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「シニアが牽引する旅行市場」を疑ってみる(上)

今年(2017年)の4月28日、観光庁がリリースした「平成28年(2016年)旅行・観光消費動向調査」によれば、日本人国内旅行消費額は、20兆9,547億円。前年比で2.7%の増加となった。うち、宿泊旅行は16兆335億円で、前年比1.4%増。日帰り旅行は、4兆9,212億円で、前年比の7.1%増と、日帰り旅行の好調ぶりが明らかになった。
一方延べ旅行者数は6億4,108万人と前年比6.0%増。宿泊旅行は3億2,566万人(前年比4.0%増)、日帰り旅行は3億1,万人(前年比8.1%増)という結果になった。

市場全体としては堅調に推移していると言えるものの、日帰り旅行増加に象徴される一件あたりの旅行費用は小型化しているというのが、概況的な見方として正しいだろう。

その中でシニアはどの程度のマーケットサイズを保持できているのだろうか?
「旅行消費=シニア」と連想が直結するほど、両者の親和性はイメージ的には高い。豪華客船の旅や最近話題の超豪華列車の旅を思い浮かべる方も多いだろう。

本アーティクルでは、マクロデータから旅行におけるシニアのプレゼンスを冷静に総括する。果たして、イメージ通りの圧倒的なプレゼンスを発揮するのか、意外にそうでもないのか? 少し意地悪いが、若干懐疑的な目で見て行きたい。

冒頭に引用した観光庁のデータは、旅行の中に「帰省・知人訪問等」、「出張・業務」が含まれているが、純粋に趣味・娯楽の範疇に入る「観光・レクリエーション」目的の数字だけを追うことにした。以下、掲載するグラフ数字には、「帰省・知人訪問等」、「出張・業務」は含まれていないことを始めにお含みいただきたい。

図1.は観光庁の最新調査結果から、年間旅行消費額を年代別に抽出してグラフ化したもの。
これを見て真っ先にイメージするのは、「宿泊旅行においては60代が全体を牽引している」という事実である。このグラフを見る限り、「シニア=旅行」という定説の確証を得た気になる。もっとも、日帰り旅行では、60代は全年代中トップではあるものの、取り立てて突出しているという感じではない。

同じシニア層でも、70代以上では消費額は激減していることを考え合わせれば、旅行消費が沸騰するのは、一部の世代、そしてその中のある一定の年代に限定されるといってもあながち間違いとは言えないだろう。

見方を変えて、旅行消費額の年代別構成比を見れば、さらに明らかになる。(図2.)
消費額の実数値で象徴的だった、60代の宿泊旅行費の突出が、構成比のグラフでは、ワン・オブ・ゼムに埋もれてしまっている。「まあ、少し多いか」というぐらいの印象に変わってしまうのだ。

60代単独ではなく、シニア世代を広く60代以上と捉え、その全体で見ればどうだろうか?

全国の60歳以上人口は、約33%(※)。旅行消費額が人口ボリュームにスライドして考えれば、60歳以上の消費額は全体の33%になる。宿泊旅行の60歳以上構成比は、34.1%、日帰りでは35.1%である。さすがに、人口構成を少しだけ上回っているものの市場を牽引していると言えるほど、量感のあるマーケットサイズではないことが読み取れる。(続く)

(※)平成27年国勢調査

日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男