2013年6月5日
「シニアマーケット」「団塊シニア」…これはマーケターの希望、あるいは必要から生まれた「青い鳥」だったのかもしれない。
さまざまなシニア向けの取り組みが失敗し、いまでは「シニアを一括りにしてはいけない」がマーケターの常識になった。
ただ、どんなシニアも逃れられないのは「加齢」である。なかでも『脳力』の衰えを実感しているシニアは多い。
ある年齢から急に「記憶」の瞬発力が落ちてくる。よく言われる「もの忘れ」=脳科学での「TOT(Tip of the tongue)現象」とはちょっと違う。これは、老眼の辛さや苛立ちと同じで、我が身がそうならないと、なかなか実感できない(知識としてわかっていても)。
例えば電話番号。電話番号を覚える、と言うことではない。メモを見ながら、携帯電話の番号を打つとき、以前なら、2度、メモを見れば打てたものが、何度も見ないと打てなくなる。一度に保持できる情報の量が減っているのである。
日常的な出来事や学習して覚えた情報は、一旦、大脳辺縁系の「海馬」の中で整理整頓されてから大脳皮質に送られ、確かな記憶となると言われている。この海馬の働きが弱くなってくると記憶(情報)の定着ができにくくなる。これも、急にはやってこない(急にやってきたらすぐ病院へ行くべきだ)。気が付かないうちにそうなっている。
「段取り」も同じ。これは脳の「前頭連合野」というところがつかさどる。さまざまな記憶から必要な要素を引き出し、一次的に保存する。
「ワーキングメモリー」と呼ばれる、この機能が低下すると、自分の意志で行動を計画することができにくくなる。だから、どうしても従来の「手順」に頼ってしまう。「手順」から離れようとしないし、離されると、次にどうすればよいかわからなくなり、途方にくれることになる。
こうした『脳力』の衰えは、人によって個人差はあるにしても、必ずやってくる。マーケティングの世界でも、不確かな世代論の前にこうした「衰え」に対応することで成果を上げることができるはずだ。
マーケティングと脳科学の関わりについては「ニューロマーケティング」と呼ばれ、いろいろな本が出ている。まだ諸説があり、これからさまざまな検討が必要であろう。しかし、マーケティングやコミュニケーションについて言えば、以下のことははっきりしている(多くのシニアが体験し、困っているからだ)。
「小さい」文字は読めない
文字でしか伝わない情報も多いが、文字が小さいと、まず、読む気がおこらない。たとえ目を細めて、読めたとしても、脳に情報がインプットされない。「近眼」と「老眼」の違いは、老眼は見えないことで脳が混乱し、情報の受け入れを拒絶することだ。「目」が疲れるのではなく、「脳」が疲れる。
「長い」文章は理解されない
前に読んだ文節が記憶できないからだ。長い文章に出会ったら、何度も何度も少しずつ文節を読んで理解しなければならない。
読めても意味がちゃんと取れない。誤解される恐れがある。ふつうはその前に読むことを投げ出してしまうだろう。
長い数字の列も同じ。「シリアルナンバー」など、10桁を超える英数文字列は「悪魔の呪文」である。どこがユーザーフレンドリーだ。自分たち都合で決めている。
「手順」を外さない
縦書きに慣れた世代なら縦書きにする。縦書きが難しいなら、できるだけ、一行の文字数を減らす。そうすることで目=脳が「ひとつかみ」(英語ではchunk=チャンクというらしい)する量が少なくて済む。
新聞は縦書き、しかも一行11~14字くらいで書かれている(ちなみに日経は11文字)。日本語はそうすると、すらすら読めて頭に入りやすい。小さい文字を左右いっぱいに書くのは「読むな」と言っているのと同じである。
「雑音」を増やさない
脳力が衰えてくると、いろいろな情報や約束事を脳の中で統合して、自ら進路を探して行動することが難しくなる。
「これくらいわかるだろう」「ジョーシキ」は非常識である。大切なところ、行動を求めるところは、要素をクラッタ―化せず、ゆとり(余白など)を持もたせ、目立つように。
駅のトイレの案内は、デザイナーではなく、何度も、何度も同じ事を聞かれる駅員が作るべきだ。そうすれば、決しておしゃれでも、ハイセンスでもないが「誰が見てもわかりやすい」案内ができるからだ。
次回へ続く
※今回より、津川の後任、倉内が書き継ぐことになりました。よろしくお願いいたします。
倉内直也
シニアマーケティング (315) シニア企画 (299) アクティブシニア (55) デジタルシニア (25) ワーキングシニア (19) プレシニア (18) 50代 (16) 定年 (16) 商品企画 (15) コミュニケーション (14) 65歳以上 (14) 介護 (13) スマートフォン (12) ボランティア (12) 次世代シニア (11) 製品開発 (10) 人生100年時代 (10) バリアフリー (9) 健康 (9) 団塊の世代 (8) 健康寿命 (8) 地域貢献 (8) ケアシニア (8) 単身世帯 (8) 社会貢献 (8) 同居 (7) リフォーム (7) Hanako世代 (7) 社会参加 (7) ギャップ・シニア (7) 加齢現象 (7) ネットショッピング (6) きこえにくい (6) 有訴者 (6) 交流 (6) ユニバーサルデザイン (6) 近居 (6) ディフェンシブ・シニア (6) 老老介護 (5) おひとりさま (5) ウォーキング (5) レクリエーション (5) 読みやすさ (5) 文字情報 (5) 買い物難民 (5)
2022年7月28日
2022年6月29日
2022年6月6日