(中から続く)
図9.は「後片付けの手間が省ける」という調理(済み)食品のメリットを支持した率。
男女間で完全に考え方に差が出た設問・回答であり、大方の想像通り、男性に支持する傾向が強い。有態に言えば、男性の物ぐさぶりが目立っている。一方、後片付けまで視野に入れて商品を選択するというところに、あえて誉めればのレベルではあるが、抜け目のない洞察力を感じないわけではない。
男性の支持率が高いのは、20~30歳代、40~50歳代の現役世代。それぞれ女性の1.76倍、1.65倍と女性をかなり大きく上回っている。
ところが、60歳以上では、それほど極端な男女間の違いは認められない。60歳以上の男性は18%が支持。対する女性は15%の支持とその差は1.2倍程度に落ち着いている。前捌きを問う設問の「調理の手間が省ける」は、60歳以上男女ともそこそこ高率だった。(60歳以上男性:57%、同女性59%) この数値に比べれば、60歳以上男性の低下幅は39%、同女性の低下幅は44%ということになる。乱暴に総括すれば、シニア層では「後片付けの手間」は、大きな選択要因にはならないということだ。
図10.は「自分で作るより価格が安い」ことを選択理由に挙げた割合。コストパフォーマンスを評価したかどうかということだ。
この選択肢の支持率は、他の設問に比べて、どの男女年齢層グループもひとしなみに低い。が、男女とも年齢層が高くなるにつれて、支持率が高くなるという傾向は窺える。
この要因の一つには、とくに高齢者層で1世帯当たりの家族人員が少ないことも与っているだろう。高齢者がいる世帯を世帯類型別にみれば、2015年現在で、単独世帯と夫婦のみ世帯を合算して、57.8%にも上る(厚生労働省「国民生活基礎調査」)。1980年ではわずか26.9%だったから2倍以上のパーセンテージになっている。もっとも、実数の伸びは、2倍や3倍ではきかない。
一般に家庭で調理する場合、家族数が多いと一人あたりの食費は逓減する。「一人口は食えないが二人口は食える」と言うわけだ。家族数が多い場合、調理(済み)食品なら、単純に家族数と食費は比例し、逓減効果はあまり現れない。
単独世帯、二人世帯が過半数を占める高齢者世帯では、逆に、費用対効果感は失われないのであろう。
選択理由の最後は「食事の品数を増やしたい」。(図11.)
補助食材として調理(済み)食品を補うことにより、食卓を豊かにし、栄養のバランスも考えようという、前向き志向の商品選択だ。今後、この理由による調理(済み)食品の購入はもっと増えてゆく気がする。
これには、女性が男性を大きく上回り、賛意を示した。20歳代から60歳以上まで、多少の凸凹はあるものの、おしなべて20%以上の支持を集めた。
以上、3回にわたって調理(済み)食品の選択理由をつぶさにみてきた。もちろん、「調理する手間が省ける」あるいは「調理する時間がない」という存在の根幹はゆるがせにできないが、そのなかでも、
●自分が作れないものが食べられる
●少量で買える
●食事の品数を増やしたい
といった、新しい調理(済み)食品の効用を発見する動きが、垣間見えてきたように思う。そして、そのポジティブシンキングは、60歳以上により象徴的に窺える傾向であることも、データの深掘りを通じて少しは明らかになってきた。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2023年9月5日
2023年6月28日
2022年8月26日