(上から続く)
雇用・労働の最大の関心事である賃金について、雇用者側は、どのように考えているのだろう?
図3.は高齢労働者賃金に関する代表的な8つの考え方を列挙し、考え方への賛否を問うたものだ。
支持率の高い考え方、上位3つには以下のような意見が挙がった。
1位:定年後の高年齢者も、 評価制度に基づき賃金を決めるのが望ましい
2位:高齢期だけでなく若年期も含めた 全体としての賃金制度として考えるべき
3位:定年後でも仕事が同じなら原則、賃金は下げるべきではない
上位2項目が他を圧倒して高い賛意を得ている。両者に共通しているのは、高齢者を特別扱いしないという考え方だ。評価制度という共通の物差しを持ち、全体の中の高齢者部分という、総体を捕えた上での制度設計を構築すべきだということだ。至極まっとうな考え方ではある。
30%前後で、ほぼ拮抗している3位以降7位までの考え方の中には、雇用側の本音が見え隠れするものもチラホラ出てくる。
4位:賃金の原資が限られており、高年齢者の賃金が高いままだと 現役世代の賃金が下がるので、高年齢者の賃金を下げても構わない
7位:雇用確保のために再雇用するのだから、 賃金が低下しても構わない
そういった雇用側の本音(?)が色濃く出ているのが、上記の図4.である。
65歳以降も働く際の該当基準(平たく言えば「条件」)を問うたものだが、上位ワン・ツーの「働く意思」「健康」は誰もが肯える。
この2つだけなら、非常にハッピーな雇用関係が想像できるのだが、3位には「衣の下の鎧」が見え隠れしてきている。「会社が提示する労働条件(賃金の低下を含む)に合意できること」という雇用条件がそれだ。スキルレベルやリーダーシップ以上にこの項目が多くの雇用担当者に支持されていると考えると些か不気味ではある。
65歳以上の高齢者が就いている仕事の種別では「専門的・技術的な仕事」が最も多い(図5.)。マネジメントがそれに次ぐ。
出典元の資料に拠れば、「専門的なスキルを持っている者は、年齢が高くなっても、そのスキルの特殊性ゆえに企業に雇用される確率が高いことが窺われる」という分析になる。尚且つ、「専門的・技術的な仕事」は本人の満足度も高く、貢献度も高いと自負できる、ことは容易に想像できる。
加えて、現在のシニアは、概ね年金や退職金など、有利な制度設計に手厚く保護されている。
「専門的・技術的な仕事」がどこまでの範囲を指すのかは定かではないが、「フルタイムで働く必要はないし、自身の自由時間もしっかり確保したい」と考えるなら、そこにWIN・WINの関係が生じても不思議ではない。
但し、現在のWIN・WINの関係は、ある一定期間の微妙なバランスの上に成り立っている。高齢者に有利な制度設計はこの先、望めないからである。
そうなれば、シニア雇用の新しいパラダイムが早晩、求められてくるのは間違いない。(下に続く)
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年2月8日
2023年8月10日
2023年6月12日