年層と言える、25歳~44歳に至る各年齢階級でも、概ね6%内外の伸び率を記録している。
全年齢階級の中でとくに注目したいのが、60~64歳の有業率の伸び。2012年には47.3%だった有業率が、2017年には55.1%にまで数字を上げ、7.8%という急速な伸びを示しているのだ。この数字は男性の7.2%を上回っている。つまり、60歳代前半の有業率の伸びは、女性に負うところが些か多いということだ。 60歳代前半女性(男性も)の突出した伸びの理由は何だろう?
2012~2017年の間のエポックとしては、「高年齢者雇用安定法の改正」が挙げられる。(2013年4月1日から施行) 改正の主なポイントは、「継続雇用制度の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止」等だが、法改正だけが有業率の伸びを後押ししているわけではないだろう。そこにはもう少し長いレンジのトレンドが影響していると筆者は考える。
その答のひとつが、「貯蓄がない」高齢者の増加である。2011年の「 高齢者の経済生活に関する意識調査 」(60歳以上の男女対象:内閣府)では、「貯蓄がない人」はわずかに2.8%だった。それが5年後の「 高齢者の経済・生活環境に関する意識調査 」 (60歳以上の男女対象:内閣府)になると22.7%にまで増加している。つまり、従来は資産形成期だった50歳代で充分な資産形成ができなかったことの証左でもあろう。そのしわ寄せが若干ながら女性に重くのしかかってきている。ネガティブな考え方をすれば、このように言えるかもしれない。 (②に続く)
㈱日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年2月8日
2023年8月10日
2023年6月12日