2017年9月11日に開催された「人生100年時代構想会議」で驚く数字が紹介された。「2007年に日本で生まれた子どもの107歳まで生きる確率」が50%もあるという。同会議の有識者議員で、組織論、人材論の世界的権威、リンダ・グラットン氏の著書「ライフシフト」で引用されている研究が出典元。このような超長寿社会にあっては人材の活力をいかに維持できるかが社会の在り方を変えてゆく。
その意味でも「人生100年時代構想会議」の具体的な4つのテーマの一つが雇用の分野から抽出されていることは、至極当然のこととして肯える。果たしてそれは、「新卒一括採用だけではない企業の人材採用の多元化、そして多様な形の高齢者雇用」という文言に収斂されている。
グラットン氏による同会議の資料には、これまでの3ステージの人生(教育→仕事→引退)ではなく、マルチステージの人生が提唱されている。マルチステージの選択肢の一つに上げられているのが「ポートフォリオ型」。即ち、「有給の仕事とざまざまな活動の組合せ」だ。これはこれからのシニアの労働・雇用を考える上で、非常に示唆に富んでいる。
果たして、シニアの労働・雇用は、このような柔軟で変化に富む方向に向かおうとしているのか? それともそれを許さないしがらみが、日本において厳然と存在しているのか? 本アーティクルでは「働く意欲とその受け皿」を中心に、比較的新しいデータを繙きながら、考察を試みてみたい。
まずは、「働くシニア」の人口規模と時系列変化を概観しておこう。(図1.)
60歳以上を労働市場におけるシニア層と見れば、2016年現在、1,286万人。20年前の1996万人から439万人の増加規模になる。この増加幅は、アイルランド一国の人口規模に比肩する。「働くシニア」はそのプレゼンスを急激に高めていると言ってよい。
年齢幅ごとに増加率をみると、60~64歳では130.4%と比較的緩やかだが、65~69歳では174.0%と増加率が著しく高い。ことに、ここ10年間での伸びが顕著だ。
70歳以上のゾーンも、1996年比166.8%と旺盛な増加率を示している。
一方で、「働きたいが働いていない」シニア層も一定数存在する。
2012年の些か古いデータで恐縮だが、こういった潜在就業希望者は、70~74歳という高年齢レンジで最も多くなっている。「働いてない」事情についてはわからないが、働く意欲のある無業者が70歳代前半で4人に1人居る。この需給のミスマッチは些かもったいない。
図3.は、「シニア層が今後の再就職で希望する雇用形態」を尋ねたもの。(設問の正しい形は「現在就業中で再就職する際に希望する労働条件」)
5歳幅の3つの年齢層すべてで、非正規雇用を望む声が圧倒的に多かった。とくに60歳代で8割近くが非正規雇用を望んでいる。
同じ調査で希望する月収を尋ねた設問では、65~69歳・70~74歳で「10万円未満」と答えた人が、それぞれ、58%・59%という結果も出た。低年収を希望する人は、6割近くを占めるメジャーなのだ。
これを見る限り、労働は生活の「幹」ではなく、「枝」であるという価値観が垣間見える。明言はできないが、「有給の仕事とさまざまな活動の組合せ」というポートフォリオ型マルチステージ人生へ一歩踏み出し始めたとも見える。(下に続く)
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年2月8日
2023年8月10日
2023年6月12日