図11.の「バスや電車でつかまらずに立てるか」は、「階段の昇降」と同じく、階級間でバラつきのある結果となった。とくに男女差が大きく、いずれの年次を取り上げても、65~69歳女性の高位達成度合いは、70~74歳男性を5~8ポイント下回っている。
各階級の中で、際立っているのが75~79歳男女の伸び。10年間で概ね10ポイント以上という上昇ぶりである。10人に1人は「つかまり立ちしなくてもよくなった!」ということだから、とても大きな進歩だと言える。
同一年齢集団でみれば、女性の70~74歳→75~79歳間の落ち込みが大きく、10%を超えている。
「衣服の着脱」に関する項目(図12.)では、階級間で顕著な差は認められなかった。ADL項目としては、比較的難易度の低い動作であることもあり、10年間でいずれの階級も微増・微減・横ばいという、変化に乏しい結果となった。
数値はわずかではあるものの、6階級中5階級までが、22年度からポイントを低下させている。75~79歳女性のみが、ポイントを上昇させているが、それとて、2.6%に過ぎない。
図13.も同じく「衣服の着脱」に関するADL項目だが、「シャツの前ボタンを掛けたり外したりできる」という動作自体のハードルがそもそも高く、「立ったままの衣服の着脱」に比べずいぶん達成度は低い。
しかしながら、アスペクトに大きな異なりはなく、10年間でいずれの階級も微増・微減・横ばいという傾向には変わりがない。
最後に、「布団の上げ下ろし」に関するADL項目を見て行こう。(図14.)
筋力がモノをいう項目だけあって、男女差が著しい。直近のデータでは、65~69歳の女性でも、75~79歳の男性の達成度合いに5ポイントも及ばない。
10年間の伸びを見れば、概ね微増もしくは微減という推移をたどっているが、その中にあって、75~79歳の男女で5年前に比べて、大きな伸びを示している。
以上、3回にわたって駆け足でデータを概観してきたが、その中でいくつか特徴的な傾向も見えてきた。以下、箇条書きで簡単に整理してみたい。
1.10年の短期スパンでは、社会の変化ほど肉体がドラスティックに変化するわけではない。従って、ADLの達成度合の向上も当然緩やかではあるが、確実に伸びているADL項目が大半である。
2.しかしながら、ここ10年で一律に向上しているわけではない。17年度から22年度の5年間の伸びは総じて旺盛だが、22年度からの5年間は概ね、伸びが鈍化している。ADL項目によっては、むしろ低下しているものも散見される。
3.年齢層別に見れば、ここ10年間で伸長著しいのが、75~79歳の男女である。とくに筋力やバランス感覚が問われるAD項目で伸びが際立つ。逆に65~69歳の男女は、27年度の達成度合いが22年度のそれを下回っていることも多い。
4.同一年齢集団の推移で見ると、70代後半にかかって、ADL達成度合いが急激に低下するケースが多い。女性の場合、70代前半に係る折にそのようなキャズムが見受けられる。
5.転倒事故から、寝たきりにも直結しかねない「階段の昇降」や「バスや電車でのつかまり立ち」では、年齢層別、性別の乖離がとくに大きい。
制度設計としては、「何歳から高齢者」という定義は必要だろう。ただ、男女差・個人差の乖離の大きな年齢層であり、あまり上方に設定するのはいかがなものかと個人的には思う。その点では75歳は少し年齢が高いような気がする。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年5月22日
2023年11月14日
2023年7月26日